この物語は、愛あり、涙あり、笑いあり、精神的バイオレンス満載の、いわばフィクションである。

超高層マンションEX 番外編 アメリカンホームコメディ

かつてその街には赤色の南死ィと言われる伝説の女がいた。
そして今日、2年間の刑期を終えて南死ィは帰ってくる。
南死ィが捕まったのは、ただ運が悪かっただけ
運が良ければ今回も捕まることなく、伝説の日々は続いていた。

その出所の日に出迎えてくれる人間は誰も居なかった。
家族でさえ南死ィに面会に来た者は居ない。
それでも南死ィは、それが辛いなんて思う事はもう無かった。
みんなが変わってしまって、自分の事は必要ないという事に理解が出来たのだ。
人は変われる事が出来るなら、その方が良いとも思っているから。
ただ自分がそれを一番に求めているのに、それが出来ないジレンマだけは隠せない。
いっその事、自分の事を知らない場所でやり直そうと考えだしていた。

家に帰ってみると、そこにはもう家は無かった。
待っていてくれる人が居ないだけじゃなく、帰る家もそこには無かった。
昔、夢に描いたアメリカのホームコメディ番組。
今はそこからどれ位遠くの位置に自分がいるのか分からない。
そんな南死ィを嘆く様に、空からはポツリポツリと雨が落ちてきた。

その頃仕事の出張で同じ街に来ている男が一人いた。
彼の仕事は、能率の上がらない中小企業との契約を切る事。
彼は人よりも考えすぎる人間。
だから契約を切られた会社の人達が、その後どうなるか
それが自分のせいだと罪悪感を感じてしまうタイプの人間だった。

二人は突然ふりだした雨の中で偶然出会った。
でもその時は交わる事のないハズの二人
雨宿りの店のテントの下、狭い中でお互い顔を合わせた。
「こいつ、狭いんだからどっかいけよ。濡れちまうだろっ!!」
と、いつもの南死ィなら言っていただろう。
でもその日は、そんな気力も無かった。
自分の惨めさが、この雨よりも冷たかったからだ。
男は一瞬綺麗な女だなと思った。
「急に雨が降って来ちゃって・・・困りましたね。」
その男の言葉に南死ィは応える事はない。
「すぐ止むと良いんだけど・・・」
言葉の途中で南死ィはテントから出た。
ずぶ濡れになりながら走り去る後ろ姿は
少し艶っぽく、それ以上に何か切ない。
女が道を渡ろうと横を見た時、まるで泣いているかの様に見えたからだ。

夜、ホテルに帰ってテレビを付けてみると
昨日訪れた会社の社長が首つり自殺をしたというニュースが流れた。
この2年間で3人目となる。
葬式に行かなればと考えると一気に気が滅入った。
前2回の事を考えると、今の自分に耐えられるのか不安になったからだ。
男は携帯の電源を切ると、ニュースも見ていない事にして街に出た。

久々に浴びる程酒を飲んだのに
気持ちはシラフを通り越して冷めていた。
雨は昼間よりも少し強く、車が横を通りすぎると同時に
男の背広を薄紺から濃紺へと変える。
男は傘を投げ捨てると、そのままフラフラと川の方へと向かった。
隣街へと続く大きな橋の上に着くと、男はおぼつかない足で橋の手すりを上り始めた。

「死のう」

男が覚悟を決め、いざ川へ飛び込もうとした時
フワっと身体が浮く様な感覚がおきた。
『死ぬ時は自分の身体が意識的に動くのか・・・』
と考えたが、それは川から遠ざかり、どんどんと橋の上に近づいていく。
やがて地面に落ちた男に鈍い痛みが襲いかかる。
それは止まる事を知らない。
雨の音で聞こえなかったが、誰かが何かを言っているらしい。
「ヤロウ・・テメー!馬鹿野郎!!死にたいんだったら殺してやるよっ!!」
誰かが自分の上で馬乗りになって殴りかかってきている。
今さっきまで死のうと思っていたのに、男はそれを力一杯に突き飛ばした。
「な、何をするんだ!!」
顔を見合わせた相手は、昼間の女だった。
そして昼間よりも強い雨なのに、男はハッキリと女が泣いているのが分かった。
「死にたいんだろっ!!
 そんなに死にたいんだったら、アタシが殺してやるよ!!」
女は上半身を起こしたまま、こちらをジッと睨みつけた。
男は馬鹿バカしく思えた。
突然出てきた見ず知らずの頭のおかしそうな女。
何も分かってないくせに、殺してやるとまで言われている。
まるで自分の事を責めているかの様に。
「君に・・・君に何が分かる!!
 死にたいって感覚が君に理解できるか?!
 嫌な事全部押しつけられて
 そこから逃げる事も出来なくて・・・」
周囲に雨音が鳴り響く。
街の明かりと雨音が二人の会話の証人の様に包み込む。
「アンタは良いじゃん。
 押しつけてくる人間が居るんだから・・・。
 それにアンタの死にたい気持ちなんて理解出来ない。
 理解なんてしてしまったら
 アタシが死んでしまう。」
男は一瞬何も考えられなくなった。
段々と意識が冴えてくる。
言葉の意味が、通訳の様に徐々に解かれていく。
『この女は自分なんかより、ずっと死に近い場所にいるんだ』
男は痛む身体を起こして女に近づいた。

何故そういう台詞を言ったのかは分からない。
この女がどういう女なのかも知らない。
ひょっとしたら、明日になれば後悔するかも知れない。
でもその時は心の底から思ったのだ。

「大丈夫」

死のうとしていた男は、それを止めた女を抱きしめた。
女は声をあげて泣いた。
自分の声が他人の様に聞こえて
それは自分が『女』であると言う事を再認識させられた。

丁度18年前の話である。
この物語は、愛あり、涙あり、笑いあり、精神的バイオレンス満載の、いわばフィクションである。


超高層マンションEX 第拾話 これから


深い眠りの中、沙夢は夢を見ていた。
夢の中ではまだ若々しいナンシーが自分を抱いている様だ。
「私が小さい頃に見ていた海外ドラマ。
 その中の家族は本当に幸せそうだった。
 そんな家族を夢見ていたけど、現実はそうじゃなかった。
 でもあなたが生まれた事によって、それは現実になる。
 私の夢が現実になる。
 そしてこの夢がずっと続く様に
 あなたがずっと幸せで居られる様に
 その願いを込めて付けた名前。
 沙夢・・・あなたとあなたの子供達がずっと幸せに暮らせます様に・・・」
夢はそこで終わった。
夢だったのか、昔見た事のあるモノだったのかは分からない。
それでも沙夢の頬には涙が伝っていた。
ゆっくりベッドから起きあがると
そこには昨日まで居た黒服の男は居なかった。
部屋を出ると長い廊下に、いくつもの扉があった。
先の方に階段が見える。
沙夢はゆっくりと階段を降りて広間へと向かった。

その頃下仲岬小学校では、池田弥栄がイベントの始まりを待ちかねていた。
しかし、まだ久里栖が学校に到着していない。
今イベントが始まってしまっては全てが水の泡だ。
焦る気持ちと、それを抑える気持ちが交差している時
教室の扉から、今回のターゲットが現れた。
「おはよう!久里栖さん」
弥栄はいつもの感じとは正反対に、満面の笑みで久里栖にあいさつをした。
「気持ちわる」
久里栖は無表情にそう呟くと、自分の席に着いた。
弥栄ははらわたが煮えくりかえりそうな思いをグッと抑えて
これから始まる晩餐を待つ事にした。
しばらくして、学年人気ナンバーワンの戸田靖彦が声をあげる
「あっれ~?おかしいな~。
 俺の笛どっかいっちゃったのかな?
 誰か見てない?」
その疑問は一人の生徒に収まらない。
「私のプレキュアのシール。
 机の中にいれてたのに無くなってる?!」
「俺の・・」「私の・・」
その声が数人に達した時、池田弥栄が全ての声を遮る。
「こんな事今までで初めてじゃない?!
 なんかおかしいよ。
 なんか突然こんな事が起きるなんて。
 なんだか・・・
 なんだか誰かが来てからだよね~。」
弥栄はウキウキしながらも冷ややかな目線で久里栖を見た。
すると、そこにはもっと冷ややかな目線を送る久里栖が座っていた。
ここで負けてしまってはいけない。
「も、もしかして久里栖さんの机の中に入ってたりして」
弥栄はいつもよりも倍位の速度で久里栖の机に近づき
机の中をのぞき見る
「あ、あれっ?!
 それ、プレキュアのシールじゃない?!
 転校してすぐ盗癖?本当26階の人間は惨め・・・ゴフォッ!!」
一部の同級生はその光景がトラウマになって対人恐怖症になってしまった。
下からめくる様な見事なボディー。
「惨めな女程、人を惨めに見たがるもんなんですね。
 鏡の前に立つまで、自分がどれだけパサパサかも気付かないで」
久里栖は永作博美のモノマネをした。
久里栖が再び席に着くと、弥栄は小声でぶつぶつ何かを言い始めた。
「ヤル・・・カエシテ・・・・ヤル」
久里栖は繰り返す言葉に驚いた。
「百倍にしてやりかえしてやる」
弥栄は永作博美の名台詞を呟いていたのだ。
久里栖はほんの少し弥栄を好きになれそうな気がした。

広間の中央には黒服の男が沙夢を待っていた。
食堂に案内されると、長いテーブルの奥の真ん中の先に蒼が座っていた。
「昨日はよく眠れたかな?
 こっちに来て座りなさい。」
案内された先に座る。
大きなテーブルに二人で食事をとるのは何とも寂しい気持ちにさせらるものだ。
「君の」
蒼は突然そこまで言って、言葉を止めた。
しばらく一点を見つめたと思うと、又続きを話し始めた。
「君の存在を知ったのは去年の事だ。
 本当は逢う事を諦めようかとも思ったが、2度も家族を失うのは嫌だと思った。」
沙夢は持っていたフォークとナイフを置くと、話を聞く体制になった。
「13年前君のお父さん・・・、つまり私の息子は
 ある女性を連れて家にやってきた。
 会った早々、あいつはその女と結婚するなんて言ったんだ。
 私も普通の女性ならそうはならなかった・・・
 しかし・・しかしその女は見るからに悪そうな女で
 私は息子に、女と結婚するなら絶縁すると言った。
 それ以来奴は消えてしまった。」
そう言い終わると蒼は又一点を見たまま止まってしまった。
「ママ・・・母は素敵な女性です。
 昔悪かったのか知らないけど、今では本当に素敵な母です。
 おじいさんが僕をここに連れてきたって事は
 やっぱり父との縁を戻したいんでしょ。
 とりあえず僕は一度家に帰ります。」
そういうと沙夢は食事を途中に席を立った。
「待て、・・・・又ここに来てくれるのか?」
蒼は少し怯えた様な表情で沙夢を止めた。
「・・・
 当たり前でしょ。家族なんですから。」
沙夢はニコっと微笑むと、心配してるであろう、離れている家族の元へと向かった。


次回予告
沙夢の戻った田中家の中で芽生える新たな家族愛。
小学生会で巻き起こる真奈美と貴美子の対決。
そして池田弥栄が明かすナンシーの本名!
次回 超高層マンションEX 第拾一話 変革
天を仰げば敵ばかり、地を見下ろせば亡者共
この地に案ずる場所はあるのか?
ハグして!そしてママにキスして!!
この物語は、愛あり、涙あり、笑いあり、精神的バイオレンス満載の、いわばフィクションである。


超高層マンションEX 第九話 幸せのそばで


クイーンサイズはあるかと思われるベッドの中
沙夢はゆっくりと目を覚ました。
周りを見渡すと豪華そうなインテリアが置いてある。
近くの椅子の横では、先ほど話しかけてきた黒ずくめの男が携帯で話をしている。
「今目が覚めた様です。
 そちらに連れて行きましょうか?
 ・・・
 わかりました。お待ちしています。」
電話が終わるのを待って沙夢が口を開いた。
「ここは・・・」
立ち上がろうとしたが、頭がふらついて思う様に起きれない。
「先ほどは申し訳ありません。
 色々と事情がありまして・・・。
 少しの間は目眩などもあるでしょうからユックリお休み下さい。」
男は思っていたよりも紳士的な感じだった。
側に来ると、冷えた水を沙夢に渡した。
「あと2.3時間は立つのも大変でしょう。
 家の方にはこちらから連絡しておきますので
 今日はここに泊まって行くといいでしょう。」
思考回路が上手く働かない。
聞きたい事が沢山あるのに、何から聞いたら良いのか分からない。
沈黙の中、ただただ時間だけが過ぎていく。
すると足下の方で扉が開く音がした。
初老の男がこちらに近づいて来る。
男は沙夢の前で立ち止まると、少し天を仰いでから沙夢を見た。
「はじめまして。
 私の名前は市倉蒼(そう)
 君の祖父だ。」
そふ・・・そふとは何かも、今の沙夢にはピンとこない。
「そふって?」
硬い表情の市倉が少し笑う。
「今日は疲れてるだろうから眠りなさい。
 また明日ちゃんと話をしよう。」
市倉はそういうと、ゆっくりと扉から出ていく。
「そふって?」
沙夢は市倉が出ていくと、男に同じ質問をした。
「あなたのお爺様の事です。」
「・・・お爺様・・・。
 そうですか・・・少し寝ます。」
沙夢はそういうと、またグッスリと寝てしまった。
部屋の中では、廊下ですすり泣く声がうっすらと響いていた。

少し時間を置いて、深夜の田中家は大パニックになっていた。
長男の沙夢が誘拐されてしまったのだ。
誘拐と言っても犯人は分かっている。
だからこその大パニックなのだ。
「サムー!!どうしよぉ~!!
 警察行かないと~!!サムー!!」
ナンシーが混乱している横で、ダーリンは非常に冷静だった。
「落ち着いて、ハニー。
 おやじは監禁なんてしない。
 明日になったら戻ってくるさ。」
「でも、でも、サムー!
 なんで今更見つかったんだろ?!
 引っ越ししたのが悪かったのかしら?!
 それとも私の名前が広がっちゃったのかしら?!」
ダーリンは混乱しているナンシーをそっと抱きしめた。
「大丈夫大丈夫。まさ子なんて名前いくらでも居るよ。
 それより・・・
 見つかってよかったって思ってる。」
ナンシーがきょとんとした顔でダーリンを見つめる。
「え?よかったって、何言ってるの?」
「見つかって良かった。
 これで僕たちは結婚が出来る。
 法律上でもきちんとした親子になれる。
 見つかったんだから隠れる必要なんてないんだ。」
17年前、市倉家から絶縁されたダーリン。
しかし市倉家のたった一人の跡継ぎであるダーリンは
いつの日か呼び戻され、そしてどんな手を使ってでもナンシーと自分を引き離そうとする事を予想していた。
その為ナンシーとは結婚せず、自分は行方不明という立場にしたのだ。
運の良い事に父の蒼は、ナンシーの『まさ子』という名前以外の情報を何も知らない。
二人はそうやって市倉家から隠れながら生きてきたのだ。
ダーリンがナンシーにひざまずく。
「長い事待たせたね。」
ナンシーは突然のダーリンの行動に驚いた。
驚いて何が起こってるのか分からないハズなのに体が震えてしまう。

「僕と結婚してください。」

風邪のせいか、涙だけではなく鼻水も出てしまう。
喉の奥の方が痛くなって、上手く言葉が出てこない。
「よっろ・・エッグ!よろこっぶぇッフん・でッフッグ!」
出会って18年、二人はようやく結婚へとたどり着いた。


次回予告
遂に謎が解かれた田中家。
真実をつきつけられる沙夢。
その時沙夢がとった行動とは?!
そして池田弥栄の悪知恵の標的になった久里栖の運命は?!
次回 超高層マンションEX 第拾話 これから
天を仰げば敵ばかり、地を見下ろせば亡者共
この地に案ずる場所はあるのか?
ハグして!そしてママにキスして!!