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つれづれログ

色々な事を徒然なるままに書いていこうと思います

もう誘拐なんてしない (文春文庫)/東川 篤哉
¥620
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大学の夏休み、先輩の手伝いで福岡県の門司でたこ焼き屋台の
バイトをしていた樽井翔太郎は、ひょんなことからセーラー服の美少女、
花園絵里香をヤクザ二人組から助け出してしまう。
もしかして、これは恋の始まり!?
いえいえ彼女は組長の娘。
関門海峡を舞台に繰り広げられる青春コメディ&本格ミステリの傑作。

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読んでいて楽しい作品。

文章が軽めで気楽に読める。
かと言って内容が薄い訳ではなく、しっかりとした構成も魅力。

中盤以降はミステリー的展開だけど、ミステリーがあまり
好きでない人も楽しめると思う。

伏線やトリック、犯人の悪あがきなど早く読み進めたい気持ちに
なるし、結果的にもその気持ちを十分に満たしてくれる。

北九州や下関といった身近な土地が舞台なのも◯。
しかもかなりローカルネタを盛り込んでいて興味が湧く。
逆にその土地にゆかりの無い人でも、行ってみたい衝動に
かられるんじゃないだろうか。

ヤクザが登場するものの、そこはコメディ。
怖さや凄みよりは、ユーモアの方が優っているヤクザ者達。

特に親分の情けなさと、子分達からの信頼の無さが笑える。
娘達からも冷たくあしらわれてるし、ちょっと可哀想だ。

翔太郎や絵里香、その他の人物も愛着が持てる。
翔太郎が草食系で無いのが良い。
活発で行動的でもあり、最近の作品の主人公としては
珍しい印象。

あとがきにあるように、あまり読書しない人にオススメする
作品としてはピッタリだと思う。
小説作品の魅力が詰まっている作品だ。

他の東川作品も面白そうなラインナップ。
これから読んでいきたい。
せんせい。 (新潮文庫)/重松 清
¥460
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先生、あのときは、すみませんでした―。
授業そっちのけで夢を追いかけた先生。
一人の生徒を好きになれなかった先生。
厳しくすることでしか教え子に向き合えなかった先生。
そして、そんな彼らに反発した生徒たち。
けれど、オトナになればきっとわかる、あのとき、先生が教えてくれたこと。
ほろ苦さとともに深く胸に染みいる、教師と生徒をめぐる六つの物語。

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「ビタミンF」でその良さを再認識させられた作家、重松清さん。
本作でも良いエピソードが満載。


そんな中でも「にんじん」というエピソードが特に良い。

主人公の若手教師である工藤は、転勤するベテラン教師の風間から
6年生になるクラスを引き継ぐ。

「ユウ、キョウ、ダン!」
すなわち友情、協力、団結を合言葉によくまとまった素晴らしいクラス。
そして担任だった風間先生が大好きなクラス。

小学生も6年生ともなると、良い意味でも悪い意味でも大人びてくる。
そんな時期だから、そんな善意だらけのクラスってある意味
ファンタジーだ。
さすがは風間先生の最高傑作。

理想としては、小学生くらいの子供には皆そうあって欲しいものだけど。
子供の時、せめて小学生の時くらいまでは、世の中の汚い部分なんて
出来る事なら感じて欲しくないからなぁ。

どっちみち進学し、社会に出て、大人になっていくにつれて、
否が応にも体験していくものだし。
急いで大人になる必要は無いのだと、今は思う。
子供は子どもらしい方が絶対良い。


そんなクラスを引き継いだ工藤は、初めての高学年の担任である事に
加え、風間先生と比べられる事のプレッシャーを感じずにはいられない。

そんなクラスの中で、なんの理由もなく工藤に嫌われてしまった児童。
その子を心の中で「にんじん」と呼ぶのだった。

なんとかクラスの児童とうまくやっていく工藤だけど、「にんじん」には
キツく、冷たく扱い、嫌い続けていく。
まるで生贄であるかのように。

当然ながら教師も一人の人間。
人に対しての好き嫌いもあるのが自然。
たとえその対象が生徒であっても。

多くの人が心に感じた事があるであろう、教師のえこ贔屓。
または周りに比べ自分には厳しくあたられているような感覚。

もちろんあってはならない事だし、教師もそれを抑え、出来るだけ
平等に振舞おうという意思はあるはず。

でもちょっとした言動の端々から、感情が漏れ出してしまう。
工藤もそういった、ある意味ではごく普通の教師だったのだろう。


20年の年月が過ぎ、彼らの同窓会に招待される工藤。
「にんじん」に対しての振る舞いにずっと後悔の念を持っていた。

彼の心境の変化のきっかけは子供の誕生。
自分の娘をかけがえの無い存在だと感じるように、にんじんの
両親もまた、にんじんに対してそう感じていただろうと。
その事に気づいた工藤は、長年に渡り苦しんだ様子。

そんな彼ににんじんは言う。
恨んではいないと。
教師になった自分は、教師は完璧な人間しかなれる訳では
ないという事を工藤から学んだのだと。
そして、自分の息子が工藤のような事を担任にやられたら
絶対に許さないと。
そんな罰を与えられる事で、救われた思いになったという工藤。

確かに、この事で彼は救われたんだろうなと。
自責の念を持っている人にとって、必要なのは許しの
言葉だけではないという事。

そして、謝罪の言葉が不要…というよりも、むしろ無い方が
良い事もあるという事。
そんな事もきっとある。

多分、にんじんは工藤を反面教師として、そして子供達に
自分のような思いをさせたくない思いで教師になったのだろう。
そして教師となって、工藤の振る舞いの理由を知ったのだろう。

子供が大人になり、大人の心境を理解していく。
なんだか素敵だ。


大人は子供が思っているほど大人ではない。
教師もまたそんな大人の一人だ。

尊敬できた先生、親しみを感じた先生、怖くて恐れた先生。
適当な距離を保った先生、正直失望感を感じさせた先生。
思えば色々な先生との出会い別れがあった。

年をとるにつれて、あの頃の先生、あの頃の大人達の
気持ちを分かってあげれるようになっていくのだろうと思うと
歳をとるのも悪いことばかりじゃない。


他のエピソードも面白いし、心地良い読了感。
そして色々と考えさせられる。
オススメの一冊。
消せない告白 おいしいコーヒーのいれ方 Second Season 3 (おいしいコーヒーのい.../村山 由佳
¥400
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楽しい焼肉パーティー…のはずだった。
オーストラリアから一時帰国した秀人さんを囲んだ
にぎやかな会が、一転、激しい兄弟ゲンカに。
さらに運の悪いこと に、仲裁に入った勝利の頬に
強烈なパンチがはいった。
顔面が腫れ、歯を失い、部活を休んだ勝利のもとを
星野りつ子が見舞いに訪れ、これまでとは違う一面を見せる。
一方、かれんはひとり悩みを抱えているが…。
セカンドシーズン第3弾。

凍える月 おいしいコーヒーのいれ方 Second Season 4 (おいしいコーヒーのいれ方.../村山 由佳
¥400
Amazon.co.jp
僕はいったい、どんなことでなら頑張れるんだろう…。
勝利は本格的な就職活動の時期を迎えるが、
自分が何をやりたいのかがわからず、
漠然とした将来への不安を覚える。
そして、いま、大きな困難に直面しているかれん。
仕事のこと、おばあちゃんのこと、悩みながらも精一杯お年寄りの
世話をする日々。
責任とは、社会的立場とは…、大人への転換期に戸惑う勝利。
セカンドシーズン第4弾。

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おいコーシリーズの文庫版最新作。

2冊同時に刊行ということで感想も2本立てに。
1冊が200ページにも満たないから、2冊位でボリューム的には
ちょうどいいな。


主人公の勝利と5つ年上の恋人かれんの関係は、かなり深まって
きた感。

情熱は冷めやらないままに、お互いに自分の気持ちに素直になり、
ちょっとした事で周りが見えなくなる事も少なくなってきた。

勝利とかれんの精神的な成長は読んでいて心地良い。
シリーズ長いだけに、すっかり見守る立場になってしまったんだろう。
じわじわとでも着実に進展していけば、スローペースな長期シリーズでも
読者は着いていく気持ちになるものなんだなぁ。


あまり好きなキャラクターではなかった星野りつ子。
当初は恋のライバル的な存在として登場した彼女も、勝利とかれんの
関係が安定してきただけに、邪魔にならなくなってきた。

こうなってくると、これまでの展開で可哀想なくらい病んでいた彼女にも
少しは幸せになってもらいたい感情が芽生えてくる。
原田先輩とくっついてくれれば、全て丸く収まるんだけどなぁ。
家族に対して、全力で彼女である事を否定された先輩、かわいそう…。


今回、テーマの一つとして扱われていた、好きになってはいけないと
される人を好きになってしまうという事。
実の兄の妻と心を通い合わせている秀人が登場する。

いくら理性という皮を被っていても、人間は所詮生き物。
本能的な情動を完全に抑える事は難しい。

それでも多くの人はそれでも我慢するという選択をするだろう。
社会的にそうせざるを得ない。
秩序や世間体を度外視したとしても、秀人の言葉にあったように
周りが失うものも少なくないし。

人間ってつくづく面倒な生き物だと思う。
恋愛や人間関係については特に。
だからこそ色々な感情が渦巻いていて、面白いという面も
否定できない。
障害があるからこそ、燃え上がる恋心もあるってね。


あとがきにて作者は言う。
これから先、物語はシリアスな展開になる。
でも、バッドエンドにはしないから最後まで着いてきて欲しいと。

その言葉どおり、凍える月の最後は嫌な予感しかしない展開。
そして予感は見事に的中、シリアスというか不幸な展開しか
見えてこないな…。

思い返せば、絶妙にスポットの当たっていたマスターのニヒルな
表情も見納めになる勢い。

とは言っても乗りかけた船。
最後までお供しますよ、村山さん。
障害のある恋に燃えるように、素晴らしい物語のフィナーレには
カタルシスが必要。
不幸の数や量の分、最後に幸せがあると信じて。
そう考えて、これからのシリアスな展開を見守ろう。