注意の話⑦-自閉症スペクトラム障害(ASD)に関わる注意、共同注意の話(マインドフルネス番外編) | 粳間メンタルリハビリテーション研究所/一般社団法人iADLのブログ

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いつもお世話様です!
 
高次脳機能障害・認知症・発達障害のための集団メンタルリハビリテーション「オレンジクラブD」第120-121回の内容をまとめてお届けいたします(3/26, 4/2)。
 
4/2は世界自閉症啓発デーです
 
今回はマインドフルネスの話から少しはなれて、共同注意の話をします。
共同注意は、コミュニケーションや他者理解、共感性などの基盤になる注意機能です。
 
そして、自閉症スペクトラム障害(ASD)では、この共同注意機能の問題が指摘されています。
 
オレンジクラブDでは共同注意を用いるマインドフルネス訓練がはじまっていますが、その解説をする前に、今回の記事ではまずは、共同注意とは何か?という話をしようと思います。
 
 
☆共同注意とは?
 
教科書的な定義では、「共同注意とは他者の注意の所在を理解し、その対象に対する他者の態度を共有することや、自分の注意の所在を他者に理解させその対象に対する自分の態度を他者に共有してもらう行動を指す」とされますが…[1]。
 
要するに、共同注意とは、
 
①他者の注意をモニターしそれに自分が合わせる
②自分に合わせてもらうように他者の注意をコントロールする

①②によって注意を共有する
 
ことです。
 

フランスの作家、サン・テグジュペリの言葉に、
 
-------------------
愛する それは互いに見つめ合うことではなく
一緒に同じ方向を見つめることである
-------------------
 
というものがあります。
 
ここにも、共同注意の話が隠れています。
 
自分と相手、という二人組みの視点で解説しましょう。

相手に対して、ただ自分の注意を向けるのは普通の注意であって共同注意ではありません。
 
「(相手が)何を気にしているんだろう?」といった風に、自分の注意を、相手が注意しているものに向けていたならば、それが共同注意です(上記①)。
 
相手が見つめているものに気付き、自分も同じものを見つめる。
 
この、言わば、注意の共有こそが、他者と協力するためには欠かせません。
 
そしてそれには、お互いがお互い、共同注意をもつことが大事で、それが愛につながるんだよ…というありがたい言葉ですね。
(デグジュベリは、共同注意を払う努力の大切さを説いていて、たまたま同じ方向を見ている事が愛だと言っている訳ではないと思います)

自分の注意の方向性に気付くための、自分の注意に向けた注意がメタ注意という話を以前の記事でしましたが、他人の注意に向けた自分の注意が共同注意(上記①のほう)です。ややこしい。
 
 
共同注意の起源
 
共同注意の進化認知学的な起源は、ヒトではなく、もっともっと古くさかのぼります。
 
身近にいる動物の例は、犬。
 
犬がヒトの意図を読み、我々に協力してくれるのは、自然と注意を人間に向けてくれ、共同注意を形成できるからです。
 
我々が何に注意を向けているのか、自ずから、犬は注意しています。

そして、逆もまたしかり。
 
だからこそ、言葉は通じなくても、ヒトと犬は協力して行動できるわけです。
 

 
共同注意の①、相手の注意に自分の注意を向ける「他者注意のモニター」も、

共同注意の②、相手の注意を自分の注意に向けさせる「他者注意のコントロール」も、上の漫画の例のように、犬は難なくするでしょう?

よって、共同注意を形成する脳機能(以下、単に共同注意機能)は、発生学的に古い脳がもつ機能です。
 
それは無論、言語が生まれる前までさかのぼります。

原始のヒトは、共同注意機能に基づいて、お互いの意図を理解し、協力し、コミュニティを作っていったものと推測されています。
 
言葉を使うことなしに。
 
いわば、共同注意に基づく、「共感だけ」によって集団が作られていた。
 
道徳の基礎となる思いやりも、それだけ起源が古いと考えられています。
 
 
ここで、動画をひとつ紹介しておきます。
 
相方がブドウをもらえている時に自分はキュウリしかもらえないサルはムキになる
 
「サルも不公平を感じる」動画として有名になった動画です。

https://www.ted.com/talks/frans_de_waal_do_animals_have_morals/transcript?language=ja
 
共同注意とはどういったものなのか?だけでなく、共感や思いやりの起源をうかがい知れる動画です。

この動画にも随所に、(共同注意に基づいた)動物の協力行動が見れます。
 
動画の3:28~あたりの、同時に紐を引っ張らないとエサがとれない装置で、2匹のチンパンジーが協力して息を合わせエサをとるくだりは必見です。
 
特に、動画の4:05~からの、相方がお腹がいっぱいであまりエサに興味を示さない(注意を向けない)時の、もう一匹がやる仕草は、共同注意のモニタリング・コントロールとはどういったものかとてもわかりやすいです。
 
ぜひ、動画を見てみてください(少なくとも、3:08-5:08までは動画を見てくれたものとして、以降、話をすすめます)。
 
 
☆自閉症スペクトラム障害(ASD)と共同注意

動画のような、言語を使わないコミュニケーションは、「非言語的コミュニケーション」と呼ばれますが、「共同注意」がそれにいかに重要であるか、動画を見てわかったと思います。

さて、転じて、共同注意機能に問題があると、非言語的コミュニケーションは難しくなります。
 
非言語的コミュニケーションに問題がある病態の代表は、自閉症です。
 
かつては、知能障害を伴わない自閉症は、アスペルガー症候群と呼ばれていた時代がありましたが、今では一括して、自閉症スペクトラム障害(ASD)と呼ばれています。
(注意:ASDは、コミュニケーションの障害ではなく、非言語的コミュニケーションの障害です。「特徴的な共感性の無さ」がクローズアップされていますが、その多くは、表情や仕草等の、コミュニケーションの非言語的な部分のモニター・コントロールの障害に基づきます)。
 
非言語的コミュニケーションの基盤は共同注意です。
 
ASDではこの共同注意機能の問題が指摘されています。
 
有名なのは、相手の目を見ない、顔を見ない、そもそも相手を見ない、等といった独特の行動傾向です。
 
このような行動傾向があれば、表情や仕草などの判断材料から「相手の意図を解釈する段階」の障害と考える以前に、そもそも、他者の意図を読むための「判断材料を集める事が難しい障害」だとわかります
 
モニター的な共同注意には、そもそも相手を見る・聞く・触る等、五感を通じた外向きの注意を向けることが必要です。
 
多くの場合は、見なければ、相手が何に注意を向けているかわかりませんし、その判断材料がなければ、何を意図しているのかもわかりません。
 
あえて共同注意を形成しなくとも耳から入ってくる相手の意図、つまり、言語がなければ、共同注意に問題があるケースの社会性は育ちにくいでしょう。

実際に、言語を使えない、ヒト以外の動物の場合は、ASDの自然発生例の報告が、ニホンザル(マカクザル)のASDケースの一例しかありません(今のところ。遺伝子操作によるASDサルは存在する)。
 
この報告では、行動分析(含む視線解析)で共同注意機能に異常があること、人間のASD同様の遺伝子異常や脳異常があることをもってASDの特性をもつニホンザルだとされています。
 
言語をもたない動物では、共同注意機能に障害をもつ個体は、自然淘汰されてしまうのかもしれません。
 
転じて、それくらい、群れで生きる動物にとっては、共同注意に基づいた他者とのコミュニケーションは重要であると、ここでは解釈したいと思います。
 
注:
ここでは、非言語的な共同注意例をわかりやすく示すために動物の例ばかりあげましたが、他者との協力が上手くできないからといって、自分は動物以下だーという解釈はしないように気をつけてください。なぜならば、人間の場合は、社会生活上求められる他者への協力が、ほかの動物よりもはるかに複雑だからです。よって、求められる「意図読み」も、より複雑です。それこそ、言語情報ナシの、表情や仕草だけで、完全に他者の意図を読むなど不可能で、文化によっては、非言語的に意図を読むのは失礼であるとされている地域もあります(一部欧州等、そうだと聞きます)。だから、「他者との協力がうまくできない・意図が読めない」と感じていても、共同注意機能の問題とは限りません。共同注意機能がちゃんと働いていて、正しく判断材料を集められているのに、その解釈が間違っているから他者との協力がうまくいっていないのかもしれません。その場合は、非常に高い次元の頭の働き(認知機能・高次脳機能)の問題なので、動物ももっている機能とは次元が違う話です。もちろん言語の次元の問題をもっていても、協力や意図読みは難しくなりますが、これも同様に、動物ももっている機能とは次元が違う話です。今回の記事で述べたのは、あくまで、非言語的な「共同注意機能」の話だけです。
 
 
☆共同注意がもたらすコミュニケーション以外への影響

自分と同じ仕草をする相手に対しては、そうでない仕草をする相手によりも好感をもちやすいという研究報告があります。
 
これは、経験上も、わかる人が多いと思います。

共同注意に基づいた協力行動(同調行動)は、感情にもたらす影響が大きいです。

ほかにも…

チームメイトに協力する、人と一緒に笑うなど、「周りに合わせた行動・一緒の行動をとっているほうが、痛みは感じにくい」…という研究報告があります(コミュニティへの同調行動(behavioral synchrony)は疼痛閾値をあげるのです)[7]

このように、共同注意は、痛みを感じる機能にさえも影響を及ぼします。

こういった研究報告例がなくても、周りと同じ行動をしている時は、気分が良かったり、調子が良かったりすることは、経験でわかると思います。

そして逆もまたしかり。
 
コミュニティの共同注意を妨害するような、他者の共同注意を自分に惹きつけてしまう恐れがある言動や行動は、感情の問題との親和性が高いと考えられています。
 
例えば、欝になる人を予測する指標として、SNSの発言の解析等から、一人称単数形(I, my, me)の使用頻度が使える事がわかっています[8]。
 
ようするに、自分に注意を惹こうとし過ぎる人は、欝になりやすい。
 
コミュニティと注意を共有できないと、人間関係の悪化が予想されますが、そのせいで、二次的に欝になるのかもしれません。
 
 
 
そんなわけで…
 
共同注意は、色々な脳の機能に影響を及ぼします。
 
この話の続編となるマインドフルネス訓練では、共同注意を利用して、悩みや痛みを感じにくくするエクササイズの話をします
お楽しみに!

参考文献
1.粳間剛, 仙道ますみ.高次脳機能障害・発達障害・認知症のための邪道な地域支援養成講座. 三輪書店 2017
https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4895906027
2.共同注意:脳科学辞典
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%85%B1%E5%90%8C%E6%B3%A8%E6%84%8F
3.フランス・ドゥ・ヴァール. 良識ある行動を取る動物たち. TED
https://www.ted.com/talks/frans_de_waal_do_animals_have_morals/transcript?language=ja
4.フランス・ドゥ・ヴァール (著), 松沢哲郎 (監修), 柴田裕之 (翻訳)
動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか. 紀伊国屋書店2017
5.フランス ドゥ・ヴァール (著), Frans de Waal (原著), 柴田 裕之 (翻訳)
道徳性の起源: ボノボが教えてくれること. 紀伊国屋書店2014
6.Yoshida K, et al. Single-neuron and genetic correlates of autistic behavior in macaque. Sci Adv. 2016;2:e1600558.
筆頭著者・責任著者による日本語解説→http://www.koseisouhatsu.jp/activity/release/20161007_research/images/ASD.pdf
7.Zimmermann J, et al. First-person Pronoun Use in Spoken Language as a Predictor of Future Depressive Symptoms:
Preliminary Evidence from a Clinical Sample of Depressed Patients. Clin Psychol Psychother. 2017;24:384-391.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26818665
8.Cohen EE, et al.Rowers' high: behavioural synchrony is correlated with elevated pain thresholds. Biol Lett 2010;6:106-108.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19755532/
 

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