浮気男欠席という最終答弁後、僕と美人弁護士は証人尋問の準備に入った。


証人尋問とは当事者が法廷で直接に裁判官や弁護士の質疑の応える場である。

当然ながらここで述べたことは証拠と同じ効力があり、ここで嘘をつくと罪に問われる。


美人弁護士は丁寧な問答集を準備してくれた。

「いよいよ、ここまできましたね。これで最後です。僕さんの正義を裁判官に伝えましょうね。

浮気男がバカで嘘をついていることが裁判官もわかっていると思いますよ。相当、心証悪い

ですから。こちらは、これまでの主張を積み上げていきましょう。


バカ男(浮気男)は法廷に来ない可能性が大きいですけど、ま、たんたんとやりましょう」


美人弁護士はそんなメールをくれた。美人弁護士が用意してくれた尋問用の回答案に

目を通したが非常に丁寧に作られていた。この方にお世話になってから数ヶ月、本当に親身に

対応してもらっているという感謝の気持ちで一杯だった。


その夜、僕はこれまでの法廷でやりととして浮気男の主張文(答弁書)や証拠書類に目を通した。

浮気男の侮辱的な文章は許せなかった。怒りがこみ上げてくる以上に、こんなイカレタ馬鹿男に

2年も振り回されている自分の人生が悔しかった。


何度も何度も、これまでの記憶が頭をよぎった。辛い日々、悔しい日々、そこから立ち上がって

きた時間・・・・もう流す涙は僕には残っていないんだと思う。悔しくて、情けなくて、、、そんな自分

が現実の自分だと思うと辛かった。


気がつけば夜が明けていた。時計は午前五時を回っていた。

僕は興奮のあまり一睡もできなかった。


4時間後、僕は法廷に立っているんだな。


窓から見える小雨降る朝の空。僕の心の色はこんな感じなのだろうか。




最終答弁が浮気男の強い要望で一回追加することになった。

僕たちからは追加で特に言うこともなかったが、前回の浮気男の主張を踏まえて、

彼の答弁書の中における矛盾点と執拗に僕を侮辱・脅迫する行為を判例を交えて

主張した。


「ここまでする必要もないけど、バカが手も足も出ない状況を作ってやりましょう。

あいつ、あれだけデカイ口叩いてるからには何かまともな資料とか持ってこないと

ふざけんなって言っちゃいそうですよ」


美人弁護士は電話越しで熱く語ってくれた。


答弁当日の夜、美人弁護士から報告のメールがきた。どうやら、浮気男は法廷に来な

かったらしい。自分から強くもう一回やらせろと主張したにも関わらず・・・

「あのバカ男、やってくれますよねー。こっちがどんだけ準備したと思ってんだよ。

キモイ顔してるだけじゃなくて、やることもキタナイんだよ」メール文は荒れていた。。。


メールによると答弁当日の朝、浮気男から裁判所に欠席の連絡はあったらしい。

書記官からは、あなたの要望で開催するのだから来なくてはだめだと強くいったらしが

この様である。書記官の話によると次回の証人尋問にも来るかわからない様子だった

とのことだった。


どこまでも非常識な男だった。

常に僕は言っている通り、僕は金が欲しいんじゃない。心から謝罪して償って欲しいだけだ。

それができないなら、徹底的にやってやるしかないと思っている。


学生時代からの親友ナギマがご主人の転勤に伴い地方へ行くことになった。

しかも来春にはママになるという。人への優しさ、人の胸の痛みをたくさん知ってる奴だから

きっとステキなママになるんだろうと思う。


同じく学生時代からの親友スーが、もうすぐパパになる。

卒業旅行の資金を貯める為に一緒に今じゃありえない泥臭いバイトを一緒にしたり、ゼミや

大学の授業で覚えたばかりの知識を使っては夜遅くまで天下国家を論じたり、時には恋愛の

話をした。努力家でがんばり屋のくせに、やたらとロマンチストなスー。

きっときっと、ステキなくらい親ばかっぷりを見せてくれるんだろうな。


まだ見ぬ親友達の子供達。早く会えるのが楽しみだったりする。

親友の子供は僕の大事な仲間なんだと勝手に思いながら。

浮気男から最終答弁の資料が届いた。内容は、


・僕に監禁され、暴力を受けたたことを警察に通報した

・刑事が逮捕に向けて動きはじめると言っている

・悪徳弁護士とバカ男が結託して、善良な市民を陥れようとしており、今後はマスコミにも

 訴える予定

・刑務所から謝罪文を書いたら許してやってもいい


というなんとも、呆れる内容だった。


「あのバカこんなことで大人がびびると思ってるんでしょうか? こんなバカの発言で刑事が動く

社会だったら大変ですよね・・刑務所からって、罪状はなんなんでしょうかね??」

美人弁護士はくだらない漫画でも読むように浮気男の書面を見せてくれて笑っていた。


この時期と前後して僕は以前、浮気男からもらった脅迫メールで美人弁護士に渡していなかった

別の時期のものを見つけたので証拠として出すことにした。『てめーの人生後悔させてやるからな』

という短いものだが脅迫として使えるからだ。


「こいつ本当にいかれてるから判決出たら、強制執行で給与差し押さえてやりましょうよ。

勤務先に裁判所から差押通知がいって、職場を解雇されるのが一番のバカに塗る薬ですよ。

あとこういう、警察に通報するとか刑務所から謝罪とかも立派な脅迫なので、この辺も執拗な脅迫

の証拠として使いましょう。判例もありますからね。美人弁護士を続けて僕にいった。


最終答弁の夜、美人弁護士から報告の電話があった。どうやら、あと1回答弁をやることになったそうだ。

「私が追加の証拠書類だしたら、浮気男が『今更、証拠出せるなんて聞いてねーよ!!ふざけんな』って

裁判官にくってかかったんです。ずっと駄々こねるもんだから、裁判官も浮気男にも主張のチャンスを

もう一度与えたいといって、あと1回答弁することになったんですよ。最悪ですよ。まったく!!

弁護士つける金がないんだから、てめーの問題だろっていいたくなりました。とりあえず裁判官の心証を

最悪ですね。バカに対しては。」


また1回続くのかと思うとげんなるするが仕方がない。浮気男を追い詰めるには仕方がないのだろう。


美人弁護士がいつも言うように、こちらはやるべきことを淡々とやるだけなのだから。




久しぶりにコユキと晩御飯を食べた。職場が近いこともあり、会社帰りに会うかと終業の

1時間前に決定した。普通、女性と晩御飯というと、キレイな店でもと思うが、学生時代からの

悪友コユキが相手となると渋い居酒屋になった。


独身の彼女はバリバリのキャリアウーマンとして後輩の指導や目の前の業務のことを熱く語っ

てくれた。学生時代にも増して暴言を吐く量が増えたけど、大学卒業後から今に至るまでの彼女

の社会経験や人生経験がそんな暴言を支えるだけの含蓄をもたせていた。


「僕ちゃん、一時はどうなるかと思ったけど、イイ顔になってきたよ!よかった。

カッコイイ30代になれてるから安心しなって!!」

順調な僕の仕事の話をしたあと、彼女はこんなことを言ってくれた。


たわいもないくだらない話で僕らは盛り上がった。学生時代のように。

もちろん学生時代のように、そこに恋愛感情なんかはないんだけど、信頼というか安心とかそういう

ものは変わらずに流れている。


「色気と可愛さ、そんなのを持っているステキな大人にお互いなりたいよねー。もう若さとか売りに

できないんだし」コユキはそう言った。


「だな。まあ、お互い腹が出てきたり、目じりのシワが気になりだしたら、指摘しあってカッコイイ大人

でいたいよな」

そんなどうでもいいけど、でもこれから先にくる明るい未来の話をした。


久しぶりに母校のキャンパスを訪れたい気持ちになった。

毎年恒例になっている年末の同期たちとの集まりが今から楽しみだ。


4回目の法廷が開かれた。いつもの通り、僕側は代理人である美人弁護士に任せ、浮気男

は独りで法廷に立ったそうだ。


事前に提出された僕側の書類には浮気男とのやりとりおさめたボイスレコーダーを書面にした

反訳を提出した。浮気男から出された資料は相変わらず無茶苦茶だった。。。。


・クズ男の原告(僕)の暴行されて社会的地位を失った

・クズ男の原告は女々しい文章しか書けないアホ

・哀れな男を刑事告訴するつもり

等等、、、公衆便所の落書きのような文言がづらりと並べられていた。。。


『こんなんじゃ、裁判官の心証も悪くなるなんですけど、本当にバカですよね』と言っていた。



さて、裁判の状況についてだが、これまた酷く、美人弁護士からの報告は以下の通りだった。

『さすがにボイスレコーダーと証拠文面を突きつけられて参るかと思いましたが、あいかわらず

のバカっぷりでしたよ。見てて可愛そうになるくらい哀れでした・・・ほんと、私は下品な男は絶対

ダメですね。


バカ男はこのテープは俺を脅迫して暴行した証拠だ、僕を刑事告訴する!!ってしきりに大声を

あげてましたよ。裁判官からは民事と刑事は別なので、刑事は刑事裁判でやってくれって何度も

言われてました(苦笑)。 監禁されたんだとも発言したので、「でも逃げれたでしょう?」と裁判官

に聞かれたら「覚えてません」って感じで。。。頭弱いですよね。まあ、裁判は勝てるのは間違い

ないですけど、慰謝料をどんだけとれるかってとこですかね。ほんとっ、こんな男が世でノウノウ

と暮らしているだけでもムカつきますわ』

美人弁護士は当日の話を報告してくれた。


次はいよいよ最終答弁で、証人喚問という流れだ。

また、あの忌々しい浮気男に会うことになるかと思うと胸がムカムカしてくる。






ボイスレコーダーで録音した浮気男との話し合いの場を文字お越しする必要があった。

裁判の証拠資料として書面にする作業だ。


美人弁護士の知り合いの業者に依頼することにした。金額は5万円・・・・


『僕さん、ボイスレコーダーを書面にしました。内容拝見しましたが、本当に凄いやりとりですね・・・

浮気男のバカたれっぷりはないですね。しかし、唯一浮気男が不貞を認めている重要な証拠に

なるから、かなり使えますよ!』

電話越しに美人弁護士がボイスレコーダーの内容に対する法的見解を含め、いろいろ話してくれた。


『ありがとうございます。でも、内容は読みたくないです。。。あのときのことを思い出すだけでも精神的

におかしくなりそうなのに。また思い出しちゃいますよ。。。情けないですけど』僕は情けない回答をして

しまった。でも、僕の本心だった。

『僕が暴力をふるっているシーンはどんな感じでした?』とりあえず、浮気男は僕を傷害罪で訴えるという

主張をしているので聞いてみた。


『うーん、暴力を受けたという証拠にはならないでしょう。僕さんの言葉はかなり乱暴ですけどね。でも、

暴力受けたって病院に行って診断書を取ったわけじゃないし、自分の妻の浮気相手に冷静に対処して

るほうが、普通じゃないですよね。まったく問題ないですよ! お気持ちはわかりました。では、私のほう

で書類の準備をします。ただ、文書だけは当時の雰囲気が読み取れない箇所もあるので、そのときは

協力お願いしますね。バカタレを社会的に消してやりましょう!!』

いつも以上に元気に対応してくれた。


僕を気遣ってのことだろうとわかっていても嬉しかった。



法廷に立った。

ドラマや映画で出てくるような法廷よりも少し小さかった。


法廷に立ってから、2週間ちかく経つが、あの光景を忘れることはできない。

裁判官が少し離れた正面にいて、憎き浮気男がすぐ横で横柄な態度でいて。。。


あの光景が脳裏によぎるたびに、気が狂いそうになる。頭の中をかきむしりたくなる。

あのときのことを思い出すと胸が苦しくなって、呼吸がつらくなる。


この2年間の出来事が夢だったらいいのに。いつもそう思っている。

こちらが証拠を集めを行っている最中に、浮気男の主張を記した書類が裁判所に

提出された。裁判がはじまると、毎回、双方の主張やその主張を裏付ける証拠書類を

提出することができる。


美人弁護士からメールがあった。

「キモイ馬鹿から書類が届きましたが、内容もキモイです。メールで説明するのも気分

悪いですよ。こいつ、まじ潰してやりましょうね。こんなに裁判を舐めている奴は弁護士

として許せないですよ」

弁護士の怒りのこもったメールは、長々と綴られていた。その日の夕方、僕はすぐに美人弁護士

の事務所に出向いた。


浮気男の書類を手にして怒りで手が震えた。。。

「いかれた男といかれた弁護士につきまおとわれて、正直うっぜーと思ってます。どうかこの馬鹿ども

を裁いてください。善良な市民の生活が脅かされています。こいつらは金のためなら、どんな汚いこと

でも平気でやるハイエナです。私の人生にかかわらないように重刑を希望します。はっきりいって、

馬鹿すぎ~」


ふざけている。本当にふざけている。ここまで自分が時間をかけて準備してたどり着いた法廷の場を

こんなに舐めた書類で対応するなんて。。。


美人弁護士は言った「僕さん、怒りを沈めろなて無理なのはわかります。私だって、この馬鹿を徹底的

に潰してやりたいし、社会復帰できないくらい追い込んでやりたいと思ってますから。でもね。これ裁判

だから。こんな主張して裁判が有利に進めるはずないんです。裁判官の浮気男に対する心証は最悪

だと思いますよ。こうなったら、まずは勝訴、多額の損害賠償確保を第一目標として、徹底して追い込んで

やりましょうよ。負けることはないし、和解もなし。馬鹿男に法律の怖さを教えてやりますよ。私が。」


美人弁護士は僕をフォローしてくれた。


その日は眠れなかった。悔しさと怒りで興奮状態が続いていた。

ネットで探せる制裁方法では僕の怒りを収める方法はなかった。浮気男には日のあたる道を歩けないよう

な制裁を加えてやろうと思う。絶対に。

法廷に立ってきました。

自分の人生で法廷に立つとは。。。


まだ気持ちが不安定なので、もう少ししたら

時系列にまとめていきます。


とりあえず、久しぶりにブログを更新します。