今日は太鼓の演奏デビューの日です。15時30分に現地集合なので、午前中は仕事に出てからそのまま向かいます。今回は出演料が発生するので「バイト」になってしまうため、上司にはナイショで発表会という事にしてあります。

夜から雨になると天気予報が出ているので、会社の荷物と太鼓の衣装諸々、さらに傘を持って移動です。集合先のホテルは東京駅から電車で30分程の距離。電車酔いをしてしまう私にとってギリギリ大丈夫ラインです途中下車無しで行けそうです。

電車に揺られながら今日演奏する曲を頭の中で繰り返します。ずっと練習してきた曲です、曲を忘れてしまう事は無いでしょう。私の場合は曲を間違える事より皆と動きが合わなくなる事の方が心配です。

昼の時間帯、車内はすごく空いているしポカポカに暖房も入っているので、ついウトウト。あやうく乗り過ごしそうになりました。集合時間よりずいぶんはやく到着したのですが、メンバーはすでに全員揃っていました。私が到着したのですぐに搬入作業に入ります。太鼓は軽いものでも絶対に二人で運びます。大きい太鼓5台、形の違う長い太鼓2台、ベースになるリズムを叩く締め太鼓。その他曲中に使うドラ、カネ、鈴。これらを大きな台車4台にうまく積んでホテル3階の会場まで運びます。今日はホテルを貸し切ってのパーティーなので、パーティー開始時刻までは誰もいません、ドカドカと正面から搬入しちゃいます。会場に太鼓を設置してしまうと、出番の18:30までの2時間控え室で待機です。

衣装に着替え、メイクをしても時間は十分余ります。リハーサルはしないので、一通り流れを確認した後は雑談です。私は動きの再確認をします、先生は私が心配でチラチラこちらを見ては何か言いたそうですが何も言いません、きっとあれやこれやと注意したいのでしょう、ですが本番前に緊張させてはいけないと思いぐっと我慢してくれています。
「楽しんで叩けばいいからね!」
先生は何度もそう声をかけてくれます。先生の方が何倍も緊張しています、私のせいです。。

時間です、いよいよ出番です!会場は歓談タイムでガヤガヤとしています。私達は静かに太鼓の所に移動、片膝をついてしゃがんで待機。司会の方の紹介の後、合図のドラを鳴らしたら演奏スタートです。

最初は、お祝いの和やかな雰囲気をイメージした楽しい曲調から始まります。太鼓の縁をカカカッと叩く縁打ちで皆さんご存知の三三七拍子。日本人が子供の頃から慣れ親しんでいるリズムなので、お話に夢中だった人も何が始まったのかしらと注目してくれます。注目が集まった所で、すかさずリズムが変わります。お祝いで楽しくお酒を飲んでいる雰囲気でドンチャチャとリズムが入り私達も楽しくニコニコで叩きます。会場のお客さんは全員演奏に注目しています。演奏中お客さんと目が合ったらにっこり笑顔で応えます。笑顔を向けられて嫌な人はいないでしょう、お客さんも照れたように笑顔になってくれます。会場がいい感じになった所で曲が変わります。

陽気なリズムの後は、激しく勢いがある曲です。嵐がやって来るイメージで最初に大きな風がふき、にこやかな雰囲気が一変、お客さんもびっくり。大きな風は色々な物を巻き込みながらやがて嵐になります。慌てて家に飛び込んでも窓にどどーんと風がぶち当たります、雨も雷も、ドーンガラガラ!

この曲は私の大好きな曲です。一番最初に覚えた曲という事もありますが、嵐という自然現象を題材にしているので、イメージがつかみやすいのです。叩く時いつも張り切り過ぎて動きが変になる事を注意していますが、今日の演奏はスピードがすごく早い!変な動きをする事ができないくらい早い!ついて行くだけでも必死ですが、大変そうに見せてはいけないので、笑顔で叩きます。気合が会場の向こうにまで届くように頑張ります。

ドーンと最後に雷が落ちて曲が終わりました。私の出番は残念ですがここまでです。舞台の端に引っ込みます。。次からの曲は、先生と先輩メンバーのテクニックが光る華やかな曲です。ドラや鐘、鈴も入ったにぎやかで、「おおっ」とお客さんも思わず拍手の見せ場もあります。私も参加した最初の2曲に比べ、演奏時間も長く、しかも最初からずっと叩き続けている訳ですから相当疲れていると思うのですが、メンバーの気合は全く衰えていません、私が心配で胃が痛くなっていた先生も私の出番が終わったので、スッキリしちゃって気合はいりまくり。その様子はまるで虎のようです。今にもお客さんに飛びかかりそう!

袖から会場を見ると、驚く事に全てのお客さんが歓談をやめて演奏に注目しています。お酒も入っている席ですから、半分位の人が演奏聞いてくれればいいなと思っていたので本当にびっくりしました。

ドラが大きく鳴って全ての演奏が終了しました。私の初舞台も終了です。大きなミスもなく、全く緊張しないでのびのび演奏する事が出来ました。何よりとても楽しかったです。真剣に聞いて下さったお客さんありがとうございました!そして仕事をお休みさせてくれた会社のみんな!ありがとう!!
風邪で体調を崩し、良くなってきたと思うとまた熱が出る繰り返しです。昔は一日寝ていれば何となく回復してきたのですが、最近は本当に回復が遅い!空手の稽古も太鼓の練習もお休み。。。挙句の果てに雪で滑って怪我までしてしまいました。もう最悪です。。


子供の頃は走ると足を挫き、キャッチボールで突き指をし、兄貴に上手投げで投げられ肩を外し。近所の骨接ぎ院の常連でした。小学校に上がってからは怪我をすると、学校帰りにちょっとよって治療してもらい後で母親が支払いに来る、言わゆる「付け」で看てもらっていました。

大人になってからは滅多に走らないので転ぶ事もなく、怪我とはしばらく無縁になっていましたが、社会人になってから空手をはじめたおかげで、あざ、打ち身、骨折などまたもや怪我をするようになってしまいました。

空手をはじめた頃10年前の事です。稽古中怪我をするのは大概約束組手の時で、エキサイトした自分が相手の肘や膝を思いっきり蹴ってしまったり、自分の突きで自分が突き指するなど自爆的怪我ばかりでした。試合に出るような特別な稽古をしている訳ではありませんでしたから、他の女性メンバーも大体同じようなもので、はじめたばかりの女子は約束組手であざを作り、エキサイトしすぎない事と当てると自分が痛い場所を学んでいました。

女子部の中で私と同じ歳のNちゃんは170センチ近い長身で、スタイル抜群のモデルのような女子です。ロックバンドのベーシストでライブではサラサラの長い髪が揺れて凄くかっこいい!ファンも沢山いるようでした。真面目でストイック、空手の稽古も休まず参加していたので入会は私より遅かったのですが、みるみる上達。私と体格は真逆でしたがお互いに影響を受け、教え合ったり時には励まし合うなどいいライバルでした。そんなNちゃん、足の怪我が多いんです。

ちびっこの私は頑張っても強い蹴りには限界があります。そこで、相手の呼吸のタイミングで急所をピンポイントで狙ってダメージを与える蹴りを教わりました。膝から下を柔らかく使って狙いどころをコントロールします。Nちゃんが教わったのは長身と長い足を利用しての重い蹴り。身体のひねりと遠心力を利用して、ぶおーんとぶん回す。Nちゃんの蹴りをまともに受けると男の人もよろめく事があります、まるで丸太がとんで来るようです。

ぶん回し蹴りの場合、蹴りはじめの早い段階から体重を乗せているので、軌道を途中で変更すると勢いが落ちてしまいます、相手を見てある程度の軌道修正は必要なのですがNちゃんは細かい事にはこだわらないと言うか、細かいことは面倒くさいタイプなので、一度蹴り出した軌道は変えずにドカーンと蹴ります、例え相手の膝に向かってでも。。

膝もいい角度で当れば相手にダメージを与える事になりますが、組手相手もNちゃんの蹴りをまともにくらう訳にはいかないので、きれいにブロック。肘や膝の堅いところに当ればNちゃんかなりのダメージです。そんな稽古の後の女子更衣室ではドット柄のようになったNちゃんの長い足に、みんなで湿布を貼ってあげます。

「いくら空手をしているからって、女の子がこんなにあざを作っちゃダメよ!」
「毛細血管が潰れてコチコチの足になっちゃうわよ。」
「スカートはけないじゃない!」

女子部の年長メンバーから注意をされます。実家のお母さんのようです。それでもNちゃんはどこ吹く風と言った様子で、休む事なく元気に稽古をしていました。そんなNちゃんがある日左足を引きずってきました。見ると足先が石膏で固められています。骨折です。

「どうしたの!」

「。。タンスの角に小指を。。ぶつけて。。」

「え!」

足指の骨折は女子部のメンバーも経験している人が多く、私も左右両足の小指を骨折した事もあります。腫れていたいのですが、テーピングをしておくとわりとすぐに治ります。気付かずに完治していて、他の怪我でレントゲンをとって気がついたという子もいます。

Nちゃんの骨折は重症で腫れも痛みもひどく稽古を休まなければならない程でした。どんだけ強くタンスを蹴ったのでしょう。自分の不注意から稽古を休む事になりNちゃんはかなり落ち込んでいます。そんな所に先輩から励まし半分からかい半分でいじられて。でもじっと耐えて怪我の回復を待ちます。

結局Nちゃんは一ヶ月近く稽古をお休みして復活しました。怪我は完治したのですが、骨折した方の蹴りは以前程威力がありません、蹴る時に一瞬躊躇してしまうのだそうです。そこでNちゃんは手技の練習を増やし特にフックに力をそそぐ事にしました。

Nちゃんは腕も長いので、自分の懐から遠くの相手まで射程距離があります、コンパクトなフックから少し大振りのダイナミックなフック。Nちゃんの練習相手になった私は、色々な角度で繰り出されるフックをブロックせず全てよける練習です。顔面を狙って来るフックには、蹴りを警戒しながら身体を低くし、相手の背中に回り込み次の攻撃がこないように肩を抑えて制します。すかさずNちゃんからのミドルを狙う突き。長い腕でずーんと延びる突きです、足運びでは避けられないので、突き手をさばきながらNちゃんの背後にピタッとくっつくようによけます。すると振り向き様、懐を狙う角度で顔面にフック!キツイねNちゃん!さらに身体を低くしてよけつつNちゃんの身体を押して自分が横っ飛びして距離を取りやっと息をつきます。

二人の約束組手は次第にスピードアップして、攻撃側も受け側もかなり練習になったと思います。稽古終了後の女子更衣室で、Nちゃんは「タンスにはくれぐれも注意した方が良い!」と形の変わってしまった小指を見せてくれました。

注意しますとも!タンスには!
雪で滑って怪我しちゃいましたけど。
月曜日は太鼓練習日です。土曜日に埼玉のメンバーとの合同練習に参加し、この数年味わった事の無い程の筋肉痛ですが、やる気満々。イメージトレーニングをして先生を待ちます。

「こんばんは!よろしく!はい、搬入してっ!!」

先生来るなり元気です。そして超せっかち。合同練習の時になおしきれなかった私のフォームを、今日のマンツーマン練習で徹底的に矯正するとの事。くそ~っ!!頑張るぞ。

いつものように素振りから基本打ち。先日の合同練習でいつもの倍の時間練習をしたので、嫌いな素振りもあっという間に終わった様に感じます。


「筋肉痛になってない?」
「全然平気ですっ!」

強がって嘘をつきました。

「この前、練習量足りなかったかな。。じゃあ今日は徹底的にやるわよ。」

嘘をついた事を後悔しました。


他のメンバーと一緒に演奏して、身体の動かし方、腕を上げるスピードが合わない事を自分でも実感しました。特に左腕を上げるスピードが遅く、一列に並んで演奏するので遅れた動きはかなり目立ちます。「合同練習の長い素振りと基礎練習にも遅れず何とかついて行けたので、筋力はある。後は脱力と締めるタイミング。」そう先生は言います。素振りも基礎練習もギリギリついて行ったんですけど。。

前回からの練習で、手にはまめが出来ていて、まだ治りきっていません。痛いのでかばうようにバチを握ると、力が抜けていい感じ。力が抜けると早く腕が上がります。叩く瞬間は小指の方からぐっと握る。

いつも力任せに叩いてしまっているので、本来出来るはずのない所にまめが出来ていました。まめのおかげで今日は正しくバチが握れているようです。連打の時もバチを上げるスピードを意識しているので、回転するようにスムーズに叩けます。今日はいける!

先生も私の好調を感じたのか間を空けずに曲の練習に入ります。

演奏する曲は2曲。オープニングの2曲です。元気の良さだけが取り得ですから、技術が伴わない分気合で頑張ります。問題はのればのる程奇妙な動きをしてしまう事。先生も私の「気」を抑えない様に動きを矯正するのに頭を悩ませています。

「身体揺らさない!」
「バチの先あげ過ぎ!」
「口開けすぎない!!」

2曲をずっと叩き続けている間、私は先生から注意され続けます。こんなに注意をしなくちゃならない先生が気の毒です。

練習が終わり近くになると身体の動きも何とか格好がついてきました。手にはまめが出来ていません!演奏本番まで後一回練習があります。

「来週まで今日の内容忘れないでね。。」

先生ぐったりです。私のデビューが心配で胃が痛いそうです。
「大丈夫!頑張るから!」