"大きなクルマを運転して、みんなとどこかへ行く"
蔵人は光る玉を磨いてみた。
玉の光は紫色に変わり書かれた文字も
"アカリノミ"に変わった。

(アカリノミ❓️なんだろう❓️)
玉はだんだん大きくなって蔵人の身体を包み込んでしまった。
目の前が一瞬紫一色に染まり、元の視界に戻ると見覚えのある部屋の中にいた。
母親が住んでいる介護付きマンションの部屋の中だった。
『蔵人、ちょっと見ん間に
一段と老けてしもうた
お父ちゃんの歳はとっくに
追い越してしもうたのぉ
私が酒を飲ませなんだら
お父ちゃん
もっと長生き出来とったのに済まなんだ』
『それを言うな
お母ちゃんのせいじゃありゃせん
何回も言わすな』
しばらく沈黙が続いたあと
『おたくはどちらさんでしたかいの❓️』
『あんたの息子の蔵人さんじゃ
忘れんさったんかいな』
『おお、そうじゃったそうじゃった
お父ちゃんにそっくりじゃ
でもお父ちゃんはもっと若かったで』
『そりゃぁそうじゃ
死んだもんは歳取らんからのぉ』
『えっ❗️お父ちゃんは死んだんか⁉️
あぁそうじゃった
私が酒を飲ませなんだら
お父ちゃん、もっと長生き出来とったのに済まなんだ』
母は声を上げて泣き出した。
蔵人は手がビリビリして来たので、ふと見ると"アカリノミ"の玉を持っていた。
玉は再び蔵人を包み込み視界は紫一色になった。
大音量の演歌ととも元の視界に戻った。
蔵人は、周りを見渡す。
どうやら走っている車の中ようだ。
後部座席には若い母と幼い妹と弟がいて、耳を塞いでいる。
運転しているのは蔵人の父だった。
とても大きな人に見えた。
(ここは助手席だ、子供の頃の記憶だな
七つくらいかな❓️
それで大きく見えるのか)
父は左手を伸ばすと、蔵人が持っているモノを引っ手繰った。それは一升瓶だった。
(おいおいラッパ飲みか⁉️運転中に…)
後部座席の母は下を向いて悔しそうに自分の膝を叩きながら泣いていた。
それを見た瞬間、蔵人は元の60歳の身体に戻って、咄嗟に父から一升瓶を取り上げ窓から投げ捨てた。
『なにするんじゃ、くろう…⁉️』
父は助手席に座っているはずの息子の蔵人ではなく、かなり歳上の立派な男性に変わっていることに驚いて車を停めた。
『あんたは誰じゃ
なんでそこに座ってるんじゃ
蔵人は、わしの息子は何処にいったんじゃ❓️』
と父が言ったところで、再び視界が紫一色になり母のマンションに戻った。
母は穏やかな笑みを浮かべていた。
『蔵人、あんたこの頃ますますお父ちゃんに似てきたね
この間、今のあんたと同じくらいの時の
写真をみたら、瓜二つだと思ったけど
実物を見ると、お父ちゃんの方が
ずーっと男前だったわ』
蔵人の父は35歳で亡くなっていた。
蔵人は10歳の誕生日に母から父はもう長くないと聴かされ2週間後に亡くなった。
今の自分と同じくらいの時の写真などあるはずがなかった。
母の言葉使いも変わっている。
表情も明るくなっていた。
そして少し若くなっている。
(どういうことだ❓️)
また紫一色になったあと、父の車の中に戻った。一升瓶を投げ捨てた場面の続きだ。
『飲み過ぎで頭がおかしゅう
なっとるんじゃ
ど阿呆、表へ出え‼️』
蔵人はドアを開け、父を車の外へ引っ張り出し近くにあったベンチに座らせた。
『お父ちゃん、わしが誰かわからんか❓️
蔵人じゃ、あんたの息子の蔵人じゃ』
『爺さん正気か❓️蔵人はまだ七つじゃ、おめえみてえな爺さんなわきゃなかろう』
『そこんところはわかるんじゃな。
でも今のあんたは、まともじゃねえ。
どうしてそんなに酒を飲むんなら❓️』
『わしゃあ、昔汽車の中で
映画俳優のオッサンに
「俳優にならんか❓️」
いうて声をかけられたことがあってのお
その時は冗談じゃ思うて相手にせなんだ
そのオッサンがホンマに俳優じゃった
いうことを知ったのは
何年かあと映画を観に行った時に
あのオッサンが出とったんで
気がついたんじゃ』
『それでその後どうした❓️』
『相当大物らしいこともわかったんで
オッサンに会いに行ったんじゃ
でもその時はもうオッサンは
死んでしもうとった
そこにいた人にオッサンに声をかけられた話をしても誰も信じてくれんかった
悔しかったで』
『その話はお母ちゃんからよう聞いた。』
『そうじゃお母ちゃんとはの
そのあと酒場で
ヤケ酒を飲どる時に知り合うて
そのまま持って帰ったんじゃ
手ぶらで帰りとうなかったからの
ハハハーン』
『何がハハハーンじゃ
笑うとる場合じゃねえ』
『すんません……
帰ってきてから俳優の夢は諦めて
商売を始めたらこれがエライ当たって
繁盛したんじゃ
それで調子に乗って手を広げたら
あっという間に全部コケてしもうた
ほんなら、オッサンのことを思い出して
あの時ちゃんと話を聞いとったら
こんなことにゃならんかった
口惜しゅうて口惜しゅうて
ヤケ酒を飲んどるちゅうわけじゃ』
『口惜しかったのお、でもお父ちゃん
あんたこのまま飲み続けたら
3年も経たん内に死んでしまうで
わしの10歳の誕生日にお母ちゃんに
「お父ちゃんはもう長うない」
いうて言わせたいか❓️』
『なに❗️お母ちゃんは
おめえにそんなことを言うたんか❓️
なんちゅう母親じゃ』
『阿呆たれ❗️言わせとるんは
あんたじゃ❗️
わかっとらんの、お父ちゃん』
蔵人の言葉に正気を取り戻したのか、父は黙って下を向いた。
また手がビリビリし始めた。
車の中には子供の蔵人が乗っていた。
『お父ちゃん、蔵人は車に乗っとるよ』
『ホンマじゃ、今度はいうこときくで
オッサンおおきに』
父は嬉しそうに車に戻った。
ドアが閉まる音と同時にまた紫一色になり母のマンションに戻った。
戻ったと思ったがマンションではなく、山奥の別荘のような暖炉のある部屋だった。
『あんただけどうして老けてるんだろうね
私たちの方が若く見えるんじゃない❓️
ねぇお父さん。』
母はさらに若くなり、その隣には蔵人より若そうな、蔵人によく似た父が微笑んでいた。これは夢に違いない。夢ならば…
『お父ちゃん❗️』
蔵人は子供に戻って、父に抱きついて泣き喚いた。
涙が枯れるまで泣くと父は蔵人の頭を優しく撫でながら
『夢を代わりに叶えてくれてありがとう
でもお前の本当の夢はもっと
大きな夢だったはずだ
思い出してみなさい』
父の言葉使いが変わって、少しムズムズしたが思い出そうとして目を瞑ると
また手がビリビリしてきた。
今度は金色に輝く"他人の幸せ"と書かれた玉が現れた。












