真鯛が泳ぐ緑の海


蔵人は小野ユキに勧められて、頭の中の呟きと対談している。目は閉じたまま、無言で顔だけ笑ったり怒ったりしている。

(無言でもうるさいヤツ)

テラス席に他の客がいないのがせめてもの救いだと小野ユキが思っていると次の料理が運ばれてきた。蔵人は顔面一人芝居に完全に没入していた。止める術はなかった。



『本日のメインディッシュ真鯛のポワレグリーンピースソースでございます。

真鯛は柔らかく…甘みとさわやかさを…あり、真鯛の海を泳ぐ…グリーンピースの真鯛…くださいませ。」


給仕の女性は見てはいけないものを見てしまった顔をして、しどろもどろな説明をして逃げるように立ち去った。



『たいぴす』

蔵人は謎めいた言葉とともに目を開けた。

(うわっ、うまそー❗️いつの間に⁉️)



『たいぴすって何よ❓️』



『女性の声がして、そう言ったんです。

それを聞いたらアイツ黙り込んでしまってうんともすんとも言わなくなりました。先生、アイツはスギちゃんとこの奴と同じ奴じゃないですか❓️』



『スギちゃんとこの奴って❓️』



『ほら、足湯のアンノなんとか…』



『あぁ安穏雲♨️ね、なるほどねぇ、そうか、私は結びつかなかったけど、そう言われてみればそうかもねぇ、それでそのアイツとはどんな話したの❓️』


『それがねぇ偉そうな奴なんですよぉ。とても親友って感じじゃなくて、最初は上の方から小さな蚊のなくような声で喋るんで

「遠すぎて聞こえん」

っていったら

「上がって来い」

「何様だよ」

「俺様だ」

「ギャグか」

「ギャグだ」

「ハハハハハハ」

「とにかく上がって来い」

っていうんで上がろうと思ったら、身体が勝手に大きくなってアイツと目が合ったんです。それで質問してやりました。

「時々ブツブツ呟いてるけどなんなんだ」「やっと私の存在が気になってきたな」「お前も何でも出来るっていうのか」

「そうだお前が望めばな、だがお前は望みがなさすぎる」

「なに、望みがない❓️」

「あるなら言ってみろ」

「ウ~ン、夢も希望もない」

「ホラ見ろ、つまらん奴だ」

「うるせえ、つまらんって言うな」

「お前は遊んで暮らせてるからそれでいいと思っているだろう」

「そうだ何が悪い」

「悪くはないが虚しくないか❓️」

「……虚しい」

「お前は一度だけ私の声に応えてくれたことがある。憶えているか❓️幼い頃のことだ。」

「…憶えてない…いや、あれか、死んではならん、生きるんじゃ…」

というところで

「たいぴす」って声がしてアイツも黙り込んで消えてしまったんですよ。

「たいぴす」って何ですか❓️』



『さぁ〜聞いたことないわ。給仕のお姉さんの説明が途切れ途切れに聴こえてきたんじゃないの。あんたを見て震えながら真鯛とグリーンピースって言ってたから、可哀想に逃げていったわ。』



『なんで消えたんでしょうか❓️アイツ』



『あのお姉さんの震えが合わなかったのね周波数が…それよりあんた夢も希望もないの❓️』



『ありません』

蔵人はきっぱりと言った。


つづく





 



 

 



 

 



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