見方が変わると楽になる
人は、みな、考え方の癖を持っています。
自分が健康で、幸せでいられる考え方なら大いに結構なのですが、なかには、自分だけでなく、周りまで不幸にする考え方の癖というのもあります。
人間は、大半の行動を学習記憶の反復で行っているので、望ましくない考え方の癖を意識して修正しない限り、望ましくない現実を繰り返し体験することになります。
ポジティブ心理学の父と呼ばれるアメリカの心理学者マーティン・セリグマンは、無力感が、絶望的な体験の繰り返しによって学習されることを犬の実験で証明しました。
右半分に、ときどき、微弱な電気が流れ、左半分は何も起こらない檻を用意する。この檻に入れられた犬は、右側で電気ショックを受けるたび、左側に移動するようになる。この条件付けが定着したら、真ん中に透明なしきりをいれ、犬が、左側にいけないようにする。犬は、最初、なんとかして透明なしきりの向こう側に行こうとするが、どうやっても不可能だとわかると、抵抗をやめ、右側に留まるようになる。再び、この条件づけが定着したら、今度は、真ん中の透明なしきりを外す。右側に留まっている犬を左側にひっぱっていって、電気ショックがないことを示しても、右側に戻されると、犬は、そのまま、電気ショックを受け続け、反対側にいこうとしない。何度も何度も、無力感を味わう体験を重ねるうち、無力感が脳に定着し、行動に影響が与えることがわかる。
もっとも、人間は、犬ではありません。自分の考え方の癖に気づき、選択肢を増やしていけば、幸福感を持続させることができるようになります。
老人ホームの入所者に、夕食に食べるものを自分で決めさせ、娯楽時間に自分の好きな映画をみられるようにしておくと、出される夕食を食べ、決まった映画を見せられる入居者より、満足度が高く、18ヶ月後の生存率も高くなったという調査報告があります。また、別の実験では、騒音の激しい場所で、被験者に数学の問題を解かせ、グループ1には、ボタンを押せば、騒音が止まると伝え、グループ2には、なにも指示をださずに、それぞれのグループのストレスレベルを比較しました。その結果、たとえ、ボタンを押して騒音が止らなくても、ボタンを押せば騒音が止まると伝えられたグループ1の方が、選択肢を与えられなかったグループ2よりも、ストレスレベルが低く、多くの問題を集中して解くことができました。
スタンフォード大学とハーバード大学の研究者グループは、地位の高いリーダーとそうでない人のストレスレベルを比べる調査を行っています。
その結果、地位の高いリーダーの方が、そうでない人に比べ、ストレスホルモン・コルチゾールのレベルが低いということがわかりました。研究者グループは、地位の高いリーダーは、やらなければならないことが山のようにあっても、自分で、仕事の采配をすることができるので、それが、ストレス緩和の大きな要因になっていると分析し、米国科学アカデミー紀要で発表しています。
人は、選択の余地がないと思うとき、無力感、絶望感を感じて、怒ったり、泣いたり、無気力になったりします。
そんなときは、本当にどうすることもできないのか、状況を再検討し、どんな小さなことでも、自分にできることを一つ用意すると、気持ちが安らぎ、体の調子もよくなります。
考え方の癖のほとんどが、家族の影響、文化の影響、環境の影響の中で、幼少期のうちに形成されます。幼い頃のことは、忘れていることが多いので、自分にどういう考え方の癖があるのか、改めて意識しないと、なかなか気づくことができません。
憤りを感じたら、自分がどうあるべきだと思っているのかチェック。
自分が思っている「〜べき」が、本当かどうかを検証。別の考え方を選択。深呼吸。そして瞑想。このステップを繰り返すと、学習解除、再学習のプロセスを経て、自分を幸せにする新しい習慣を身につけることができます。
感情に名前をつける
思い通りにならないことが起こると、人は、往々にして、相手のせいだ、あの人がこう言ったから、こうしたから、自分がこんな気持ちになったのだと決めつけがちです。
しかし、実のところは、どうしようもなく惹かれる相手も、無性に腹の立つ相手も、自分の内面を映し出す鏡そのもの。自分では気付かない自分の中の固定観念に気づくチャンスを与えてくれているにすぎません。
固定観念は、多くの場合、子どものころに形成されます。
大人の庇護を必要とする幼い子供には、家族や学校の先生に認められたいという強い欲求があります。だから、親や教師、年上の兄姉の言っていることが、たとえ理不尽であっても、周囲の要求に一生懸命、応えようとします。
その過程で、「いい子でなければ愛されない」、「兄弟は仲良くしなければならない」、「自分は、絶対に一番になれない」、「健康でなければ価値がない」、「満足していることを知られると足元をすくわれる」といった固定観念が、骨身に沁みていきます。
固定観念は、潜在意識レベルに定着するので、自分では、なかなか気づきません。
そして、そのうち、固定観念や自分を取り巻く文化、環境の影響を受けて培われた価値観、 期待などが入り混じった考え方の癖ができ、それに基づく行動をとるようになります。
本人が、状況をどう解釈し、どう意味づけたかによって、その人の現実が決まることを示す例があります。
『混んだ映画館で、突然、女性が立ち上がり、隣の男の顔をひっぱたくや、出口に向かって駆け出した。これを見て、若い女性は震えあがり、十代の青年は青筋を立てて怒り、中年の男は、がっくりと首をうなだれ、社会福祉員の女性は、拍手した。どうしてかというと、若い女性は、家庭内暴力の被害者で、ひっぱたかれた男が復讐にくると思ったから。十代の青年は、好きな女性に振られたばかりで、女性に不信感を抱いていたから。中年の男は、離婚歴があり、去った女性は戻らないと思ったから。社会福祉員は、強い女性を理想としていたから』
どんな状況にも過剰反応せず、よい人間関係を保ち、毎日、感謝して過ごせれば、それに越したことはありません。とはいえ、どう考えても理不尽で、釈然としないということはあるものです。そんなときは、自分の感情に名前をつけて対話すると、気持ちの整理ができ、仕切り直しができます。
これで安泰と思っていると、いきなり変化球。切り返してやれやれと思ったら、今度は直球。変化し続ける現実を気持ち良く過ごすためにできることはたくさんあります。
やり方
自分の胸の内にあるもやもやした気持ちに名前をつける。
その名前を呼んで、声をかける。
その言い分に想いを馳せる。
たとえば、
「みんなと仲良くしたい」シンちゃん、でも、いろんな人がいるよね」
「動物が大好きなマリちゃん、動物の命を粗末にする人がいると腹がたつね」
「最悪が起こるんじゃないかと不安になっているみさおさん、何を学んでいるのかな」
「率先して頑張るかおるくん、よく頑張っているよ。でも、全部一人でやるのは大変だ」
こんな風に切り出して、会話を続ける。
効用
頭ではなく、ハートで状況を把握できるようになる。
ニュートラルな現在の自分に戻れる。
包容力が生まれる。
前向きな感情を抱くことができる。
ポイント
感情を具象化し、現在の自分から切り離すことで、気持ちにゆとりが生まれます。このエクササイズをしたあと、静かに目を閉じ、深呼吸。そして、自分の感情を白い光で包み、感情が美しく輝く様子をイメージすると、一層効果が上がります。