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【映画】『灼熱の魂』(ネタバレ)

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あらすじ



初老の中東系カナダ人女性ナワル・マルワンは、ずっと世間に背を向けるようにして生き、実の子である双子の姉弟ジャンヌとシモンにも心を開くことがなかった。
そんなどこか普通とは違う母親は、謎めいた遺言と二通の手紙を残してこの世を去った。
その二通の手紙は、ジャンヌとシモンが存在すら知らされていなかった兄と父親に宛てられていた。
遺言に導かれ、初めて母の祖国の地を踏んだ姉弟は、母の数奇な人生と家族の宿命を探り当てていくのだった……。

感想

最近は『死ぬまでに観たい映画1001本』という本をリファレンスに、世間的に名画とされている映画を見る機会が多かったんだけど、近所のTSUTAYAでたまたま見つけ、前知識も全くなしで観た本作『灼熱の魂』は、そこらの名画と並べても何ら遜色のない強烈な傑作だった。
少なくとも僕の中では、映画館・DVDで今年観た映画の中では1位、2位を争う作品で、文句なしに特別な映画だ。

ただ、「もう最高なんで、絶対オススメです!!」と声高らかに宣言できないところもありまして。
オススメと言い辛い理由、それは何と言っても、この物語があまりにヘビー過ぎるところにある。
「後味が悪い」というのとは少し違うんだけど、見終わった後、しばらく何も出来ないほどに深刻なダメージを受けてしまう映画なのだ。

言うなれば、『ミスト』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』級の映画。

否、『○○』級と呼ぶのに、もっと適切な作品があった。
ただ、本作を未見の人に“その作品名”を聞かせてはいけないと思うし、「本作を未見の人に“その作品名”を聞かせてはいけない」と言うこと自体が、これまたネタバレになってしまうんだけど、、、
まぁ、気にせずに言ってしまえば、、、『オールド・ボーイ』級の強烈なトラウマ映画でした。。。
(実は今、奥さんが妊娠中で。つい最近、子供の性別がわかったところだったんだけど、もし生まれてくるのが「女の子」だったら、『オールド・ボーイ』という名前を出す事すらおぞましく感じたんだろうなぁ。。。)

さて、「オールド・ボーイ級」という言葉を出してしまったことで、本作の「オチ」の展開について、想像がついてしまった人も少なくないだろう。
それでも、消して「オチだけ」の映画ではないのが、この『灼熱の魂』。
もし、衝撃的なオチが無かったとしても、そこに至る過程だけでも十分にトラウマ級の、ヘビーな衝撃作なのだ。

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本作は、ある双子の姉弟が母親の遺言を果たし、母の人生の謎に迫るミステリー。
母親の遺言の内容は「二つの手紙を、それぞれ「父」と「兄」へ渡してほしい」というもので、死んだと聞かされていた「父」と、存在すら知らなかった「兄」を探す中で、姉弟が母親の人生を追体験する様が描かれる。
「父」と「兄」を探す双子の視点と、母親であるナワル・ワルマンの若き日の視点が交互に描き出される構成が印象的。
そして、話の節目ごとに章立てのタイトルを出す演出が、登場人物を突き放し、事実だけを淡々と描いている感じを強調させていて、本作の演出として見事にはまっている。

まあ、本作のような「ある女性の一生追体験モノ」の物語は、古今東西問わず様々に存在していて、それこそ『嫌われ松子の一生』や『八日目の蝉』、小説だが『殺人鬼フジコの衝動』など、日本の映画・小説でもよく見かけるテーマでもある。
ただ、そんな作品群と比べても、本作『灼熱の魂』のナワル・ワルマンの人生は、とにかく桁違い。

初っ端から、宗教的に対立する相手との子を妊娠→駆け落ち途中に待ち伏せていた兄が、交際相手(子供の父親)を目の前で射殺→出産は許されるも、出産の直後に息子と引き離され、遠い町の大学へと通わされることになる、という日本では想像もつかないような展開が繰り広げられる。
その後、内戦に荒れる国家に振り回され、思想に染まったナワルは、暴力に曝される側から、暴力を行使する側の暗殺者へと転身し、ある政治家を暗殺→政治犯として15年の禁固刑を受け投獄→投獄期間中、拷問人による暴行を毎日受け続ける→拷問人の子を妊娠→獄中出産。
と、怒濤の人生が続く。
15年もの長期に渡り、人間の尊厳を踏みにじられ続け、それでもナワルが「死」を選ばなかったのは、きっと「引き離された息子を、いつか必ず迎えに行く」という約束のため。
でも、そんな風に「たった一つの希望」を胸に生き抜いたナワルに対し、現実は、これ以上ない悲劇を与えるのだ。。。

ちなみに、ナワルの人生を追体験するに当たり、母親の過去を積極的に追う姉と、「遺言なんて無視して、普通に弔おう!」と主張する弟の対比構造もあるんだけど、オチを知った今となっては、弟は「過去を追えば“知りたくない事”と向き合わなければならない」ってことを本能的に察していたのかも。
母親が毎日のようにレ○プされる日々を過ごしていたことや、“その後の展開”は、娘よりも息子の方が、より一層ヘビーな話だからなぁ。。。

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さて、ここからはオチに関するネタバレに触れることになるのだが、いつものように「ネタバレを知りたくない人は観ないでね!」という以上に、オチについて不快感や嫌悪感を抱く人も少なからずいると思います。
その点ご理解の上、お読みください。


母親が拷問の末に妊娠したことを知った双子は、その時に生まれた子供こそが「兄」なのだと思い、まだ見ぬ「兄」に対し同情する。
しかし、さらに母親の人生を追う中で、その時生まれた子供が「双子」であることを知ってしまう。
つまり、自分たちこそが暴行の末に生まれた子供だったということ。
そして、罪人を繰り返し犯し続けるような拷問人こそが、自分たちが探していた「父」だということを知ってしまうのだ。

そしてここで、絶望的な事実に打ちのめられそうな姉弟をさらに追い込むように、物語は姉弟に対し「ある数式」を突きつける。

1+1=1

この数式の真意がわかっった時、姉弟は、そして本作を観ていた観客は言葉を失い、呼吸を忘れてしまう。それほどに悲劇的で、絶望的で、あまりに重過ぎる答えだ。

ナワル自身、釈放され、知り合い全てを避けるようにカナダへと移住し、二人の子供を育て上げた後、ようやく訪れた安息の日々の中のふとしたきっかけで「真実」に気がついてしまう。
そして、自らの命を停止させるように、そのまま死を迎えてしまう。
(このあたりの描写も本当に見事で、映画の冒頭の「ギラギラとした少年の目」と「アップになるタトゥー」の印象的なカットが、物語の円環を閉ざすという構成の完成度は、本当にすごい!)

真実を知った双子も、まるで母親の胎内へ戻るかのように、プールに飛び込み、抱き合い、ギリギリのところで癒し合う。
それほどに真実は過酷で、安易に「救い」に溢れたりはしないのだ。

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ただ、本作が本当に素晴らしいのは、死の直前にナワルが残した遺言、つまり「二通の手紙」は、決して絶望の産物ではないというところにある。

父親へ
じきにあなたは沈黙する。
私はすぐに気づいたのに、あなたは気づかなかった。
差出人:収容番号72番、あなたの娼婦

そして、
息子へ
これは拷問人への手紙ではない。息子への手紙だ。
あなたが生まれたときに決めたのだ。何があってもあなたを愛し続けると。
愛を込めて、あなたを抱きしめる。
差出人:収容番号72番、あなたの母


この2通の手紙を受けとった「父と兄」もまた、知る由もなかった真実に打ちのめされることになる。
自分が行った行為のおぞましさに打ちひしがれ、「彼」もまた言葉を失う。

しかし、これは決して復讐ではなく、まぎれもなく「母の愛」の手紙。
子供たちはみな傷ついたし、これから先の人生において、全てを忘れて生きて行くことなど出来るはずがない。
当然、苦しむこともあるだろう。
それでも、ただ一つ間違いないことは、ナワルの「母の愛」による「許し」は、暴力の連鎖を終わらせたということだ。

思い起こせば、ナワルの人生ははじめから暴力の中にあった。彼女自身、暴力を振りかざしたこともあり、さらなる暴力をその身に受けた。
彼女の周りには常に暴力があり、暴力はさらなる暴力を、そして悲しみはさらなる悲しみを呼んだ。

このような「暴力の連鎖」を描いた映画は多く、ほとんどの作品において、連鎖から抜ける方法は「死」しかない。
(僕の人生ベスト映画の1本でもある『息もできない』なんかもまさにそういう話です!)

本作でも、連鎖の終わりにナワルの「死」があるのは事実なんだけど、本作において暴力の連鎖を止めたのは、「死」ではなく、死の直前にナワルが下した「許し」であるという点が本当に素晴らしい。
そして、ナワル自身が暴力の連鎖から抜け出すとともに、最愛の「息子」を連鎖から救い出しているという点も、本作の素晴らしさだ。
母としての愛が、あらゆる暴力や復讐に打ち勝った瞬間であり、それができるのが「人間」なんだってことを、痛烈に感じさせる。
いやー、人間って素晴らしい!!人間っていいな!!

残された「父と兄」、そして「姉」と「弟」は、これから先も苦しみ、悩むだろう。
しかし、母の愛に包まれた彼らは、母のように強く生きることが出来るだろう。
「きっと彼らは大丈夫。暴力は、悲劇は、もう終わったのだから。」
それを、予感ではなく、確信できる気がした。

(結局、核心の一言は微妙にぼかして書いてしまった。まあ、あのおぞましい展開は文字に起こすのさえ抵抗があるんです。娘がいないので『オールド・ボーイ』のオチについては言及できるんだけど、既に、僕に「母」はいますからねぇ。。。

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というわけで、本当に衝撃的だった本作。
安易に「観てよかった」とは言い切れないほどに、見終わった後に重々しさを残す映画だったし、やはり安易に「オススメ」とは言い切れないほどに、きっつい話だ。

ただ、父と兄を探すミステリー作品として、すごくきっちりと作り込まれた作品で、一瞬たりとも目が離せなず、2時間強の長尺をまったく長く感じさせない点からも、純粋に「おもしろい映画」であるのは間違いない。

不安感をあおるようなレディオヘッドによる主題歌もすさまじくかっこ良く、先述した「章立て」演出もオシャレ。
映画としての完成度の高さだけを見ても、ダントツに優れた作品だった。

『ミスト』『ダンサーインザダーク』『オールド・ボーイ』という名前を引き合いに出しているので理解いただけるとは思いますが、観るために相当な覚悟が必要な一本。
しかし、その覚悟にこたえるだけの傑作であることは、自身を持って宣言できる。

はっきり言って本作の欠点は、「ナワルの人生があまりに壮絶すぎる点」「話の構成があまりに出来過ぎな点」を、作為的なものに感じる(リアリティが欠落しているように見える)ことくらい。
言うなれば、「完成度が高すぎること。」以外に、批判のしようがない作品なのだ。

というわけで、散々長ったらしい文章を書いておいてなんですが、息を飲む映画を観て魂を震わせたいなら「黙ってこれを観ろ!」と言いたい映画なのでした。

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