さて、みんカラからこちらにズレたが6回目だ。
車高調を買った。
車高バランスを整えた。
減衰もそれなり調整した。
しかし、イマイチしっくりこない。
具体的には
・段差でクルマが跳ねて突き上げ感が酷い。
・常に車体がユサユサ揺られている。
・ちょっとハードブレーキングするとブレーキがすぐにロックする。
・コーナーでちょっと頑張るとドアンダーやオーバーが出て緊張感が抜けない。
・緩い高速コーナーが吹っ飛びそうで怖い。
このような状況があるならば、「車高調が自分の求める走りに向いてるかどうか確かめる」方法がある。
具体的に言えば、
・その車高調の限界荷重がどれだけなのか。
・どの程度の荷重でバンプタッチをしているのか。
それを確認してみよう。
まず確認すべきは「車検証」だ。
車検証の右のほう。「前々軸重」と「後々軸重」だ。
これは、「愛車の空車状態1Gでの前輪と後輪に掛かっている軸重(左右2輪分の荷重)を表している。」
重量バランスが良いと言われている車種が期待はずれに前後バランスが違ってたり、逆に思ったよりビックリする程偏っていたりすると思うが、
これこそが自動車メーカー出荷時や車検場で量った実測値。公式発表のバランスなんだ。
何故体感と違うかと言うと、体感はあくまで最低自分1名が乗車した時だ。乗らずには体感出来ない。
だから表記軸重と体感とに意外なズレが生じるのだ。
車高調を分析する時には、体感よりも車検証の軸重を使う。
当然、人が乗車すれば軸重バランスは変わるのだが、公式な空車状態で計算してもダメなら人が乗ったら余計にダメダメになるのだ。
だから公式な数値を「参考データ」として扱い、自分の脚がどうなのかをざっくり確認する方がなんとなくの体感任せよりも遥かに有用なデータになる。
それから次に自分の愛車の「レバー比」を確認しよう。
WEBを検索しまくったり、ある親切な車高調メーカーのサイトを確認したりして、自分の愛車のレバー比を把握しよう。
基本的にストラット車はレバー比が1.0付近。
Wウイッシュボーン車は1.3~1.8くらい。
トーションビームタイプの足回り形式ならばダンパーとスプリングそれぞれにレバー比があるはずだ。
ダンパーとスプリングがアームの別の場所に取り付いているからだ。
例)FD2シビック
さて、先ほどの車検証データはUZS190レクサスGSだ。
調べたらレバー比は
・フロント1.3
・リヤ1.6
だと判った。
だと判った。
「軸重」と「レバー比」が判ってようやく「1G時に各ダンパーに掛かっている荷重【1GF】」が計算出来る。
まず、前後の軸重をそれぞれ半分に割り算しよう。
このクルマの場合、フロント軸重は940kg。リヤ軸重は810kg。合わせて1750kgが車重だ。
で、これをそれぞれ半分に割る。
フロント 940kg÷2=470kg
リヤ 810kg÷2=405kg
これが車検証データから導き出される「それぞれのタイヤ1輪に掛かっている「車重」だ。まだ荷重ではないので注意。
で、「レバー比換算」
レバー比とは、タイヤからダンパーがどれだけ離れているかにより決まる。
タイヤ位置から車体中央側にダンパー取り付け位置がズレれば、レバー比は増加する。
それにより、てこの原理で「タイヤに掛かっている車重よりもダンパーに掛かっている荷重の方が増加する」のだ。
だからタイヤに掛かっている車重にレバー比を掛け算して、ダンパーに掛かっている荷重を計算する。
フロント 470kg×1.3=611kgf
リヤ 405kg×1.6=648kgf
荷重になるので単位がキログラムからキログラムフォースになる。
これが、このクルマの前後それぞれのダンパーに掛かっている【1G荷重】だ。
で、この数値が役立つのだ。
いよいよ次に車高調をバラす。
のだが、脚をバラす知識が無いヒトは見よう見まねでバラさないで欲しい。
構造は大して難しくはない。しかし、ミスは許されない。
「足回りは万一の場合、自分や他人の命を失う恐れのあるパーツ。自信が無いならこの時点でプロに頼むのが懸命だ。」
「足回りは万一の場合、自分や他人の命を失う恐れのあるパーツ。自信が無いならこの時点でプロに頼むのが懸命だ。」
そうでなくても組み付け方がいい加減だったりすると、車体やダンパーを破損してしまう恐れがあるのだ。
で、脚をバラしてダンパーのロッドを剥き出しにする。
まずやるべきは「ロッドストロークチェック」だ。
このように一旦アッパーマウントなどでロッドを押し込む。その際にロッドに結束バンドなどを結び、どこまでストロークするのかを測るのだ。
目一杯押し込んで手を離すと、ダンパーは自前のガス圧で伸びる。伸びきった時に上に上がった結束バンドの位置までの距離が「ロッド長(ロッドストローク)」となるのだ。定規や巻き尺などでその距離を測り、正確にミリ単位でメモしておく。
それからバンプラバーの厚みも必ず測ってメモしておくこと。
例として測ったダンパーは、偶然ロッド長が前後共に135ミリ。ストローク120ミリ。バンプラバー厚みが35ミリであった。
これをデータ管理しやすい様に書くと、
・ロッド長135ミリ
・ロッドストローク120ミリで底突き
・バンプラバー35ミリ
・サスストローク100ミリ
このようになる。
そして、ダンパーに付いていた吊るしスプリングの諸元も必要だ。
この車高調には
・フロント ID62 10kg/mm 自由長220mm スプリング
・リヤ ID62 8kg/mm 自由長220mm スプリング
が付いていた。
ここまで調べると、ようやくこの吊るし車高調のバンプタッチ(フルバンプ)限界荷重が判る。
「フロント」
10kg×100mm=1,000kgf
「リヤ」
8kg×100mm=800kgf
※プリロードゼロ設定での限界荷重(耐荷重量)
この脚は前後でここまでの荷重でフルバンプする事が判った。これがこの吊るし脚の能力だ。
この荷重量が、クルマに取り付けて走らせると、どの程度の荷重で限界となるかを調べる。
「フロント」
1,000kgf(サス限界)÷611kgf(1G荷重)=1.63G
「リヤ」
800kgf(サス限界)÷648kgf(1G荷重)=1.23G
イマイチこれではイメージが湧かない方のために図を書いてみた。
このようなカンジになっている。グリーンで書いた所が1G状態で縮んだダンパーがここまで上がっているイメージだ。
これを院長的に考えると「フロントは街乗りからワインディング程度ならまぁまぁ良いが、リヤに関しては結構足りないな」という診断になる。
経験上、常にフルバンプせず快適に走る為に必要な限界荷重は、
・走るコースの平均速度(掛かる荷重)
・使用するタイヤのグリップ力
などでだいたい決まっている。
当然、速度が上がれば上がるほど遠心力などで脚への入力量が増加するし、
タイヤのグリップ力で滑り出しが遅くなればそれだけ足回りには荷重が掛かるようになる。
院長的には、街乗りするにも最低限〇〇くらいの限界荷重量が必要だと考える。
この脚の場合は、フロントは足りているので街乗り程度では普通だが、
駆動輪であるリヤが、車高を下げる為に柔らかすぎるスプリングを採用しているので満たない。
これはリヤタイヤの限界が低く滑り出しが唐突になったり、段差で突き上げが発生したりリヤのブレーキがあまり効かなくなる恐れがある。
まだ1.23Gあるから、一般的な吊るし車高調のなかでは比較的まともな方ではあるが、もう少し手を入れて耐荷重量をアップしなくてはいけない仕様だと言うことが判った。
意外に世の中には、1.2Gすらクリア出来ないザンネンな車高調KITが出回っているのだ。
そのような脚を使うと、突き上げやコントロール性、ブレーキング性能に不満を持つようになり易いのだ。
脚に問題があるのに突き上げ緩和にボディ補強してみたり、良く効くブレーキパッドにしてみたり、GTウイングを生やしてみたり、機械式LSDを付けなきゃ走れないみたいな「本末転倒カスタマイズ」にハマってしまう恐れがある。
付いてる脚に不満を感じたら、他のデバイスに頼るよりも文字通り足元を見つめなおす事が非常に重要。
計測して脚に問題があれば、リセッティングや潔く買い直しする方が遥かにしあわせへの近道だったりする。
是非、経験に長けた人に教わりながら、あるいはプロにお願いして自分の脚がどうなってるのかを確認してもらいたいと思う。
次回からは、自分でリセッティングする際の注意事項を書こうかと思う。
つづく。