整形外科から帰って来て、車を降りたところで、品のいい小柄なおばあちゃんから声を掛けられた。
「sifusoさんじゃありませんか?」
「はい、そうです」
「エビハラです」
「え!トモさん?」
「そうです。お久し振りです!」
半世紀振りの再会であった。お互い、名前が出て来るところが、凄いではないか。
遠い昔、ワタシが地元大学の工学部に通っていた頃、故Kitaro夫婦が住んでいた竹林荘は、空き家になっていた。
竹林荘は、今風に言うとバス・トイレ付きの9LDK。茶室が2つある純和風の建物であった。
家は、住む人が居ないと、どんどん荒れて朽ちて行くものである。それは困るので、誰かに貸そうということになり、不動産屋を介して借り手を探した。
最初に紹介されたのは、非破壊検査会社の社長であった。面接に現れた社長は、落ち着いた感じの中年の紳士で、ワタシは、内心合格だと思った。
ところが、母が難色を示した。「非破壊」が、怪しいと言うのである。非破壊検査というのは、別に怪しいものではない、といくら説明しても、頑として聞かないのだ。
Safuroとワタシの説得は、功を奏さず、可哀想に非破壊検査会社社長は、不合格になった。
次に、Safuroの高校(旧制第五高等学校)同級生の娘婿が、紹介された。
因みに、この同級生は、大学の化学の教科書に名前が載っているような分析化学の大家であった。
Safuroが言うには。
「彼は、学生の時から違っていた。金属イオンの系統分析の実験の時、我々は教科書と首っ引きなのに、彼はすべて暗記していて、教科書を見ることがなかった。凄い男だと思っていたら、やっぱり立派な学者になった」
系統分析は、ワタシもやったことがあるが、七面倒臭い操作を繰り返す必要があり、とても覚える気にならなかった。Safuroもワタシも学者タイプじゃないのだ。ははは。
娘婿は、ワタシの大学の電気工学の講師であった。長男が生まれたので、官舎が手狭になり、借家を探していたのである。
(続く)