覚醒める

何途の川

年の瀬の雪が、杉井の運転する車の窓を静かに叩いていた。  


『何時頃着く❓️』


『2時くらいかな』


『どんなお邸なのかしら❓️楽しみね』


『そうだね、西浦さん一家も興味深いね』


『私、コネコネしててもいい❓️』


『もちろん、まだまだ時間あるから

じっくりコネコネできるね』


『それではお言葉に甘えて』


サっちゃんは、目を閉じて両手を温め、玉を造って"海辺で語り合う二人"と書いた。

しばらくコネコネしていると、川が現れた。

渡し舟に乗って向こう岸に向かう人が見えた。

  こちら岸を見ると船着き場のようなところでTシャツを着たサングラスをかけたパンチパーマの海水浴場の監視員風のお兄ちゃんが白い着物を着たお爺さんと話をしている。




『わかった❓️おじいちゃん

ここは生きてる内に来るところなんだよ

あんたまだ生きてるんだよ』


『わかったような、わからんような

あの舟に乗っとる人はなんじゃらほい』


『だ〜か〜ら〜、あの人はどうしても渡るって聞かないから舟を出してあげたんだよ向こう岸に行っても何にもないからそのうち帰ってくることになるんだよ

これさっきも言ったよね❓️』


『向こう岸にゃ閻魔様が

おるんじゃねえのか❓️』


『おらんおらん、誰に聞いたの❓️』


『偉いお坊さんが言うとったと

じいちゃんもばあちゃんも

父ちゃんも母ちゃんも

みんな言うとった』


『どんだけ又聞きなんだよ❓️』


どうやら堂々巡りになっているようだ。

サっちゃんはお兄ちゃんに助け舟を出すことした。


『あのぉ、お取り込み中すみません

ここはどこなんでしょうか❓️』

(しまった、これじゃお爺さんと

変わんないわ)


サっちゃんの声にお兄ちゃんは振り向くと

サングラスをずらして薄笑みを浮かべた。

その瞳は青みがかった金色だった。


『ちょっと待ってください』


お兄ちゃんはお爺さんの方を向いた。


『わかった、わかったよおじいちゃん

舟に乗せてあげるから

その前に着ているものを

脱いで川の中に入って

身体を洗ってちょうだい』


『そうか、ありがとよ兄ちゃん』


お爺さんはよほど嬉しかったのか勢いよく川へ飛び込んだ。

不思議なことに水しぶきは上がらなかったし音もしなかった。

沈んだまましばらく浮かんでこないので、心配になりかけたところで浮かんできた。その姿は20代の若者になっていた。


『わかったよ、兄ちゃん

こういうことだったんだね』


『そうそうしばらく浸かってるといいよ』


お兄ちゃんはサっちゃんの方を向いた。


『お待たせしました

ここは賽の河原と呼ばれているところです

そこを流れている川が

三途の川と呼ばれているところです

本当は名前なんかないんですけどね

ここへ来た人がみんなそう呼んでるので

まあいいか名前くらいって感じです』



『さっきここは生きてる内に来る

ところだって

あのお爺さん……

だった人に言ってましたね』



『そうです、まあ、生きてる内にって

いうのもちょっと違うんですけどね

いい言葉が見つからないんで…

心の中にある温泉

といったところでしょうか』



『どうして最初っから川に入れて

あげないんですか

あんな堂々巡りの話し合いしなくても

すむんじゃ"あ〜りませんか"❓️』



『"あ〜りません"けど調査してるんです

どれくらいそう思い込んでいる人が

いるのか知りたいんです

あそこに見える舟に乗っているのは

案山子なんです

ここに来るほとんどの人は

この川を渡って"エンマサマ"とかいう人に会いたいみたいです

ちょっと意地悪なんですけど

ダミーを置いて会いたい気持ちを

煽ってるんですよ

会って行き先を決めてもらいたいそうです

死んでもまだ他人に決めてもらわないと

いけないなんて誰に教わったんでしょうね

さっきのじいちゃん

偉い坊主がーって言ってましたよね

その偉い坊主はどこでここの話を

聞いたんでしょうね

ここへ来て確かめたんでしょうかね

どう思います❓️

そういうことを調査しているんです』


『それで何かわかりましたか❓️』


『はい、時々川を渡る船代だと言って

六文銭を渡そうとする人がいるんです

六文銭ということで時代が限定されます

ここは時間の影響が

及ばないところなんです

もっと言えば空間も

どの時代に生きていても誰でも自由に

行き来できるところなんです

あの川に入ったら心も身体もリフレッシュされて好きな様に生きていけるんです

この世界ではね

元の世界に戻ったら心はともかく

身体の方は思うようにいかない人が

ほとんどみたいですが………

だから六文銭を持って来られてもなんだかなぁって感じです

おそらく勘違いして来られるでしょうね』



『確かにここは私の抱いている三途の川や賽の河原のイメージとは全然違います』



『こことは違うと認識している

ということはあなたの中にも

三途の川は確かにあるということです

あるのは何の問題もないのですけどね

それは誰から教わりましたか❓️』



『誰ということはなく

なんとなく当たり前のように……

深く考えたことはありません』



『それだけ浸透しているということです

三途の川に限らず、困窮している時に

たまたま救われた人の声が大きくて

自分にしか通用しないことを

よく確かめもせず

子々孫々その他周辺に触れ回って

世界中に広まってしまった

だいたい六文銭なんて通貨を

使わないような時代から

来た人まで持ってるんだから

びっくりしますよ

その調達力他で使ってください

って言いたくなります』



『お恥ずかしい限りです』




『恥ずかしがることはありませんよ

川に飛び込んでご覧なさい

何もかも忘れて生まれ変わりますよ』



『服は脱がなくてはいけませんか❓️』



お兄ちゃんはサングラスの奥で目尻を下げたが頭を振って



『脱がなくて結構

結構とは自由ということです口笛



『でもあのお爺さんだった人は

なんで脱がせたんですか❓️』


『あなたが川に入る時に

訊いてくれると思いましてラブ……』


『あんたも好きねぇチュー


ハートブレイクさあさあ入った入ったハートブレイク


サっちゃんは川に飛び込んだ。

(こ、これは♨️安穏雲♨️

暖か〜い

スギちゃんはこれを再現したんだわ

もしかしたらここはスギちゃんの世界❓️)

安穏雲♨️は足だけだったがこの川は全身浸かることができ、呼吸もできた。

千手観音を独り占めしてマッサージしてもらっているような心地良さが全身に中も外も一斉に行き渡り、サっちゃんは眠ってしまった。


潮の香りでサっちゃんは覚醒めた。

寝ている間に、海まで流されて、砂浜に打ち上げられたようだ。


辺りを見回すと、海を見つめながら蔵人と赤い服の女性が波音の中で語り合っていた。今度は正面から見ることが出来たがやっぱり声は聴こえない。

(あのお兄ちゃんが言ってた

声が大きいって

クロちゃんと正反対の人

って意味だったのね、知らんけど)

 

つづく





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