いつだって、感情が理性より優先されてきた。 | 薬剤師アイの生活日誌 

薬剤師アイの生活日誌 

 調剤薬局という特殊な職場の、実情について書きつづったブログです。

 意外に知られていないくすりに対する様々な知識などもアップしていきます。

 世間知らずといわれないように読んでいる、政治経済の本なども紹介していく予定です。

こんばんは、アイです。

胸と腋下にしこりがあることに気付きまして、マンモグラフィーや針生検の結果、

経過観察との診断でした。

 

乳がん検診は意味がない、というデータがあることは知っていますが、

受けないわけにもいかないじゃないですか。

家族が心配しますし、特に看護師の妹は問答無用といった調子です。

万が一の可能性すら、潰せというのです。

 

人間は誰でも不安や恐怖を克服して安心を得るために生きる

そんなセリフを吐いた悪役がいましたが、つまり安心を得るということは、

悪の道を選ぶのと同じ意味かもしれません。

 

 

「咳止めをお願いしたのに、出ていないんですか・・・」

 

投薬カウンターで困った顔をする患者さん、のお母様。

 

4歳の子供が昨晩から咳をしているとのことで、ひと駅離れた

キッズクリニックを受診したようですが、処方されたのは

抗アレルギー薬と去痰薬のシロップでした。

 

「うちの薬歴を見る限り、4か月前と同じ処方ですね。投与量も同じ。

たぶん、前回の薬をそっくりそのまま出しただけじゃないですかね。」

 

パソコンの画面から当人に視線を移すアイ。

座っているのも辛い様子で、薬局の待合室のベンチに寝転がっています。

 

「熱っぽい顔をしてますね。インフルエンザじゃないですよね?

体温は何度でした?インフルエンザの可能性について、

何か言われませんでした?」

 

「発熱は39度まで上がっています。インフルエンザについては、

先生は何もおっしゃいませんでした。検査もされませんでした。」

 

「そうですか。先生に問い合わせて咳止めの追加をお願いすることも

できますけど、今回は正しい選択ではないような気がしますよ。

この近くに別の小児科がありますから、もう一度受診してみたら

どうですか?処方せんは預かっておきますから。」

 

「は?今からもう一度病院にかかれと?」

 

「処方通りに作ってお渡ししてもいいですけどね。

咳止めの入ってないシロップを持って帰って納得できます?

夜中とか明日とかに、もう一度お子さんを連れ出さなきゃいけない

ハメになるよりは、今日中に済ませておいたほうがいいと

私は思いますよ。」

 

アイがそう言って愛想笑いを浮かべると、釈然としない様子で

お母様はお子さんを連れて薬局を出ていきました。

 

医師が処方権において咳止めは必要ないと診断したのですから、

薬剤師がそこに口を挟むのは越権行為です。

インフルエンザではなく、ただの風邪なら咳止めはもちろん

抗菌薬も不要ということでしょう。

 

まあ、患者さんが医師の指示に従うか。

薬剤師がどう対応するかはまた別の話ですけどね。

 

数時間後、先ほどの親子が再び来局されました。

 

 

「・・・また同じクリニックに行ったんですか?」

 

これは予想外。わざわざ戻って、再受診したそうです。

しかも新しい処方せんが出ました。ゾフルーザに解熱剤。

 

「インフルエンザの検査キットを使ったら、すぐに陽性が出ました。」

 

薬局の現場では『後に言うほうが正しいんだよ、オレがお前に言うときはな!

なんて状況もあります。

アイとしては正しい選択のうえで報酬も頂ければ、後はどうでもいいのです。

 

 

日本の医療財政は厳しい状況にありますが、

インフルエンザの対応ひとつとっても、軽く絶望的な気分になります。

 

代表的な抗インフルエンザ薬であるタミフルのジェネリック薬品

オセルタミビル)がようやく発売開始されたというのに、話題にも上りません。

代わりに第一線に立ったのが、ゾフルーザです。

 

1回服用すればいいだけ、という簡便さは確かに魅力的です。

しかし、仮に一般成人が使用するとして

 

オセルタミビルの薬価は計1360円

ゾフルーザの薬価は計4789円

 

つまり、約3.5倍のコストアップになる計算です。

昨年までよく使われていた同効薬のイナビル吸入薬は計4280円なので、

それよりもさらに高くなりました。

 

インフルエンザなんて、放っておいても治るような病気に

高額な薬をバンバン使ってたら、医療費なんて国民から幾ら集めても

足りませんよ。

 

ただ、病気になれば本人も家族も放ってはおけない。

医師はそれに応じて採算度外視の治療や処方を行う。

薬剤師にはそもそも何の権限もない。

 

それこそ、AIで機械が管理するようにならない限り、

医療とそれにかかるコストの問題は、永久に解決しないでしょう。

 

しょせん、人も獣に過ぎません。理性より本能的な感情を優先してしまう

動物なのです。

 

 

薬局薬剤師として、アイにできることは本当に無いのか。

 

できることがあるとすれば、悪の道を熟知したうえで、

ささやかな道案内をすることぐらいかもしれません。