この物語は、愛あり、涙あり、笑いあり、精神的バイオレンス満載の、いわばフィクションである。


超高層マンションEX 第二話 交差するエレベーター


引っ越しがようやく終わった田中家。
終わるまでに帰ると思っていたドジそうな女は戻ってこない様子。
ナンシーはドジそうな女が住んでいると思われる10階で女の帰りを待つ事にした。
待って1時間くらい経った頃だろうか。
エレベーターが10階に上がってくる。
扉が開くと、そこにはドジそうな女と太々しい顔の少年が立っていた。
「あの、突然でごめんなさいね。
 あなた、もしかして部屋の鍵落としてない?」
「え?えっと・・・
 あれ?あれぇ~?
 鍵、それアタシの鍵だ!!」
女は嬉しそうにして見せた。
「お前馬鹿か。しっかりしろよ。」
俊彦がみさきに小声で怒鳴った。
「あらあら、ママにそんな事いっちゃ駄目!
 ママだって忙しそうだったんだからウッカリしちゃったのよね?
 あ、ご紹介遅れてごめんなさい。
 私26階に越して来たナンシー田中です。
 ナンシーって呼んでね!」
「26階・・・・。
 26階の方が10階なんて、すいません!
 どうしよぉ~!本当すいません!」
あまりに低姿勢な態度にナンシーは驚いた。
「すいませんすいませんは良くない良くない。
 こういう時はね。
 ありがとうって言うのよ!」
ナンシーは俊彦にむかってウインクして見せた。
「ありがとうございます!!
 えっと・・あの、えっと良かったらお茶でもどうでしょうか?
 あ!えっと、やだ。
 引っ越し終わったばっかりで忙しいですよね?
 本当すいま・・・・あ、えっと・・・」
「大丈夫大丈夫!!
 私の家の方はダーリンと愛する子供達がやってくれてるから。
 それよりお邪魔しても良いのかしら?」
ナンシーは長越家に招待された。

同じ『5号室』でも場所も広さもまるで別だ。
ナンシーは次に家に招待しようと思っていたが、少し躊躇した。
「名前、言ってなかったですよね・・。
 あたし長越みさきと申します。
 さっきのは息子の俊彦です。
 あと、ちょっと気になってたんですが
 ナンシーさんってハーフか何かですか?」
またまた何度も説明するが、ナンシーの本名はまさ子。
まさ子でハーフなんて事はなかなか無い。
「違う違う。ハーフじゃなくて純粋な日本人よ!
 っていうか俊彦君小学何年生?
 私の家にも小学6年になる娘が居るの。」
「え?!そうなんですか。
 息子は小学5年生なんですけど・・。
 じゃあこのマンションの小学生会にも入られるんですね?」
小学生会。
この超高層マンションでは数十人の小学生が住居している。
色々な行事、活動、勉強会などの為に結成されているのだ。
そしてこの小学生会こそが『階級』社会の根元とされている。
「小学生会なんてのがあるんだ。
 でも、それに参加するかどうかは・・・」
「だ、駄目です!!
 参加しないと大変な事になります!!
 26階なら尚更。
 以前・・・
 っていうか、もしお仕事とか無いなら参加してください。お願いします!」
みさきの様子は少し異常だった。
何かに怯えてる様な、はたまた過去のトラウマを思い出すかの様な・・・。
「あ、うんうん!
 参加するわ!!」
ナンシーの調子はアメリカレベルだ。
とりあえず何とかなるかで生きている。

次の日。
みさきのパートは朝の9時から始まる。
家を出るのは8時20分。
そんな事は知っている人は知っている。
エレベーターが到着して1階へと向かう。
その間みさきは背面にある鏡で髪型を整える。
1階の扉が開いた時、鏡越しに人影があるのに気付いた。
みさきは瞬間的に振り返ると、そこには貴美子が立っていた。
「す、すいません!
 すぐ降ります。すいません。」
みさきはすぐにエレベーターから降りて横によけるが、貴美子はいっこうにエレベーターに乗らない。
というより高層フロアの貴美子が、このエレベーターに乗るわけがない。
「うちの息子がお世話になりまして。
 おかげさまでようやく回復してきたみたいですけど。」
貴美子は目線を足下からゆっくりと首筋まで向け、首筋から一気に目を睨んだ。
「あのすいません!!
 病院代はこちらで用意します。
 息子にもきつく叱ってありますの・・・」
「そんな金っ!!!
 ・・・そんなお金は要りませんのよ。
 うちだって貧乏じゃ無いんですから。
 それに長越さんの息子さんだけが悪いんじゃありませんし・・・。
 ただ・・・・
 目上の人に対して、どういう風にすれば良いか
 お宅の方でよ~く教育なさった方が宜しいんじゃありません?
 親子共々。」
「すいません・・・・。」
「10階なんですからっ!!」
その話の最中、どうやら女がマンションに朝帰りしてきた様だ。
「10階とか何階とかさぁ~。
 おばさん頭悪いんじゃない?
 カッコ悪っ。」
北島真奈美33歳。独身、IT企業経営。
彼女の住んでいるのは・・・43階。

次回予告
突如現れた北島真奈美に救われたみさき。
しかし真奈美の居ない場所で、着々と貴美子の魔の手は襲ってくる。
そして転校を迎える田中家に訪れる悲劇。
小学生会の恐ろしい実体とは?
次回の超高層マンションEX 第三話 社会のしくみ。
天を仰げば敵ばかり、地を見下ろせば亡者共
この地に案ずる場所はあるのか?
ハグして!そしてママにキスして!!
この物語は、愛あり、涙あり、笑いあり、精神的バイオレンス満載の、いわばフィクションである。


超高層マンションEX 第一話 階層と階級


舞台は東京都のとある場所に建っている超高層マンションのひとつ。
そこでは『階数』という名の『階級』の元で全てが動いていた。
そして、それらの事情を知らないある一家が引っ越しをしてくる。
と言ってる間に家族の一人が段ボールを抱えてマンションに入ってきた様だ。
彼女の名前は田中まさ子。
彼女自身は自分の事をナンシー田中と名乗っている。
38歳の専業主婦で、13歳と8歳の息子、11歳の娘、それに43歳の夫の5人家族。
「ママー!アタシの段ボールってどれだった?」
今来たのが娘の久里栖(クリス)。
そうこうしてる間に他の階の住人がエレベーターを降りてきた様だ。
「あ、すいませ~ん。引っ越しでバタバタしちゃいまして。」
「いえいえ・・・あの~、何階ですか?」
階数に階級がある事を、まさ子・・・いや、ナンシーはまだ知らない。
「26階、2605号室に越してきました。」
「あ、そうなの~♪私31階に住んでますの。
 あら?そちら娘さん?・・・小学生かしら?」
今喋っているのは31階に住んでいる池田佳美。
37歳パート主婦、16歳の息子と11歳の娘を持つ。
夫は自動車会社に勤める36歳。佳美とは学生時代のナンパで交際。できちゃった婚で結婚する事になる。
池田家の主権は女が握っている。
「はい、今年小学6年生になります。」
「あ、小学6年生なの?
 じゃあアタシの娘と同じだわ!!
 ご紹介遅れてごめんなさい。
 私、3102号室の池田です。
 子供の学年が同じって事で、これから色々関わりそうですしね。」
その様子の異常さを久里栖は気付いていた。
「同じ学年のお子さんが居るんだって!
 あ、すみません。
 私こそ紹介遅れてしまって。
 ナンシー田中です。
 ナンシーって呼んでくださいね!」
「ナンシー・・・・。
 ナンシーって、ハーフかなんかですの?」
何度も言うが、ナンシーはまさ子。
まさ子という名前にハーフも何も無い。
「いえ、純粋な日本人ですわ!」
「・・そ、うですか。
 今日はちょっと時間が無いので又お会いした時に。
 多分近いうちに・・・。
 ではごきげんよう。」
佳美はパートのフキマーケットへと向かった。
「ねぇ、ママ・・・・。
 あの人変だよ。」
「何言ってるの?
 良い人そうじゃない?!
 何でそんな事言うの?」
久里栖はナンシーの手をギュッと握って、佳美が見えなくなるのを待った。
「あのおばさん・・・
 笑ってた。
 しかも部屋の番号言う時だけ
 なんか・・・見下した感じの目してた。」
久里栖は感の良い子だ。
久里栖の野生の感が女の戦いの序章を感じさせる。
しかし当のナンシーはそういう事に無頓着の様だ。
「あらあら、気にしすぎよ!!
 それよりクリス。ほら!
 ママにキスして!!」
久里栖は呆れた顔でナンシーの頬にキスをした。

一方1005号室では、怪我で安静中のハズの俊彦がのたうちまわっていた。
「トシ君!!なんであなた足骨折してたのに
 サッカーボールなんて蹴ったの?!
 しかも部屋の中で?!!」
今大混乱しているのが母親の長越みさき29歳パート主婦。
居酒屋経営の夫との3人暮らし。
息子の俊彦は下仲岬小学校の5年生。
このマンション一のやんちゃ坊主で有名だ。
俊彦は、先日同級生が下仲岬中学校の生徒にかつあげされてる場面に遭遇。
中学生2名に対し、一人に噛みつき
もう一人を階段から突き落として重傷を負わせた。
しかし階段から落ちる中学生が、俊彦の腕を掴んだから大変。
俊彦は中学生をクッションにして大事には至らなかったが、足の骨を骨折してしまったのだ。
「もぉ~!!どうしよう?!!
 とにかく病院行くわよ!!」

その頃、下仲岬病院では4201号室に住んでいる中川貴美子が息子の病院見舞いに来ていた。
中川貴美子47歳。
15歳の息子と77歳の義母、病院経営者の夫53歳の4人暮らしだ。
「なっさけない」
「・・・・・」
「小学生に蹴り落とされた?
 しかもかつあげしてる所を・・・。
 あなた中川家の名前に泥塗るつもりなの?
 本当なっさけない。」
話を飲み込んでいる人も多いと思われるが
今入院中なのが階段から落とされた中学生、中川誠本人である。
「それはそうとあの糞ガキ。
 10階の長越の息子なんですってね。
 これからどぉ~イジメてやろうかしら。」

中層階までのエレベーター3台をフル稼働して
田中家の引っ越しは着々と進んでいた。
しかし一台のエレベーターが10階に止まったまま、なかなか下に降りてこない。
やっと降りてきたと思うと、そこにはドジそうな女と汗だくの少年。
「すいません。すいません。」
女は何度も謝りながら外へ出て、止まっていたタクシーに乗り込んだ。
その時だった。タクシーのあった場所に何かが落ちている。
ナンシーはそれに近づいて拾い上げた。
「これって家の鍵よね?」


次回予告
鍵を落としてしまった長越みさき。
それを渡そうとするナンシー。
それは運命の出会いか、それとも戦いの始まりか?
大人社会のルールを態度で教えようとする中川貴美子。
そして新たに登場する人物、それは敵か味方か?
次回の超高層マンションEX 第二話 交差するエレベーター。
天を仰げば敵ばかり、地を見下ろせば亡者共
この地に案ずる場所はあるのか?
ハグして!そしてママにキスして!!