この物語は、愛あり、涙あり、笑いあり、精神的バイオレンス満載の、いわばフィクションである。


超高層マンションEX 第五話 変人と一般人


現理事長の片岡恵は5年前、ある詐欺商法で1千万円の借金を背負った。
派遣会社の役員を務める旦那は超が付く程の生真面目な男。
恵は旦那に相談する事も出来ず、ずっと一人で悩んでいた。
その悩んでいる様子に気付いた中川貴美子は、ある提案を恵に持ち込む。
もともと『階級制度』に対して批判的な考えを持っていた恵。
『階級制度』の中では第2のポジション38階という恵がこうでは
いずれ『階級制度』も駄目になってしまう。
中川貴美子は善意を前に出しながら、恵の1千万円を肩代わりした。
そこからである。恵が貴美子の言いなりなってしまったのは・・・。

久里栖が弥栄に、自分がマンションで居られなくなる前に
弥栄が学校に来れなくなる方が先かもね、との脅しを掛けている時
3年生のクラスでは賢斗が同級生にからかわれていた。
「ナンシーの息子はパパのたばこと同じ名前のケントーー!!」
「ナンシーにケントにオヤジはマイケルジャクソンか~!」
「お前の家超変だよ。変人家族。」
前日の小学生会以来、マンションの主婦達はナンシーの話題で持ちきり。
なかでも「ナンシー田中です。ナンシーって呼んでね」は笑いのネタだ。
賢斗は久里栖と違って大人しい性格。
同級生達の罵声に対しても、何の抵抗も出来ずに落ち込んでいた。
「お前ら止めろよ!!」
みんなが罵声を浴びせる中、いかにもお坊ちゃんと言うような少年が中傷を割った。
「なんだよカズキ・・・別に良いじゃんよ。」
カズキと呼ばれたその少年は、他の同級生をキリっと睨むと賢斗の前に立った。
「大丈夫?みんなキミの名前が珍しいんだよ。」
カズキがニコっと笑うと、今まで落ち込んでいた賢斗もニコッと笑い返した。
カズキ、本名は片岡和樹、38階に住む。

家に帰った賢斗は分かり易い位のものだった。
食欲も無く、部屋に籠もったまま出てこない。
ナンシーは小学生会の影響が学校にも及んでいるのだと確信した。
「クリスは学校で何か無かった?」
この家で一番しっかり者なのは久里栖。
ナンシーはさほど心配はして居なかった。
「あったけど解決したから大丈夫。
 それよりママの方こそ何かあるんじゃない?」
あったとしても言える訳がない。
だって久里栖は自分の子供・・・何をしでかすか分からないのだ。
多分『解決した』も本当の事だろう。
ナンシーはなんとなく想像が出来た。
「なんにも無いわよ。
 それより賢斗が心配ね・・・。
 少し様子を見てくるわ。」

部屋の中では賢斗がベッドの中で蹲っていた。
「学校行きたくなかったら行かなくて良いのよ。」
ベッドの足下でナンシーが呟いた。
「そんなんじゃないよ。
 ・・・・僕の家って変なの?」
賢斗は布団を頭から被って顔も見せずに質問した。
「変な方が良いじゃない!」
「その答えは全然理論的に説明できてないから納得できないよ。
 っていうか子供だと思って適当に答えるの止めてくれない?
 そういうのって大人のエゴだと思うんだ。
 なんでもかんでも適当な答えで子供が納得すると思ったら大間違いだよ。
 そういうことから駄目な大人って生まれるんじゃないかな?」
賢斗は思った以上に早口で答えを否定した。
「あらやだ、知らない間に賢斗も大人になっちゃったのね。
 なんだかママ寂しい。
 でもちゃんと説明しないと駄目ね!
 ・・・・・・
 例えば大勢の人が、争いや差別をした方が良いって言ってたらどう思う?」
賢斗は少し悩んで答えた。
「変だと思う。」
「でも殆どの人が良いって言ってたら
 賢斗の方が変だって思うよ。」
「何で?」
「人はね。正しいか正しく無いかじゃなくて。
 みんなとは違う考えの人を変だと思うの。
 でもね、全然違う意見を言い出さないと何も変わる事が無いのよ。
 みんなが争いや差別が良いって言ったとしても
 それを終わらせる事が出来るのは、それが間違いだって言える、みんなから見て変な人なの。
 だから変だって言われる事は、悪い事なんかじゃないの。
 もし賢斗が変だって言われたなら、それは賢斗が何かを生んだり変える力があるって事なのよ。」
賢斗は覆いかぶっていた布団を勢いよく捲りあげた。
「そっか!じゃあ僕変で良いや!!」
「やだっ、大人だと思ってたら、まだまだ子供ね。
 ママ安心しちゃった。
 ねぇ、ママにハグして!!そしてキスして!!」
賢斗はナンシーに抱きつくと、頬にキスをした。

みんなが寝静まった頃
超高層マンションの下には一台の黒ずくめの車が停まっていた。
その横には夜というのにサングラス、黒いスーツの男が
双眼鏡を片手に、携帯で何かを話している。
「会長ですか。
 先ほど確認が出来ました。
 本人の様です。間違いありません。
 来週まで様子を見て、直接接触を図ってみます。」
男は携帯を切ると、もう一度双眼鏡を覗き車に乗り込んだ。


次回予告
エスカレートする田中家への攻撃。
その時目覚めるナンシーの中の秘密
そして敵との接触によって分かる事実とは?
北島真奈美が仕掛けたホームヘルパー本田さんへのお願い
それが今明らかに!!
次回超高層マンションEX 第六話 覚醒
天を仰げば敵ばかり、地を見下ろせば亡者共
この地に案ずる場所はあるのか?
ハグして!そしてママにキスして!!
この物語は、愛あり、涙あり、笑いあり、精神的バイオレンス満載の、いわばフィクションである。


超高層マンションEX 第四話 戦争勃発


弥栄の母である池田佳美は6年前、宝くじのバラ券で1億円を当てた幸運の持ち主。
それを資金の一部にしてこのマンションを購入。
しかし、マンション内の中には『実力の無い31階』や『生活バランスの悪い31階』と言われていて、本人もそれを言われている事を知っている。
だからこそ佳美はこの『階級』システムが好きなのだ。
いくら下の階で自分の家よりも裕福な暮らしをしていようが
このマンションで大事なのは『階数』。
自分より裕福な暮らしをしてようが、自分の方が立場が上なのである。

前日、田中家は全員ナイーブになっていた。
子供達は小学校で、ナンシーは小学生会で、ダーリンはプライベートで・・・。
それも1日経てば、大抵の事を忘れてしまうのも田中家。
しかしその日は少し違っていた。
それは子供達が出ていった後、ゴミを出して買い物から帰った時に起こった。
朝出したハズのゴミが玄関の前に置かれていたのだ。
ナンシーは恐れた。
住民達の攻撃に対してでは無い。
ナンシーは自分がまさ子に戻りそうな予感がしたからだ。

北島真奈美の生活は予定で追われている。
殆どプライベートの時間が無い。
しかしその日は久々のオフ。
真奈美のオフ、それは大半を睡眠時間で終わらせてしまう。
久々のオフだったが、その日はホームヘルパーの怒りの声とともに目が覚めた。
「どういう事なの?!
 又ゴミが戻ってるなんて!!」
いつもは大人しい本田さんが大声を荒げてる。
「どうしたの~本田さん。
 そんな大きな声だしちゃって。」
真奈美はボサボサの頭にフカしタバコで起きてきた。
「それが、朝出したハズのゴミが
 玄関の前に戻されてるんですよ。
 可燃ゴミ以外入れてないのに・・・。」
真奈美は2.3服タバコを吸うと
前の貴美子の捨て台詞を思い出した。
『あなたマンションで平和に暮らせないタイプね』
とりあえず起きたので真奈美は出かける事にした。
「ゴミ、会社の周りで出しとくから置いといて。
 それより本田さんに頼みたい事があるんだけど・・・」
真奈美の趣味、それは真実を暴く事。

その頃、下仲岬小学校6年1組では久里栖が男子生徒に囲まれていた。
「久里栖ちゃんって歌上手いよね~。」
「久里栖ちゃんって料理とか作れるの?」
久里栖は前の学校からモテモテだったのだ。
「ちょっと退いてくれる?」
久里栖の容姿とは全く逆で
公家顔の池田弥栄が他の女子2人を連れて登場した。
「アンタ転校早々ちょっと調子のってない?
 26階の癖に。」
「26階の癖に。」「26階の癖に。」
後ろの女子2人が弥栄の後に続くと
男子生徒からブーイングが飛んだ。
「うるさい!!お前らしばきまわすわよ!!
 それより青木、アンタお母さんに言って
 マンションで肩身のせまーい生活してもらおうかしら?」
今までブーイングしていた男子生徒が静まりかえる。
そして久里栖の周りには弥栄と他の女子2人だけになってしまった。
「何階に住んでるとか何?
 ばっかみたい。」
久里栖の言葉に対して弥栄の口元がにやつく。
「馬鹿みたいで結構。
 でもね、アンタがそういう態度をとればとる程
 アンタの親が大変な事になるのよ。
 アンタの親がアンタのせいで苦しんでも良いのなら別だけど。」
すると弥栄は何枚かの紙を久里栖に見せた。
ゴミだらけのベランダに立つ女の写真。
その下には『コミ屋敷に住む横田、住民環境を考え横田は立ち退きを』という文字。
他にも、首の無い鳥を持ち上げてる先ほどの女の写真に
『黒魔術をしている横田、住民の安全の為に早急に退去を』という紙チラシなどがあった。
ちなみに横田というのは、以前このマンションに住んでいた住人の一人だ。
「分かる?
 ルールに従えない人間は、マンション全体の敵なの。
 アンタがあたしに逆らうって事は
 マンション全体にアンタの家が逆らうって事な・・・ゴフォッ!!」
一部の同級生はその光景がトラウマになって女性恐怖症になってしまった。
下からめくる様な見事なボディー。
「こういう女を『寂しがりやの弱い女』って言うんですね、『したがりやのずるい女』って言うのかと思ってました。」
久里栖は永作博美のモノマネをした。

次回予告
遂に始まった小学生会の攻撃。
それ以上に自分自身を恐れるナンシーの秘密とは?
次男賢斗に降りかかる子供達のマンションルール。
賢斗は無事それを打開する事が出来るのか?
次回超高層マンションEX 第五話 変人と一般人
天を仰げば敵ばかり、地を見下ろせば亡者共
この地に案ずる場所はあるのか?
ハグして!そしてママにキスして!!
この物語は、愛あり、涙あり、笑いあり、精神的バイオレンス満載の、いわばフィクションである。


超高層マンションEX 第三話 社会のしくみ


平凡な朝の一幕。
それはその家族にとっての平凡であって、一般的な平凡ではない。
慌ただしく外に飛び出そうとしてるのは、田中家長男の沙夢(さむ)と次男の賢斗(けんと)。
「ちょっと待って待って!!」
二人を呼び止めたのはナンシーだった。
「何?!もう遅れるよ!!
 初日から遅刻なんてありえないし。」
今日は二人の転校日、ちなみに久里栖はとっくに出ていった。
「ねぇ、二人とも何か忘れてない?」
二人はお互いの顔を見合わせると、渋々ナンシーの頬にキスをした。
「じゃあ行ってくるよ!!」
「行ってらっしゃ~い!愛してるわ~!!
 二人とも愛してるわ~!」
田中家の早朝は『ママにキス』で始まる。
ちなみに終わる時も『ママにキス』だ。

その頃10階長越家では、みさきがいつもより30分も前に家を出ようとしていた。
昨日は北島真奈美の登場により難を逃れたが
中川貴美子の怒りが収まった訳では無い。
今日も同じ時間に現れるという予感は否めない。
エレベーターに乗り込むが、背面の鏡を見る事はない。
みさきは1階につくまでの間、じっとエレベーターの先を見つめていた。
エレベーターが1階に到着する。
そこには・・・誰も居ない。
少し安心して自転車置き場へと向かう。
と、その時だった。後ろからみさきに声が掛かる。
「あら、おはよう。
 こんな朝早くからパートだなんて元気ね~。
 若さだけはあるみたいね。」
驚いて振り返ると、そこには31階に住む池田佳美が立っていた。
「はぁ~ビックリした。
 おはようございます。
 今日は用事があって早出なんですよ。」
貴美子じゃない事が分かって、安堵感が広がる。
しかし、その安堵感も次の言葉で一瞬にして無くなった。
「明日の小学生会、会長が出席するらしいわよ。
 会長も最近色々あるみたいだから
 あんまり機嫌損ねないでね。
 って、もう遅いかしらね?
 ホホホホホホホホホホホホ」
小学生会の会長。
それは小学生会を立ち上げた中心人物の一人。
その名は『中川貴美子』。

みさきがブルブル震えながらパート先に着いている頃。
下仲岬小学校では、久里栖の自己紹介が始まっていた。
「品川区から引っ越しして来ました。
 田中久里栖と申します。
 趣味は糸井重里のコピーの書き直し。
 って言っても最近では街に溢れるコピーの駄目出し全般なんですが☆
 特技は永作博美の物真似です。
 そういう事言うんだ・・・・こんな感じです!」
最初教室内の男子達が騒ぎ出したが
途中辺りから教室内は静まりかえった。
久里栖は他の生徒達よりも、そうとう大人びれてるらしい。
「ま、まぁそういう事だからね。
 みんな田中さんと仲良くするように。
 で、席なんだけど、あの後ろの空いてる所にね。」
久里栖が案内された席に着くと
横の女の子が久里栖に話かけてきた。
「あたし池田弥栄って言うの。
 アンタ26階に越して来たんでしょ?
 2日前にお母さんから聞いたわ。
 あたし31階に住んでるから
 これからちゃんとアタシの言う事聞いてよね。」
マンションのルール、それは小学校の中にも浸透していた。

同日午後、田中家に客が訪問してきた。
「はじめまして。
 私38階に住む片岡と言うものなんですが
 おたく、小学生のお子さんがいらっしゃるみたいですから
 このマンションでやってる小学生会に参加なさらないかと思いまして・・・
 小学生会っていうのはですね・・・」
彼女の名前は片岡恵。42歳
14歳の娘と8歳の息子、派遣会社の役員である53歳の夫との4人暮らし。
現小学生会の理事長をやっている。
「あ、聞いてます聞いてます。
 参加しますよ。」
恵は『聞いてます』の一言に少し心臓がドキっとした。
しかし次の『参加しますよ』で、あまり聞いてない事に安心した。
「あら~。そうですか~。
 実は明日、その小学生会の会合がございまして
 もしお時間空いてる様でしたら、明日からなんていかがかしら?」
「大丈夫ですよ。
 では明日。」
ナンシーは知らなかった。
その参加が、自分の『階級』の位置づけ教育という事に。

次の日、ナンシーは小学生会で自己紹介をしていた。
「初めまして!ナンシー田中と申します。
 みなさんナンシーって呼んでくださいね。
 えっと、小学3年生の息子と小学6年生の娘が居ます。」
自己紹介は簡単なモノだった。
簡単すぎる自己紹介に一人の参加者から質問が出る。
「田中さんは何階なんですか?」
少し変な質問だと思いつつ
「26階、2605号室です。
 っていうかナンシーで良いわよ!」
少し会場がざわめいた。
室内には仕様が全く違うテーブルと椅子が3種類置かれていた。
仕様がチープな方程、人数が多く座らされ
仕様が豪華になる程、人数が少ないという不思議な分かれ方だ。
ナンシーはその中間にあるテーブルへと案内される。
そうなのだ。これこそが『階級』。
1階から15階が『下級層』
16階から30階が『中級層』
31階から45階が『上級層』となっている。
しかも上級層になればなる程、その中で『階級』は細分化されている。
そうこうしてる間に壇上には貴美子が立っていた。
「この前言っていた期末テストの対策。
 みなさん考えてきてるかしら?
 10階の長越さん。」
貴美子がみさきに話を振った。
「え、えっと。
 子供達が勉強しやすい様に
 この会場の一部を・・・」
「あっそぉ。」
貴美子はみさきの話を最後まで聞かず、次の話に移った。
「夏休みの予定なんですけど
 夏休みに怠けて成績の下がる子が沢山居ます。
 毎年週二で勉強会をしているのですが
 それでも成績が落ちるのが現状。
 何か対策を練らなければなりません。
 次回までにみなさんで考えて欲しいんですけど
 何か今思いつく事とかありません?
 10階の長越さん。」
再び貴美子がみさきに話を振った。
「え、えーっと、えーっと。
 週二を週三にするってのは・・・」
「あっそぉ。」
このやりとりで、小学生会始まって以来のハプニングが起こってしまう。
「なんかおかしくありません?
 みさきにばかりに振って、肝心な答えを聞かないなんて。
 それに何でこんなにバランスの悪い座り方してるのかしら?」
タブーはいつか破られる。
それを破ったのは他の誰でもない。ナンシー田中だ。
「片岡!この人にちゃんとここでのルールを教えておいて。
 このマンションで住むって言う事を。
 私は私用があるから帰るわ。」
ナンシーの戦いが今始まった。


次回予告
遂にナンシーの戦いに幕が開けた。
それはナンシーだけに終わらない、田中家全員を巻き込む激しい戦いとなる。
その中に味方は居るのか?はたまた全員敵なのか?
そして池田家の過去が明らかに・・・。
次回の超高層マンションEX 第四話 戦争勃発
天を仰げば敵ばかり、地を見下ろせば亡者共
この地に案ずる場所はあるのか?
ハグして!そしてママにキスして!!