他人の幸せ

金色に輝く玉は"他人の幸せ"と書かれていたので蔵人はそのままコネコネした。

蔵人は遊園地のお化け屋敷の入り口の前にいた。両脇には妹と弟がいる。

『兄ちゃんと姉ちゃんがいるから大丈夫よ、いってらっしゃい』

少し離れたところで父と母が手を振って見送っている。
どうやら泣き虫だった弟を鍛えるための、強制的な肝だめしのようだ。
既に涙目になっている弟が気の毒になった。
母が笑っている。
父の元気な姿は初めて見た気がする。
蔵人の記憶にはない光景だった。
父が生きている世界、家族5人で遊園地に遊びに来ている。

お化け屋敷の中は人魂から始まって、プレーンな幽霊、皿を数えるお姉さん、顔を醜く変えられた奥方、奥に進むにつれ弟の震えがだんだん強くなり、首の長ーい女中さんが弟の頬をペロリと舐めると、弟の恐怖はピークに達しとうとう大声で泣き出し、入り口に向かって走り出した。
つられて妹も走り出し、蔵人は二人に引っ張られ後向きのまま入り口から出てしまった。他にも数人子供がつられて出てきた。
それを見て、父も母も周りにいる知らない人達まで大笑いしていた。

蔵人は恥ずかしかったが幸せだった。
(これが"他人の幸せ"なのか❓️)

お化け屋敷には長い行列が出来ていた。



それから数ヶ月経ち、蔵人10歳の誕生日がやってきた。蔵人はすっかりこの世界の子供となり、元いた世界の事をすっかり忘れていた。

バースデーケーキにはロウソクが10本。


『誕生日おめでとう。はいプレゼント』


父から渡された箱の包装を取ると、クルマのプラモデルだった。

(あっ、おフジさんだ)

箱のイラストを見た瞬間、元いた世界の記憶が甦り、意識も大人に戻った。


『カッコええじゃろ、じゃけどこれからは自分でつくれ、お父ちゃんはもう作ってやれんからの。』


(やはりもう長くないのか…)

元の世界の記憶が脳裏を過った。


『お父ちゃんはこれから酒蔵を作らんといけんからの、作ってやる暇がないんじゃ』


父がそういうと、すべてが金色の世界になった。


『どうだ、父親のいる世界は❓️』


『またお前か、いや上の方にいる俺だったな。幸せな時間を過ごすことができたが、"おフジさん"を見たら元の世界が恋しくなってきたよ。』



『そうか、元の世界へ帰るか❓️』


『元の世界へ帰ったらこの世界の記憶は消えてしまうのか❓️』


『消えるのではなく隠れるのだ。お前がさっきまでいた世界は元いた世界とは別のルールで動いている。お前が選ばなかった世界だ。そこで生きていくのに重要でない記憶は見えなくなる。それに世界は二つだけではない。お前がその世界で体験した数ヶ月の間だけでも数え切れないほど選択したはずだ。少なくとも倍以上の選択しなかった世界がある、選択肢は二つとは限らんからな。お前が一家心中を止めることが出来ずに父だけでなくみんな死んでしまった世界だってあるんだぞ。』


『そうか、覚えていたら楽しくなさそうだな。夕飯の作るのに、店にある物全部買わなくていいってことだな』


『そういうことだ。』


『全部覚えてたら何もかも嫌になって、山に籠もって座禅するしかなさそうだな。』


『だがお前は30年それを無意識にやり続けてきた。夢も希望も持たず人との関わりを避けてきたのはそういうことだ。お前の世界に現れる人、物、出来事はすべてお前が創造している。その材料として記憶を使っている。何も意識しなければ、お前の感情の波に合わせて無意識が材料を選んで世界を創る。だがここに来れば、お前が直接自由に材料を選ぶことができる。

"他人の幸せ"

これもお前が創造すればいい。
他人を創ったのはお前だ。わかるな。』

『もしかしてお前も俺が創ったのか❓️』

『それもお前が決めればいい、自由にな』

『良いこと聞いちゃった』

蔵人はスゴく得した気分で元の世界へ戻って行った。


つづく



想念観察

想念観察2

想念観察3


 

宇久島


おフジさん