他人の幸せ
それから数ヶ月経ち、蔵人10歳の誕生日がやってきた。蔵人はすっかりこの世界の子供となり、元いた世界の事をすっかり忘れていた。
バースデーケーキにはロウソクが10本。
『誕生日おめでとう。はいプレゼント』
父から渡された箱の包装を取ると、クルマのプラモデルだった。
(あっ、おフジさんだ)
箱のイラストを見た瞬間、元いた世界の記憶が甦り、意識も大人に戻った。
『カッコええじゃろ、じゃけどこれからは自分でつくれ、お父ちゃんはもう作ってやれんからの。』
(やはりもう長くないのか…)
元の世界の記憶が脳裏を過った。
『お父ちゃんはこれから酒蔵を作らんといけんからの、作ってやる暇がないんじゃ』
父がそういうと、すべてが金色の世界になった。
『どうだ、父親のいる世界は❓️』
『またお前か、いや上の方にいる俺だったな。幸せな時間を過ごすことができたが、"おフジさん"を見たら元の世界が恋しくなってきたよ。』
『そうか、元の世界へ帰るか❓️』
『元の世界へ帰ったらこの世界の記憶は消えてしまうのか❓️』
『消えるのではなく隠れるのだ。お前がさっきまでいた世界は元いた世界とは別のルールで動いている。お前が選ばなかった世界だ。そこで生きていくのに重要でない記憶は見えなくなる。それに世界は二つだけではない。お前がその世界で体験した数ヶ月の間だけでも数え切れないほど選択したはずだ。少なくとも倍以上の選択しなかった世界がある、選択肢は二つとは限らんからな。お前が一家心中を止めることが出来ずに父だけでなくみんな死んでしまった世界だってあるんだぞ。』
『そうか、覚えていたら楽しくなさそうだな。夕飯の作るのに、店にある物全部買わなくていいってことだな』
『そういうことだ。』
『全部覚えてたら何もかも嫌になって、山に籠もって座禅するしかなさそうだな。』
『だがお前は30年それを無意識にやり続けてきた。夢も希望も持たず人との関わりを避けてきたのはそういうことだ。お前の世界に現れる人、物、出来事はすべてお前が創造している。その材料として記憶を使っている。何も意識しなければ、お前の感情の波に合わせて無意識が材料を選んで世界を創る。だがここに来れば、お前が直接自由に材料を選ぶことができる。
"他人の幸せ"
つづく
おフジさん









