頭から離れない考えを払拭する瞑想
緊急事態に直面すると、動物は、戦うか、逃げるか、固まるかの、緊急反応を起こします。
ライオンは戦い、カモシカは逃げ、たぬきやアナグマは、体を硬直させ、死んだように動かなくなります。
そして、危険が遠ざかると、どの動物も、身震いをして、緊急事態のショックを発散し、なにごともなかったように元の活動に戻ります。
しかし、人間は、ショックなことがあっても、「まあ、まあ落ち着いて」となだめられたり、「たいしたことじゃないでしょ」と一蹴されたり、「大げさだ」と非難されたりして、心身が受けたショックを発散できないまま、溜め込んでしまうことがあります。
たとえ、周りの人にそういわれなくても、 恥や外聞が気になり自己規制が働く、自分でも何がどうなったのか理解できず、混乱してしまうなどの理由で、ショックを飲み込んでしまうことが少なくありません。
通常、外界からの情報は、五感を通して収集され、脳幹を通って、大脳辺縁系の視床で「危険かどうか」が問われます。
そして、思考を司る前頭皮質が、「これまで似たような体験があったか、どう対処するのが適切か、どういう結果をもたらすか」を判断し、その結果に基づいて、感情のコントロールを司る側頭葉の深部に位置する直径約一センチのアーモンド状をした扁桃体が、最適の感情反応を引き起こします。
伝達された情報は、脳の側頭葉の裏側にある長さ約十センチのタツノオトシゴ形をした海馬に、短期記憶として整然と収納され、必要に応じて、無限大の容量がある大脳皮質の長期記憶に移行し、固定します。
しかし、息ができなくなるほどショックで、精神的にも、肉体的にも、絶体絶命と感じるような経験は、ストレスホルモンの過剰分泌や、海馬の機能低下をもたらし、外部からの情報を内部の記憶に取り込める形に変換するエンコードのプロセスを阻害します。
記憶には、大きく分けて、潜在記憶と健在記憶がありますが、エンコードが阻害された状態で伝達された記憶は、意識されることなく、時間の観念がない潜在記憶に保存されます。
生まれたときから機能している潜在記憶には、扁桃体が活発に関与します。
扁桃体は、インパクトが大きい情報ほど活発に活動し、その活動が活発であればあるほど、記憶が強烈に保持されます。
ちなみに、顕在記憶は、記憶しているという意識があり、成長とともに発達していきます。
顕在記憶に関与するのは、アルツハイマー認知症の最初の病変部位としても知られる海馬です。
正常なプロセスを踏まずに、前後の脈略なく、記憶された体験は、音や光景などが引き金となり、臨場感を伴うフラッシュバックや、突然の動悸、激しい不安感を引き起こします。
衝撃的な出来事の直後から、一ヶ月以上、死んでしまうのではないかという壮絶な恐怖感が続く症状を心的外傷後ストレス障害(PTSD)といいます。
PTSDの治療には、選択的セロトニン再取込阻害薬や抗ウツ剤を投与する薬物療法、EMDRと呼ばれる眼球運動による脱感作と再処理、心理療法、臨床催眠などがあります。
頭から離れない考えを払拭するこの瞑想は、EMDRのクンダリニヨガ版といっていいでしょう。
やり方
薄眼を開けて(10分の1開く)、鼻の頭を見る。
右を見て、わ、左を見て、へ、鼻の頭を見て、ぐると心の中で唱える。
頭から離れないシーンを思いながら、わへぐると心の中で唱え、目を動かす。
全身に蘇る感覚に意識を向け、わへぐると心の中で唱え、目を動かす。
関わった相手の立場になり、相手の見方を疑似体験しながら、わへぐると心の中で唱え、目を動かす。
相手を許し、自分を許して、わへぐると心の中で唱え、目を動かす。
こだわりのあったシーンを手放し、宇宙に委ねる。
体の緊張がほぐれ、気持ちが楽になるまで続ける。
鼻から深く息を吸い、止められるだけ止めて、思い切り、鼻から息を吐き出す。
ポイント
考えまいとしているのに、同じことが頭の中から離れない。
何年も前のことなのに、記憶が生々しく蘇り、嫌な気持ちになる。
火傷しそうになったとき、とっさに手を引っ込めるように、ネガティブな感情が、 体の中を駆け巡るといった症状が、継続していると、緩和していきます。
また、日常的に、何かちょっと嫌なことがあったときや、ソーシャルメディアを見ていて、突然、見たくない写真が目に入ったときなどにも、こまめに使うと、ストレスを溜め込まずに済みます。