パンター戦車の操向装置(その3)
記述間違い!!!
正しくは→準備中
さて旋回時にはどのような動きになるのだろう。
旋回には走行間の緩やかな旋回である「緩旋回(かんせんかい)」と徐行時や停止間における急旋回である「信地旋回(しんちせんかい)」の2種類がある。
【緩旋回】
緩旋回は通常走行時の旋回要領である。
走行中、右の操向ハンドルレバーを引くと、①操向クラッチが切れる(開放)。
さらに引き続けると②操向ブレーキが作動する。
操向ブレーキ作動により操向変速機のサンギアが停止するため、主駆動力はリングギヤに入力しプラネタリギヤを作動させ、プラネタリギヤを保持しているキャリアから出力される。
この際、遊星歯車機構の機能としてサンギヤ固定、リングギヤ入力、キャリア出力は「正回転減速」となるので右履帯は減速される。
左履帯は常速で動き続けるので戦車は履帯速度の遅いほうに傾き右に旋回する。
では、操向レバーハンドルを左右とも引いたらどうなるのだろう。
まず、左右の操向クラッチが切れ、引き続き左右の操向ブレーキがかかる。
緩旋回時と同じように操向変速機からの出力は減速となるので左右の履帯の速度が落ち戦車は減速する。
この動作は九七式中戦車も同様であり、エンジン回転を落とさず1速ギヤを落としたのと同じこととなり、障害通過等に有用に使える。カタログスペックには表れない隠れた高機動性能があるのだ。
次回は「信地旋回」
パンター戦車の操向装置(その2)
記述間違い!!!
正しくは→準備中
さて、グーグルさんの和訳は結構いい線いっているが、分かりやすく意訳してみる。
意訳(オレ風)
操向装置は、主駆動用ベベルギヤ(傘歯車)、二組の遊星歯車機構、駆動制御用ベベルギヤ、対のスパーギヤ(平歯車)2組そして制御クラッチを持つ2組のステアリングブレーキ(操向ブレーキ)から構成される。遊星歯車機構の中心にあるサンギヤ(太陽歯車)はステアリングブレーキにより各々もしくは同時に固定できる。急旋回を容易に行うために一旦ステアリングブレーキを開放しクラッチを切ることにより左右の履帯はソリッドブレーキにより停止させることができる。また、ステアリングブレーキを解放することによって、駆動制御用ベベルギアを、ステアリングクラッチおよびスパーギヤを介した駆動制御機構から主駆動機構の回転方向に対向して動かすことができる。これにより履帯は減速し、戦車はすべてのギヤが噛合い単一の半径で旋回する。したがって、「単一半径(シングル・ラディアス)」ステアリングという用語が使用される。
英文も訳者の文も問題は同一のものを別表記してしまっているという事だ。そこで、操向装置の略図のどこが何を表しているのか表してみる。
なお、「gear」の読みが「ギア」か「ギヤ」かであるが、JIS表記での「ギヤ」に統一する。
① 主駆動機構
(primary bevel gear drive:プライマリーベベルギヤドライブ)
「primary bevel gear drive」は「主駆動用傘歯車」となるが、一般的な「主駆動軸」に相当するので「主駆動機構」とした。
【説明】
トランスミッションからの出力を伝えるための駆動主軸を直角に方向変換させるベベルギヤを主とする駆動機構である。赤線が主駆動機構であり、黄線で記した操向変速機(エピサイクリックギヤ)のリングギヤを駆動する「主駆動軸」といえる。
② 操向変速機
(epicyclic gear:エピサイクリックギヤ)
「epicyclic gear」の和訳は「遊星歯車装置(機構)」であるが、構成ギアに「planetely gear(プラネタリーギヤ)」というものがあり、和訳が「遊星歯車」なので混乱する要因になる。そこで、「九七式中戦車取扱保存教程」にはこの遊星歯車機構を使用した操向機構を「操向変速機」と記述してあるのでこれを採用する。
【説明】
赤線が操向変速機であり、駆動主軸からの駆動力を終減速機(final drive:ファイナルドライブ)へ伝え起動輪を駆動する。
リングギヤ(環歯車、内歯車)は主駆動軸から入力を受ける。
プラネタリーギヤ(遊星歯車)はリングギヤ及びサンギヤからの入力を受け終減速機へ出力する操向変速機の出力軸となる。また、緑線で示した主ブレーキ(ソリッドディスクブレーキ)と接合されている。
サンギヤ(太陽歯車)は操向変速機の中心ギヤであり、黄線で示したクラッチ付き操向ブレーキが接合されている。
③ 駆動制御機構
「bevel gear control drive(ベベルギヤコントロールドライブ)」は「駆動制御用傘歯車」と訳せるわけだが、「two spur gear pairs」、つまり2対2組のスパーギヤ(平歯車)と組み合わせ、一つの駆動機構を成すので「駆動制御機構」とした。
トランスミッションからは主駆動のほかに駆動制御のための出力がある。
トランスミッションから入力された駆動力はベベルギヤで90度変換され左右の操向変速機に出力される。
変速操向機へは大小2組のスパーギアのうち大ギアの方が操向用クラッチと接続しており、クラッチが繋がっている通常状態では以下のような駆動系を構成する。
トランスミッション→ベベルギヤ(90度方向変換)→小スパーギヤ→大スパーギヤ(逆回転)→操向用クラッチ→操向変速機のサンギヤ
つまり、クラッチが接続されている通常状態では常に操向変操機に逆回転が掛けられている。これでは操向変速機からの出力が超減速されてしまうのだが、トランスミッションからの出力が主駆動回転とは逆回転であるために操向変速機には常に正回転が加わる。
操向装置の機能
【通常走行時】
主駆動系統は以下の通り
トランスミッションからの出力は主傘歯車で90度方向を変換され、左右の操向変速機のリングギヤを駆動させる。リングギヤ入力による遊星歯車機構の動きは、他のギヤが固定もしくは入力がない限り一体として動くため回転方向及び駆動力は同一であり、ギヤ機構というよりも一つの軸として作動する。つまり、トランスミッションから終減速機まで一体に動く駆動主軸になる。なお、図では分かりやすくするために駆動制御機構が動いていないようになっているが、操向用クラッチが接続された状態なので実際にはすべての系統が一体になって動いている。
制御駆動系統は先に述べた通りトランスミッションからの逆出力を2組のギヤにより正回転を操向変速機のサンギヤに加える。この制御駆動機構があるわけは、おそらくディファレンシャル操向装置の欠点である「地面状況が左右の履帯に与える走行抵抗差による蛇行等」を防止し、安定した直進走行を可能とする補正機構といえる。
次回は【旋回時】の動作だ。
パンター戦車の操向装置(その1)
いかん
気づけばすでに1月も終わろうとしているな。
という訳で、今調べている「戦車の操向装置」つまり、ステアリングシステムの一例としてドイツのパンター戦車の操向装置を紹介したいと思う。
実は、日本陸軍九七式中戦車の操向装置がやっと理解でき、それに引き続く形で九七式に似た操向装置のパンター(PANTHER)戦車の仕組みについて調べていたわけなのだ。本来は九七式中戦車のはずだったのだがとりあえずパンターを先にしてみた。
資料は大日本絵画から1999年1月発行された「パンター戦車」(著:W.J.シュピールベルガー 訳:高橋慶史)だ。
実は、以前読んでも全く理解できなかったのだが、九七式中戦車との差異で理解できるのではないだろうかと期待したのだ。
やはり理解できない。
理解できている人いるのだろうか?
では以下に高橋氏訳によるところの操向装置の説明を引用する。
なお、[ ]内はルビである。
パンター戦車 62頁右段
操向変速機[ステアリングトランスミッション]は、回転トルクを伝える主傘歯車[ベベルギア]。左右の遊星歯車[プラネタリギア]機構、ステアリング用傘歯車[ベベルギア]、2組の平歯車[スパーギア]とステアリングクラッチ付きステアリングブレーキ2基から構成されている。左右の遊星歯車機構内部の中央には太陽歯車[サンギア]があり、これらは別個に、あるいは一緒にブレーキによって停止させることができた。急旋回を容易に行うため、左右の履帯を別個に停止させられるようになっており、それにはまずステアリングブレーキを解除してステアリングクラッチを切り、それから左右のソリッドディスク式メインブレーキをかける、という手順をとった。これと同時に、ステアリングブレーキを解除すると、遊星歯車機構中央部の太陽歯車[サンギア]が、コントロールドライブからの動力をステアリングクラッチを介して受け取って回転するようになり、平歯車をプライマリードライブとは逆の方向に回転させるのである。このスパーギアで駆動される履帯の回転速度も落ちて、戦車はそれぞれのギアの選択に対応して、一定の半径で旋回することになる。このように、ギアの各段につきそれぞれ一定の回転半径が定まることになるから、「シングル(単一)・ラディアス(半径)」方式と呼ばれるわけである。この形式の操向変速機は操作にほとんど力が要らず、通常の作動環境である限り、すべての状況に対応できた。
操向装置の図をどう見ても上記説明では理解できない。
どうも、ティーガーの操向装置の簡略板のようになっている。
ということで、英語板も見てみよう。
It consisted of a primary bevel gear drive, two epicyclic gears, the bevel gear control drive, two spur gear pairs and two support brakes each having a control clutch. The center solid gears in the epicyclic gearing could be arrested by the brakes either individually or collectively. In order to facilitate steering through tight turns each track could be halted by a solid disk brake, once the support brake had been released and the steering clutch disengaged. Also, by releasing the support brake a single center gear could be set in to motion from the control drive via a control clutch and a spar gear pair against the main driver's direction of rotation. The affected track would be slowed down and the tank would then make a single arc of a fixed radius for every gear engaged - hence the term "single-radius" steering.
This type of steering required little strength and could be used in all normal situations.
グーグルさんに訳してもらうと以下の通り
主なベベルギア駆動装置、2つの遊星歯車装置、ベベルギア制御駆動装置、2つの平歯車対、およびそれぞれが制御クラッチを有する2つの支持ブレーキから構成されていた。エピサイクリック歯車装置の中央のソリッドギアは、個別にまたはまとめてブレーキによって拘束される可能性があります。タイトな回転による操舵を容易にするために、支持ブレーキが解放されステアリングクラッチが解放されると、ソリッドディスクブレーキによって各トラックを停止することができる。また、支持ブレーキを解放することによって、単一のセンターギアを、制御クラッチおよび主歯車対を介して主駆動装置の回転方向に対して制御駆動装置から動かすように設定することができる。影響を受けるトラックは減速し、タンクはすべてのギヤが固定された半径の単一の円弧を作成します。したがって、「単一半径」ステアリングという用語が使用されます。
このタイプのステアリングはほとんど力を必要とせず、すべての通常の状況で使用することができました。
ふむ、訳者である高橋氏はおおむね正しい訳を行っているから著者の誤りという事になるな。赤字で示した部分が問題の記述であり、この方式はティーガーに搭載された「操向用動力装置」、つまり、操向用クラッチ、ブレーキやディファレンシャルをもつトリプルディファレンシャル方式、もしくはM4中戦車などに搭載されたクレトラック方式などの動力再生式の説明であり、パンターの操向装置(steering unit)は図を見る限り九七式中戦車同様に動力再生式ではない。
説明は次回だ