18_首里にて | クルミアルク研究室

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沖縄を題材にした自作ラブコメ+メモ書き+映画エッセイをちょろちょろと

沖縄・那覇を舞台に、沖縄人女子高生サーコ(本名 比嘉麻子)と韓国人宣教師トモ(本名 キム・ジング)と帰化中国人でLGBTな貿易会社の副社長“あきお君”=“あけみさん”=リャオ、3名の恋愛模様を描くラブコメ「わたまわ(正式名称 わたしの周りの人々)」。今回はトモとサーコがクリスマスにホテルでランチする回をお届けします。

本来このエピソードは、那覇泊港にあった「とまりん」のホテルを舞台に構想し発表していました。が、2021年10月に閉館してしまいました。それで首里ちかくに位置する別のホテルを舞台に書き直しています。アルファポリスの掲示板にも書きましたが、ハンモックカフェがあるんですよ。感染症がなければトモ君が昼寝していたことでしょう。
今回はサーコのモノローグです。お試しバージョンとして小説ながら目次を作成しました。クリックすると各意味段落へジャンプします。

 

目次
1-1.クリスマスデート
1-2.ジング氏、サーコに物理学の質問をする
1-3.ジング氏、ビックバンを解説する
1-4.ジング氏、原子モデル構造を解説する
2-1.リャオのうわさ話
2-2.噂をすれば何とやら

 

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1-1.クリスマスデート

 

あたしまだ16歳ですが、年を取るごとにあっというまに月日が流れるように感じます。今年も歳末ですか。早いですね。
トモとは、先月末にお姉さん(ミヨリさん)へ誕生日プレゼント選んで送ってからは全然会ってない。大学のレポート、通信教育宣教師コースの課題(英語でめちゃくちゃ大変らしい)、所属教会のクリスマス行事に忙殺されているようです。
どうしよう。今年は25日が土曜日だから学校が一日早く冬休み開始ですよ。それなのに彼氏に会えないなんて。あー、せっかくの冬休み。友達と映画でも行こうかなあ。

と思ってたらなんと、トモからラインが来ました。
――25日、予定空きました。夕方からは教会聖歌隊の練習ですが、それまででしたら時間があります」

やった! トモとクリスマスにデートできる! これはたぶん、二度とないチャンスだ! 早速段取りを考える。トモがこちらへ来れるのは午前から午後3時くらいまでだよね。じゃ、どこかでのんびりランチする?
ということで、なんと予約を取ってホテルビュッフェランチです。トモがおごってくれるって! すごい。こんなの初めてだ。

12月25日 クリスマス

今回、バス一本で帰れるところのホテルでランチなので思い切ってヒラヒラなベージュと白の重ねレース地スカートにしました。薄緑の長袖のブラウス重ね着、茶色の革靴、リャオさんからいただいたペリドットのイヤリング。うん、これでいいでしょう。
11時過ぎに、首里のホテルで待ち合わせ。ここのレストラン、年中緑が映えるロケーションだが今日はちょっと曇っているようです。でも、いいや。クリスマスにトモとランチできる、それだけで幸せ。
あ、トモがバイクで来ました。ここから教会へ直行かもしれないので、パーカーに長袖の白シャツ、紺のスラックス。イケメンは何着ても似合うよ。いいなあ。あたしも釣り合いが取れる容姿ならばよかったのに。
11時半きっかりにレストランに入り、窓際の席へ案内される。ここのビュッフェは品数が多くて食事も美味しくて、オリジナルビネガーやホテルお手製スパイスオイル、それにピクルスが一押しなんですよ。ゴーヤーピクルス、大好き。加えてトモと語り合いながらデザート三昧だ。なんて素晴らしいクリスマス。

 

1-2.ジング氏、サーコに物理学の質問をする

 

「本当はディナーに連れて来たいんですけど」
そうそう。天気が良ければ那覇の夜景と星空が見えるの。ロマンチックだろうね。
「ところで、サーコはどうして夜空が暗いのかわかりますか?」
え? 宇宙に闇が多いからでしょ? それがどうかしたの?
「では質問。宇宙にはどれだけの星があるでしょう?」
うーん、地球上の人口よりは多そうだよね。
「それらの約半分以上が恒星だとします。そしたら、すごく明るいでしょうね?」
そうだね、まぶしくて仕方がないだろうね。
「じゃ、なぜ、夜空は暗いんでしょう?」

うわ、考えたこともなかった、そんなこと。
必死で考える。確かに夜空には星がいっぱいある。でも、それぞれには間隔がある。
「星と星との間に間隔が空いてます。空が広いから、星がたくさんあっても闇の方がおおいです。だから夜空は暗いのだと思います」
「その答えはちょっと不十分です。正解は、宇宙が速い速度で広がり続けているから、です」
へー、ずっと、現在も、宇宙は成長しているってことですか?
「そういうこと。これは、宇宙にある銀河の線スペクトルを分析することで証明できます」
すごい! 知らなかった!

「では、成長し続ける宇宙の最初の姿を考えてみましょう」
トモは、皿の上にあるバラの形をしたクッキーを指差して言った。
「これが現在の宇宙だと仮定します。時間を巻き戻せば宇宙の最初の姿になるはずですね?」
それは、つぼみになる、と言うわけではないね。えーっと、……種になる?
「いい表現! そう、膨張する宇宙を過去に遡ると、宇宙は一点に収縮する」

 

1-3.ジング氏、ビックバンを解説する

 

トモはコーヒーを一口啜って話続けた。
「サーコはビッグバンと言う言葉を知ってますか?」
よく聞きます。物理の授業でさらっと触れたような。
「宇宙は約137億年前に誕生したという考えが現在の主流です」
トモはクッキーを割って、粒々になったひとつを取り出した。
「これが、サーコの言う種と思って。宇宙の初期は高密度で高温な火の玉だったと考えられています。これがビックバンモデルといわれているものです」
トモはナップザックから聖書を取り出した。最初のページを開く。

旧約聖書「創世記」第1章第1-3節:
はじめに神は天と地とを創造された。地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。 神は「光あれ」と言われた。すると光があった。

「これがビックバンの記述と言われている箇所。実際、物理学者にはクリスチャンが多いんですよ」
うーん。トモが、神様が宇宙を創造されたって言いたいことは分かるんだけど、なんかまだピンとこない。もっと別の事象はありますか?

 

1-4.ジング氏、原子モデル構造を解説する

 

「じゃ、こう考えてみましょうか」
トモはまた割れたクッキーを取り出した。粒々をひとつひとつ摘まむ。
「これが物質を形作る原子のうちのひとつとします。原子モデルの構成、覚えてる?」
はい、小さくて重い原子核のまわりを軽い電子が電気力による引力を受けて円運動しています。原子核の中身は陽子と中性子。

ヘリウム原子モデル
(image:Helium Atom,Svdmolen/Jeanot (svg converted by King of Hearts) (japanesed by すじにくシチュー))
(This file is licensed under the Creative CommonsAttribution-Share Alike 4.0 International license.)

「すべての物体がそういった原子モデルで成り立っていることは理解できる?」
はい、理解します。
「電子は電気力による引力を受けて円運動している、しかし、電子はある条件を満たすとびとびの円軌道上にしか存在できない。その軌道上では電子は電磁波を出さない(定常状態)。この時の電子のエネルギーをエネルギー準位といいます。ここから先は量子力学になるので詳しい説明は省きますが、」
トモは摘まんだクッキーの粒を指にくっつけて食べちゃうと、コーヒーを一口飲んで、言いました。
「この値が少しでも狂うと、地球上の物体はすべて崩壊します。私たちは影も形もなくなります」
ひゃー! そ、そうなんだ?

 

原子モデル図
(image:Photo by Photoholgic on Unsplash)

 

「元素のひとつひとつの重さもそう。一つでも今定められている重さから足りなくても、オーバーしても、その物体の構成はパーです。元素だけじゃない、太陽系における地球の位置づけが少しずれただけで生命は存在できないし、ほかの惑星の配列が今の順番じゃなかったら、地球は隕石だらけになるでしょう」
それって、緻密なバランスの上にあたしたちが居るって事だよね?
「そういうこと。奇跡のそのまた奇跡がないと、私たちは存在し得ないんです。どう? 神様、信じたくならない?」
ああ、なるほど。そう言われれば、うなずくしかないかも。トモはあたしを見てニッコリした。
「今日はこれくらいにしておきます。せっかくのクリスマスですから」

 

2-1.リャオのうわさ話

 

トモの話が落ち着いたので一度席を中座してトイレを済ませる。
戻ってくると、ビュッフェコーナーの中華料理の一角に角煮サンドがセットされていた。早速取って自分のテーブルに運ぶ。
「あれ?」
トモも気づいたらしい。彼も席を立ってめぼしい料理を二、三取ってきた。ちょっと思い出したことがある。
「そういえば、リャオさんの話、聞いた?」
あたしはトモに、リャオさんが学歴コンプレックスを持っているという話をした。
「それ、本人から一度だけ聞きましたよ。大学行こうか迷ってるって。ですが、沖縄には経営学が専攻できる夜間大学がないんです。私が通っている国立大学には夜間部に経済学専攻ならありますが、勧めませんでした。彼は簿記免許保持者ですから、学ぶなら経営学の方がいい。そしたら、通信教育にしようかな、と言ってました」
あたし大学のことはよくわからない。トモはどう思う? 心理学の学士さんでしょ? すると彼は右の顎のあたりをポリポリ掻きながら言った。
「リャオが本当に欲しいのはMBA(経営学修士)です。専門学校から目指す方法もあるようですが、基本的に大卒の資格がないとMBAは難しい。ビジネスの世界で高卒だと厳しいのも事実です、とくに外資系では」
ふうん。やっぱり世間では高卒は厳しいんだね。
「そうそう、リャオさんがさ、会社でお世話になっている税理士さんに、MBA のことを話題にしたらしいの。そしたら、『金城さんはMBAより調理師免許取った方が早いですよー』って言われたんだって」
……トモ、ひょっとして吹いた?
「ぐっ、いや、ちょっと、ツボりました」
言っとくけど本人、冗談とわかってても、かなり落ち込んでたからね。

 

2-2.噂をすれば何とやら

 

あたしたちはよく食べた。たっぷり二時間くらい滞在してデザートも大いに楽しんだ。もう夕ご飯が入らないかもしれない。レストランを出て移動する。
「よお、お二人さん」
噂をすれば何とやら。なんと、スーツ姿の“あきおさん”がいた。白ネクタイをつけている。
「リャオ? どうしたの?」
「これから沖縄の大企業さんとこの披露宴がありまして」

二人の会話をよそに、あたしは鼻をくんくんさせた。
とても微かにだが、あの香りがする。シトラス系だけどスパイシーな、ある種クラッときてしまいそうな香り。

リャオさんはあたしたちを手招きした。ちょうど金城社長がやってくるタイミングだ。社長さんがあたしに気づいた。
「社長さんこんにちは」
「おや麻子さん、久しぶり。元気そうだね。こちらは?」
「韓国人のキムさん。麻子さんの家庭教師です」
リャオさんが社長さんにトモを紹介して、トモは社長さんと握手した。
「キムです。お目にかかれて光栄です」
リャオさんが説明を加える。
「彼、来年から兵役でしばらく沖縄を離れるので」
「そう、大変だね。無事に戻れるといいですね」
トモは照れくさそうだ。道着姿で会社の建物に居た件はバレてないらしい。あたしは社長さんに声を掛けた。
「では先約があるので失礼します」
「麻子さん、また遊びにいらっしゃい」
あたしたちはリャオさんと社長さんに軽く会釈してその場を後にした。

トモはバス停でナップザックから小さな袋を取り出す。
「これ、昨日のイブ礼拝で教会の参列者に配ってたものです」
あらま、星形のオーナメント。かわいい。机に飾っとくね。
「できれば、正月に波上宮の初詣、一緒に行きたいな」
「初詣?」
とたんにトモは渋い顔をする。偶像礼拝だと言いたいのだろう。あたしは言葉を継ぐ。
「来年、いなくなっちゃうんでしょう? リャオさんと三人で出かける機会もなくなっちゃうから」
「……考えときます」
「では、よいお年を」
あたしたちは互いにうなずき、手を振って別れた。

(18_首里にて FIN) NEXT:19_初詣

 

第一部目次 ameblo

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青春小説「サザン・ホスピタル」などリンク先はこちらから。サザン・ホスピタル 本編 / サザン・ホスピタル 短編集 / ももたろう~the Peach Boy / 誕生日のプレゼント / マルディグラの朝 / 東京の人 ほか、ノベルアップ+にもいろいろあります。

 

小説「わたまわ(わたしの周りの人々)」を書いています。

 

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「わたまわ」あらすじなどはこちらのリンクから:一部exblogへ飛ぶリンクもあります。
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