【概要】
親族内における子どもの連れ去りにおいては、ハーグ条約や子どもの権利条約のような国際的法規を除いて、国内では「民法」および「刑法」の2つの視点がある。このうち「刑法」について文献を紹介し、意見を述べる。
【本文】
▼東京大学の文献
本文献によれば、刑法上の扱いとして国内におきた平成17年12月6日の最高裁判決が記載されている。親の連れ去りであっても「行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情である」としている。子連れ別居、子連れ里帰りといった事例もあるが、これらは検察官の広範な起訴裁量に委ねるということになっている。このことから、仮に警察官(刑事関係)の対応として告訴にもとづき、受理したとしてもその後の捜査および起訴となるかどうかについては、検察官の裁量による部分が大きい。したがって連れ去りという行為が、「家族間における子の奪い合い」で始まったとしても未成年略取誘拐罪の適用の実施形態が明らかではないとなれば、裁量判断になる前段階としてそもそも基準が明確ではないことから、国内的には判断が渋ることも想定できる。よって海外における実施形態を調査し、国内の問題が解決されるような取り組みが進むべきだと思う。
▼早稲田大学の文献
本文献によれば、刑事罰化は連れ去りの抑止効果をもたらすことが示されている。しかし、親にいかなる刑罰を科すかどうかについては別途議論が必要とされており、懲役になれば養育親を奪われてしまう。この点、厳罰化というものは懲役や罰金というような家族にとってトータルでみたときにマイナスになるというのは好ましくない。居住環境を回復させるための転居命令ができるほうが望ましいであろう。
▼東北大学の文献
本文献によれば、未成年者として監護する行為が、身体の安全に関する法益に関する保護者の役割の一つであるため、未成年者を守ることをはく奪することが法益侵害になるとの見方を諸外国の運用に照らし合わせている。そうすると監護権を有する婚姻中においては少なくとも、未成熟な子どもを連れ去ることによって片親によっての支配下のみとなることが実力行使になることから、未成年者の自由を保護するという親の権限が一方的なものになるといえよう。
<文献リンク集>
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000465215.pdf
http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/3452/1/0140_016_001.pdf
https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBc0583412.pdf
https://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/13-4/watanabe.pdf
http://www.law.tohoku.ac.jp/research/publications/tohokulawreview/vol07/vol07part01-2.pdf
▼民法上の連れ去り言及
なお民法の中で連れ去りに言及した審判としては、横浜家庭裁判所横須賀支部審判平成28年11月9日が有名であり、この東京高等裁判所(平成29年2月21日)でもこの判決が妥当と判断している。「相手方は,共同で監護していた未成年者を,申立人の同意なく,予期できない時期に突然,一方的に連れ出し,所在さえ明らかにしなかったものであり,このような相手方の連れ去り行為は,申立人の監護権を著しく侵害するものとして違法というほかない。相手方は,申立人が相手方に対し,未成年者の面前で暴力および暴言を吐くなどし,未成年者の心身に重大な影響を及ぼしていたことから,未成年者の健全な成長発達のために未成年者を連れて自宅を出た旨主張するが,申立人の暴言や暴力を裏付けるに足りる的確な証拠は一切なく,相手方の主張は到底採用できない。また,上記認定の事実によれば,申立人と未成年者の親子関係は良好であったと認められるところ,未成年者は,現在の環境に適応するため,無理に申立人を意識から閉め出そうとしていることが窺われるのであり,このような状況は,3歳の幼児である未成年者にとって過酷というほかなく,現状は未成年者の福祉に反している。」
▼未成年略取誘拐罪の件数
埼玉県では以下の数値が公表された。この人口比率を日本人口に換算すると、令和5年においては244件の刑事告訴があったと推測できる。
↑引用元