終章_虹のトンネル(4) (完) | クルミアルク研究室

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沖縄を題材にした自作ラブコメ+メモ書き+映画エッセイをちょろちょろと

「わたまわ」エピソードは基本的にすべて「沖縄糸満の軽石被害に寄付しようキャンペーン 第3弾」参加作品です。

沖縄・那覇を舞台に展開するラブコメディー「わたまわ」をこちらに転載しています。70から2年後のゴールデンウィークあたりの設定です。サーコのモノローグです。

 

昨晩、なんとあのあとリャオにスイッチが入ってフィニッシュしてしまった。結婚してから初めてだ。だって、ライカは結婚する前に授かった子供だから。
「昨夜はすみませんでした」
リャオが謝ることないよ、ベッドに誘ったのはあたしだ。でも最後まで行けるとは思わなかった。
「……ひょっとして今回も大当たりですか?」
そうかも。ジングが、トモが名付け親になってくれないのがとても残念です。
「いいじゃない、トモって名前にしようよ。男女どっちでもいける名前だし」
それ、いいね。トモもきっと喜んでくれる。

雨が降ったせいで空に虹が架かっている。しかも二重に。まるでここから那覇向けにトンネルが繋がっているようだ。

 

 

 

リャオがストーンズの“She's A Rainbow”を口ずさむ。あたしも側で一緒にリズムを取る。


彼女は虹みたいな人だ。空を鮮やかに染めていくよ、どこもかしこも。

……ということは、今度は女の子なのかな。あけみさんに似るといいな。

あたしたちは歩いている。ライカがトテトテッと走って行って転ぶ。リャオが追いかけて抱きかかえ、こっちに戻ってきた。彼はライカを肩車する。キャッキャとライカが喜んでいる。
「神様の恵みはすごいよ。この私に子供がいるなんて」
あきれた。ライカに髪の毛を引っ張られながらよくそんなこと言えるね? あたしだったらすぐ怒るところだ。
「ライカ、あれ、虹だよ、虹。よく覚えとけ」
そう言いながらリャオはライカを降ろした。またトテトテッと駆けていく。その繰り返し。沖縄に帰ったら、宜野湾教会で彼の幼児祝福式の準備だ。リャオはまだ、“あけみさん”で臨むか“あきお君”で臨むか決めかねている。教会側はジングから連絡を受けていたそうで、どちらでも歓迎するというメッセージをくれた。
「ライカもそうだけど、産まれてくる子が宣教師になりたいって言ったらどうする?」
えー、どうしよう。でも、あたしたちには止められない。すべては神様の最善なのだから。
「そう、神様の最善だよ。私を受け入れてくれる人がいて、一緒にストーンズを口ずさめて。なかなかいい人生だ」
よかった。リャオがそう思って生きてくれるから、あたしも一緒に生きていける。

「リャオはあたしの命の恩人です」
「サーコは私の一部分です」
あたしたちは互い微笑む。うん、なかなかいい人生だ。
「先月、通信制大学に申し込みました。たぶん秋から大学生」
あらま、おめでとう。MBAへの第一歩だ。
「でも、もしトモが産まれたら、サーコに育児の負担が増えるね」
それは、しょうがない。でもきっと周囲が助けてくれるよ。

ライカは道の真ん中に座り込む。
「こらこら」
舌打ちしてリャオが歩み寄る。するとライカがニマッと笑ってまた走り出す。あたしたちは追いかける、いや、あたしは走ってはいけないのかも。少しだけ立ち止まって虹を見上げた。薄くなりながら虹はなおも視線の先にある。

さあ、戻ろう、那覇へ。あたしたちの故郷へ。
そう、あたしたちは帰るんだよ。虹の輝く街に。人々がみんな輝く、あけもどろの街に。
あたしは家族に手を振る。家族はあたしを待ってくれている。
ほら、並んだよ。一緒に歩こうね?

ゆっくり足取りを整えながら、あたし達は虹のトンネルを潜ろうとしていた。

(終章_虹のトンネル FIN)
(小説「わたしの周りの人々」FIN) ---ご愛読誠にありがとうございました!---

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青春小説「サザン・ホスピタル」などリンク先はこちらから。サザン・ホスピタル 本編 / サザン・ホスピタル 短編集 / ももたろう~the Peach Boy / 誕生日のプレゼント / マルディグラの朝 / 東京の人 ほか、ノベルアップ+にもいろいろあります。
 

小説「わたまわ」を書いています。

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「わたまわ」あらすじなどはこちらのリンクから:
当小説ナナメ読みのススメ(1) ×LGBT(あらすじなど) /「わたまわ」ナナメ読みのススメ(2) ×the Rolling Stones, and more/当小説ナナメ読みのススメ(3)×キジムナー(?)