この物語は、愛あり、涙あり、笑いあり、精神的バイオレンス満載の、いわばフィクションである。


超高層マンションEX 第八話 争えぬ血


風邪で寝込んでいたナンシー。
それも子供達が帰ってくるまでの間だけであった。
賢斗が家に友達を連れてきたのだ。
「こんにちは、片岡和樹です。」
和樹は大人しく、利口そうな子供である。
「あら~!いらっしゃい!!
 ここにケントが友達連れてくるなんて初めてだから
 ママ嬉しい!!和樹君ゆっくりしていってね!!
 じゃあただいまのキス・・・
 あ、風邪うつっちゃうから今日は無しね!」
ナンシーはフラフラになりながらもご機嫌な様子だった。
「ごめんね。ママいつもあんな風なんだ・・・。」
賢斗が恥ずかしそうに言った。
「羨ましいよ。
 うちのお母さんも、昔はあんな感じで明るかったんだけど
 今はいつもピリピリしてて・・・。
 前に友達を連れて帰った事があるんだけど
 君は何階に住んでるの?なんて言い出して・・・。
 昔のママに戻って欲しいな・・・。」
和樹は今までに見せた事の無い様な悲しい顔を浮かべた。
「・・・・・
 和樹君はママにそれを言った事あるの?」
賢斗は心配そうに和樹の顔を覗き込んだ。
「無いよ。
 だって、ママも色々あるんだろうし
 大人の世界ってもっと複雑な常識を抱えてると思うんだ。」
「じゃあ変な人になれば良いんだよ!!
 僕にもよく分からないけど
 みんなが思ってる常識に合わせてたら何も変わらないんだって!
 でも、それとは違う発想が出来る変な人が
 新しい何かを生み出したり、変えたりする事が出来るの。
 そしたら和樹君のママも元に戻るかも知れない。
 だから和樹君も変な人になって、元のママに戻ってもらえば良いじゃん!」
和樹は賢斗が何を言ってるのかはよく分からなかったが
何が言いたいのかは何となく分かった気がした。
子供達の中で、小学生会の常識が消えようとする兆しが生まれていた。

その頃池田佳美はウズウズとしていた。
みんなの前で、ナンシーをまさ子と呼べるのだ。
まるで外人の様な名前を名乗るナンシー
でも本当の名前は田中まさ子というありふれた名前なのだ。
どうにかしてでも明後日の小学生会には出て貰わなければいけない。
ただ、前回の小学生会の事件があっての話
なかなか参加させるのは難しそうだ。
佳美は少ない知識の中で色々と考えてみるが
何も発想は浮かんで来ない・・・。
どうやら佳美は考えるという事が苦手なタイプらしい。
そうなったら出来る答えは一つ
行動するのみだ。
佳美は思いつくと即行動に移した。
エレベーターが26階に着くと、佳美は無造作にチャイムを数回押した。
ぐったりした様子でナンシー・・・いや、田中『まさ子』が出てくる。
「明日の小学生会なんだけど、参加・・・しますよね?」
ナンシーはしばらく考えた。
中川貴美子は許せない。
しかし、それにこだわった所でどうなるというのだろうか?
別に無視していれば平和な毎日が続く様にも感じれる。
「やっぱり止めとくわ。
 私には合わないみたいだし・・・」
そうこうしていると奥の方から賢斗と和樹が顔を出した。
「こんにちわ」
佳美の『考える事は苦手』、それは知識に関してのモノ。
「あら~、38階の片岡さん所の和樹君じゃないの!!
 二人は仲が良かったのねー。
 でもお母さん同士も仲良くならないとね~。
 なかなか遊べなくなるかもしれないね~。」
抑えようとしていたが口元がどうも緩んでしまう。
ナンシーの考えは甘かった。
これは自分だけの問題では無かったのだ。
「わかったわ。参加します。」
佳美は『考える事は苦手』でも、悪知恵に関しては天才であった。

その頃学校に残っていた池田弥栄は非常に悔しい思いをしていた。
31階に住んでいるのに、学校での権力が失われようとしていたのだ。
それもこれも転校早々調子に乗ってる田中久里栖のせい。
なんとかして仕返しをしなければならない。
久里栖に対して直接的な何かをしたとしても
あの女はそれ以上の何かで仕返しをしてくるに違いない。
何か間接的に痛めつける方法は無いだろうか?
色々考えた所でアイデアは出てこなかった。
どうやら弥栄は考えるという事が苦手なタイプらしい。
そうなれば、まずは調査からだ。
弥栄は久里栖の机の中身をおもむろに探し出した。
しかし転校して間もない久里栖の机の中には何も無い・・・。
一瞬ガクっとした弥栄だが、別の発想が浮かんだのだ。
「無ければ入れれば良いじゃない。」
弥栄は『考える事は苦手』でも、悪知恵に関しては得意だった。


次回予告
さらわれてしまった沙夢。
そこで知らされる田中家の秘密。
沙夢の誘拐で混乱する田中家。
そして今明かされる田中家衝撃の真実とは?!
次回 超高層マンションEX 第九話 幸せのそばで
天を仰げば敵ばかり、地を見下ろせば亡者共
この地に案ずる場所はあるのか?
ハグして!そしてママにキスして!!
この物語は、愛あり、涙あり、笑いあり、精神的バイオレンス満載の、いわばフィクションである。


超高層マンションEX 第七話 見えない影


車の中で北島真奈美は携帯から電話をしていた。
「今日予約を取っている中川貴美子ですが。
 今日って何階の何号室になります?
 前に泊まった部屋があまりよくありませんでしたから
 部屋によっては替えてもらおうかと思いまして。」
真奈美にとっての賭けは成功だった。
確認の住所もスラスラと言える。何せ同じ住所なのだ。

貴美子が来るまでに、現場にカメラを仕掛けなければならない。
時刻は3時30分、設置するにはギリギリだ。
しかし運の悪い事に、渋滞に巻き込まれてしまう。
真奈美は何時に出るか分からないが、帰りの現場を撮る事にした。
それがかえって成功に結びつくとは思いもしなかった。
貴美子がとった部屋の横に、ベッドメイキングのカートが置かれていたのだ。
5時17分、貴美子が男と一緒に部屋を出る。
真奈美は貴美子がエレベーターから降りてくるのを確認すると
その10分後に設置したビデオカメラの撤収へと向かった。
カートは残念ながらそこから無くなっており、真奈美は従業員室へと移動
先ほど置き忘れたビデオカメラが無いかを訪ねると
設置していたビデオカメラが出てきた。
するとカメラは電池が運良く切れていて、何の疑いもなく返して貰う事が出来たのだ。
真奈美は換えのバッテリーをカメラに入れると
エレベーターの中で確認を始めた。
3階のロビーに付いてエレベーターから降りても、真奈美の確認はなお続く。
そしてその瞬間は訪れた。
「映ってる・・・!!!」
二人が一緒に部屋から出て、抱き合いながらキスをした所で映像は消えていた。
真奈美は笑いを堪える事が出来なかった。
駐車場に向かう為、今乗ってきたエレベーターに乗り込む時でさえ
もう一度ビデオを逆戻しして映像を見ては笑ってしまった。
しかし、その行為が自滅に向かう事には気付かなかった。
ウェストゥンホテル3階、カフェ『レイゾンデイト』
その一部始終を中川貴美子が見ていたのだ。

その日、一日中バスタオルを捲いて中川貴美子を捜していたナンシー。
全然見つからないまま、日が暮れる頃には風邪をひいてしまっていた。
家に帰ってダーリンや子供達の顔を見た時には
さすがに自分の中のまさ子は、ナンシーに戻ってしまったのだ。
風邪は一日寝れば治るかと思っていたが
次の日もそれは続いた。
ナンシーは仕方無く、下仲岬病院に行く事にした。
病院では仕方無いが、ナンシーは『まさ子』という名前を封印している。
『田中まさ子』は今存在するべきでは無いのだ。
誰にもバレない様に、サングラス、マスク、黒帽子、黒い服と
逆に目立つ様な格好で待合室で待っていた。
「田中まさ子さ~ん、お入り下さーい。」
内科の待合室に名前が響く。
ナンシーは俯きながら内科の診療室へと入って行った。
その様子をじっと見ている一つの影。
「まさ子・・・ナンシー・・・まさ子?
 お、おもしろくなてきた。」
そこにはパート先の出張フキマーケットで病院を訪ねていた
池田佳美の姿があった。

浮気現場を押さえられた事に気付いた中川貴美子。
今回ばかりは負けを認めざるを得ない。
しかしそれは今すぐに起こる事では無いとも思っていた。
何かで自分を脅してくるタイプの女では無い。
どちらかというと、恥をかかせたいに決まっている。
しかもそれは多分みんなが集まる場所で・・・。
明後日の小学生会に乗り込むに違いないはず
なぜなら自分だったらそうするから。
何か案が無いか考えている時、部屋中にチャイムの音が鳴り響いた。
どうやらキッチンで見るように頼んでいたテレビが届いたらしい。
サイズは小さいモノの、リビングに置いてるモノと同じ型のテレビだ。
設置して貰ってリモコンをつけると
キッチンだけではなく、リビングのテレビも電源が付いてしまった。
リモコンの設定を忘れていて、両方のスイッチが付いてしまったらしい。
貴美子の中で可能性が生まれた瞬間だった。
この勝負、まだ負けと決まった訳ではないという可能性。

学校から帰ろうとしていた田中家長男の沙夢は、いつもと違う事に気が付いていた。
先ほどから誰かにつけられている感じがしているのだ。
後ろを振り返った所で、誰かが居る様子はない。
ただ、どこからか視線は確実に感じている。
沙夢は駆け足で走って、物陰へと身を潜めた。
徐々に足跡が近づいてくる。
足跡が自分の前で停まった瞬間、男が声を掛けてきた。
「田中沙夢君だね。
 今から君の家族に関しての大事な話がある。
 悪いが付き合ってもらうよ。」
男はそういうと、沙夢の口にハンカチを押し当てた。


次回予告
小学生会が沈黙をしている頃
子供達の間では何かが動こうとしていた。
遂に始まる池田家の逆襲。
その逆襲に田中家は対抗できるのか?!
次回 超高層マンションEX 第八話 争えぬ血
天を仰げば敵ばかり、地を見下ろせば亡者共
この地に案ずる場所はあるのか?
ハグして!そしてママにキスして!!
この物語は、愛あり、涙あり、笑いあり、精神的バイオレンス満載の、いわばフィクションである。


超高層マンションEX 第六話 覚醒


ナンシーの幼少期。
ナンシーの実家はボロボロの長屋の一軒にあった。
小さい頃の夢はキャビンアテンダントになって
アメリカ人と結婚する事。
しかし、それも『貧乏』という名の現実によって次々非現実的と気付かされる。
貧乏に対しての不満はさほど無かったのだが
ナンシーの恨みの方向性は、やがて『アメリカ』という国が対象になってしまう。
今では考えられない昔話のひとつだ。

ナンシーが買い物を終えて、駐輪場からエントランスに向かっていると
自分の足下に不自然な影が出来ているのに気付いた。
ふと上を見た時にそれは起こった。
バシャーーーーーーン!!!
ナンシーの全身はずぶ濡れだ。
相当ショックなのか、ナンシーは両手の買い物袋を地面に落とした。
・・・とその瞬間信じられない速度で走り出した。
水を掛けた場所とみられる非常階段を猛スピードで駆け上がる。
「ひっ!」
あまりの光景に、水を掛けた本人であろう人間の声が聞こえる。
高速エレベーターの2倍・・・いや3倍位のスピードで
ナンシーは階段を駆け上がった。
上で非常階段の扉が閉まる音が聞こえる。
ナンシーは野生の感でその扉の閉まったと思われる階の扉を開けた。
目の前には腰を抜かしながら進む女の姿。
ナンシーは勢いよく女の上に飛び乗った。
「テメェーー!!!汚ねぇーマネしてんじゃねーよ!!!
 この腐れボケなすがぁーーー!!!」
ナンシーは女を掴み起こすと、自分の方に向けた。
「・・・・み、みさき?!」
「ご、ウヒッグ、ごめんな、ウグッフ、さい」
そこには長越みさきが、グズグズの顔で横たわっていた。

その頃、仕事を休んで自宅に居た北島真奈美は、録音したテープのチェックをしていた。
『自分の病院に入れなかったのは仕方ないとして
 見舞いにも行かないなんて・・・。
 自分の息子としての自覚、ありますの?』
『・・・』
『あと、お義母様の件なんですけど
 そろそろ施設に入れる事も考えて頂きたいんですけど。」
『金なら幾らでも好きなだけ渡してるだろ。
 それに実質お前が何かしてる訳じゃないんだ。』
それは女と男の会話が入っている内容だった。
真奈美はテープを早送りして
話し声が聞こえる所で再生してを繰り返した。
『翔くぅ~ん。
 明日の夕方、ママお小遣いあげたい気分なのよ~。』
先ほどの女の声だが、話し方はまるで違う。
真奈美は、集中してその声に耳を傾けた。
『そう、じゃあ明日ウェストゥンのロビーに4時で』
真奈美は時計を見た。
時刻は3時5分。
「尻尾つかんだわよ~女狐!!」
真奈美は急いで駐車場へと向かった。
以前、真奈美はホームヘルパーの本田さんに
中川貴美子のホームヘルパーとの接触を頼んで
大金を叩いて中川家に盗聴器をつけてもらっていたのだ。

1005号室では頭をバスタオルで捲いたナンシーがみさきの話を聞いていた。
「息子が、・・・ウヒッグ
 中川さんの子供を怪我・・ヒッグ、させて
 この話を・・ウグッフ・・断ったら・・ヒッグ
 自分が嫌がらせを・・ヒッグ、させられると思って。」
みさきは自分の立場をナンシーに説明した。
「・・・・
 腐ってる。
 アンタの根性腐りきってるよ!!
 まず自分さえ良ければってその態度。
 本当に気にくわない!!」
ナンシーは机を目一杯叩いた。
「ひっ!!」
みさきが椅子から落ちそうになった時、家のチャイムが鳴った。
しかしみさきは動こうとしない。
「・・・出れば?」
ナンシーは苛つきながらも冷静に答えた。
みさきがインターホンに出ると、画面には俊彦の姿が映っている。
「トシ君・・ちょっと今」
ナンシーが椅子から立ち上がる。
「家に帰るわ。
 もうここに来る事も無いと思うけど。」
ナンシーはそのまま長越家を出た。
「でももっと許せない奴が居る。」
ナンシーの中にあるまさ子が完全に目を覚ました。


次回予告
遂に女狐(中川貴美子)の尻尾を掴んだ北島真奈美。
そこで仕掛ける攻撃方法とは?
次回超高層マンションEX 第六話 覚醒
天を仰げば敵ばかり、地を見下ろせば亡者共
この地に案ずる場所はあるのか?
ハグして!そしてママにキスして!!