新しい総理大臣が誕生して、「2024 政治の季節」は一段落した。

 

浮いた人あれば沈んだ人あり、いつもながらの永田町劇場だが、今回顕著な傾向としてあらはれたのは、「激越な物言ひをする人たちの挫折」だ

 

自民党総裁選では石破茂氏が決選投票で逆転勝利し、高市早苗氏、小泉進次郎氏らが敗れた。

 

その数日前の立憲民主党の代表選では、野田佳彦氏が勝って枝野幸男氏が敗れた。

 

少しさかのぼつて、7月に行はれた東京都知事選では、小池百合子氏が勝つて、「2位ぢやダメなんですか」の蓮舫氏がまさかの3位に泣き、その後、とんんと消息が知れなくなつた。

 

高市氏は新総裁の下の党役員ポストを拒否して無役となり、民主党の枝野氏は“一丁上がり”の会長職「党最高顧問」を呑んだ。

 

ついでに言へば、総裁選で高市氏を推した“中折れ帽”の麻生太郎氏(84)もたうとう「党最高顧問」に祀り上げられた。

 

この夏、敗北したこれらの顔ぶれは、高市氏、小泉氏、枝野氏、麻生氏、蓮舫氏など、日ごろからいづれも舌鋒鋭い「攻撃的な物言ひ」をウリにした論客である。

 

ご存知、かの「上から下まで白ファッション」の蓮舫氏が国会で質問に立ち、たぢたぢの首相や大臣を激しく糾弾する場面を思ひ浮かべるまでもない。

 

小泉2世もあの犀利な顔立ちを生かして論難の名手である。

 

次元は少々異なるけれど、県庁役人に対する感情的な叱責やおねだりスキャンダルで名を馳せ失職した兵庫県知事の斎藤元彦氏を、この列の最後に加へてもいい。

 

かういふ人たちが、この夏、揃つて涙を飲んだのはなぜか。何か原因でもあるのか。

 

逆に、勝利したのはいつも茫洋として口ごもるやうな話し方の石破氏であり、容姿のことを言ふのも気がさすけれど目蓋が重く下がつて、放つてをけば眠つてしまひさうな野田氏だ。

 

時代は、高圧的に、かつヒステリックに人を指弾、攻撃する物言ひ、態度を嫌ふといふことか。

 

――といふやうなことを晩酌のつまみに家人に話したら、

「あなたもいい歳なんだから、少しは物言ひに気をつけないと」

と早速イエローカードが飛んできた。

 

「キツイ物言ひ」は、新聞記者時代の記者会見を最後に卒業したつもりなのだけれどーー。

ところはパリのシャルル・ド・ゴール空港。乗り換え便を待つあひだ、空港内のロビーで時間をつぶしてゐた。

 

ワインの店に列ができてゐた。

 

いくらフランスでも、空港内のレストランであまり旨いワインは期待できないけれど、機内で飲み飽きたコーヒーよりはマシかと客の列に並んだ。

 

長い行列だが、列の動きがおどろくほど速い。一度止まつたかと思ふと、次の瞬間にはもう動き出してゐる。

 

ワイン店のカウンターにゐる中年の女性スタッフの手際がすばらしくいいのだ。

 

ワインはまづ、コルク栓を抜かなくてはならない。慣れないとこれが一仕事。抜栓が面倒だからワインは嫌い、といふ人もゐる。

 

ところがこの女性スタッフの手にかかると、まるでビールの栓を開けるやうに軽々と栓が開く。

 

ふつう、ワインの抜栓は次のやうに進む。

 

➀瓶のコルク栓をくるんでゐる鉛のシールを、ソムリエナイフで回し切る

➁ナイフの螺旋状のスクリューをコルクの中心に刺す

➂スクリューをコルクの下に押し込む

➃ナイフの端のカギ型の部分を瓶の口に掛け、梃子の応用でスクリューを引き上げ、栓を抜く ➄スクリューからコルクを外す

 

女性スタッフはこれらの作業を、➀は右へ1秒、左へ1秒の計2秒。コルクの中央に刺すのが面倒な➁も1秒、力仕事の➂は2秒、手慣れた➃は3秒、➄は2秒ほどーーで終へる。

 

まさに手品のやうに栓を抜く。

 

素人だと、かなり習熟した人でも、➀に10秒、➁にも10秒、➂に20秒、➃に30秒、➄に数秒の、計1分余は要する。彼女はそれを10秒ほどで完了する。

 

ワインバーにはよく行くが、こんな抜栓の名人を見たことがない。

 

ところ変はつて、きのうまで両国国技館で開催された大相撲9月場所。

 

2004年1月、モンゴルから来日して初土俵を踏んで以来20年、一日も土俵を休むことなく、ことし(2024年)9月10日、伝統ある大相撲の歴史に「連続出場記録1631回」の金字塔を打ち立て、さらに記録を伸ばしてゐる東前頭10枚目・玉鷲(たまわし)一朗、39歳。

 

体重200キロ近い力士が激突する立ち合ひ、勝負の土俵際では、双方手も突かず、もんどりうつて頭から落下する。

 

怪我をしない方がをかしい。机に向かふだけのサラリーマンだつて、20年間病気にもならずに「皆勤」するのは容易でない。

 

格闘技中の格闘技ともいふべき大相撲で、病気も大怪我もなく、連続出場記録を作つた裏には人知れずの苦労と節制があるに違ひない。

 

とかく話題になる「モンゴル派」とは距離を置き、将来も相撲界に残る決意で、ことし3月、日本国籍を取得した。エライ、スゴイ!といふしかない。

 

床屋政談みたいなことを言ひたくはないのだけれど、それにしても最近の政治家はみんな薄つぺらくなつたなあといふ思ひを禁じ得ない。

 

9月27日に投票が行はれる自民党総裁選に立候補する顔ぶれの話である。

 

自民党総裁は、今の政治情勢では内閣総理大臣、つまり、わがニッポンのリーダーとなる人であり、世界各国の首脳相手に会談して日本の国益を守つたり、場合によつては相手に宣戦布告する権限も有する。

 

いま総裁選に名前があがつてゐる人たちにそんな権能を任せて大丈夫なのかと不安になる。

 

「薄つぺらになった」と言うのは誰と比較してかといへば、頭に浮かぶのは、1973年5月、ぼくが政治記者になつたときの自民党の有力政治家たちの顔ぶれである。

 

佐藤栄作、田中角栄、三木武夫、福田赳夫、大平正芳、中曽根康弘――佐藤内閣が退陣して、「さて、お次に控へしはーー」と言はんばかりに、「三角大福中」がずらり。次の総理がこの中から選ばれることは間違ひなかつた。

 

ぼくが最初に担当したのが、時の総理大臣・田中角栄に朝から晩まで随いて回る「総理番記者」だつた。

 

最後は中曽根派閥担当で、とくに親しく接触したのはこの二人と、中曽根派の大番頭・桜内義雄元衆院議長だが、単に取材で接しただけの人でも、今回の総裁選に手をあげてゐる政治家とは比較にならない「政治家としての風格」があつた。

 

高等小学校卒でありながら、独特の直観力と秀抜な才気で政界を生き抜いた田中角栄、政治も生き方もスタイリストに徹した三木武夫、会見の発言をそのまま書き写せば文章になつた俊邁・大平正芳、ここぞといふ時、その豊溢する発想と豊富な語彙力で政治を動かした福田赳夫、犀利な頭脳と決断力で5年余も首相を務めた中曽根康弘。

 

そして今回――石破茂、小泉進次郎、河野太郎、林芳正、高市早苗、小林鷹之、加藤勝信……「三角大福中」のころからワンジェネレーション後になる今回の総裁選候補者とは、残念ながら誰一人、ぢかに話をしたことがない。

 

だから、その軽重を比較してどうかう言ふのも気がさすが、だが、どう考へても、これまでに報じられてゐる経歴、政治歴、発言録などを見ただけで「格落ち」の感は否めない。

 

これは「政治家が薄つぺらになつた」と嘆いて済む問題でもない気がする。

 

いま、政治を目指す者が総じて「薄つぺら」になつたといふことではないか。

 

「東大法卒」のやうなお利巧さんは、ほぼ2年に1度、選挙といふ勤務評定と巨額な出費を強ひられる国会議員なんかより、大企業に就職して高給をもらひ、順調に出世して、経済的にも社会的にも安泰な道を選んだ方がトク、とソロバンを弾く。

 

「薄つぺら」な総理大臣が誕生するのも、彼らのせゐといふより社会のせゐなのか。

 

考へやうによつては、現代の私たちの生活で「政治」が土足でお茶の間に踏み込んでくるのはろくなときではない。

 

戦争か、大災害か、飢餓か、いづれ不幸に見舞はれる時である。そんな時代はご免蒙りたい。

 

今回の薄つぺらな総裁選候補者のだれが勝つても、それが今といふ時代の表徴であり、今にふさはしい総理・総裁といふべきなのかもしれない