兎団『義経記 FINAL』能登千春脚本、斉藤可南子演出@劇場MOMO | T. Watanabe Web 

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2006年に結成され、練馬区江古田の小屋を中心に活動を続けて来た劇団「兎団」の10周年記念公演は、源義経の一生を描いた『義経記 FINAL』である。
劇場は、兎団の本拠地「江古田兎亭」よりも舞台が広い中野区の「劇場MOMO」(僕が東京に出て来た際、5年間暮らした街、中野。ビジターとして訪れると今更ながら魅力的な街だと思う)。20名弱のキャストがダイナミックに動き回るにはそれなりの場所が必要であり、今回は十分にそれが確保されていた。キャストの汗と涙を感じる迫力十分の120分である。



演出、主演の兎団主宰、斉藤可南子さんは、僕の企画したイベントでも朗読劇を披露頂いた同世代の演劇人である。男役が多い斉藤さん。どこか中性的な魅力を放つ源九郎義経を陰影たっぷりに演じている。
その陰影は、母に捨てられ、最愛の兄頼朝に裏切られた血脈・血縁の恨みから発せられる。いや、恨みというほど輪郭ははっきりしていない、「満たされない感じ」とでも言おうか。はっきりはしていないが、深く重い。
果たして、義経は「満たされない感じ」を血のつながり以外の人間関係で満たすことができるのだろうか。その一つの回答を持つべく登場するのが、静御前である。

恋とか愛とか、「恋愛」とか呼ぶものがどこまで深く重い「満たされない感じ」を救うことができるのか。淀む心を浄化し、「諸行無常」を受け入れ、流れていくことに対する積極的な評価を人にもたらすことができるのか。
上演前、斉藤さんが、「胸を張れる、ものを上演する予定です」と語っていた、その通りの舞台だった。

静御前を演じた吉岡麻弥をはじめ、脇を固める松尾武志、めつぎさとみといった常連にも安定感がある。個人的には、平清盛役、倉垣吉宏のスピード感のあるテンポよい「怪演」と、この人も兎団の公演では常連になりつつある松田瑠璃の「成長」が印象に残った。

10月23日(日)まで。

(2016年10月22日)