●岩井俊二 監督映画 ベスト10 | 映画いろいろベスト10 + 似顔絵

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まったくの独断で選んだ映画10作品。
ペイントでの似顔絵もやっています。

岩井俊二 監督映画 ベスト10

 

この監督の産み出す独特の雰囲気が好きです。

 

1 花とアリス

岩井監督らしい、幻想的なムードの中で繰広げられる青春模様。思春期特有の女の子同志の距離感を、どこか切なく、そして微笑ましく描いています。ともするとうそ臭いと思わせるような設定ではありますが、蒼井優、鈴木杏主役の二人の存在感と演技で、こんなこともあるのかなと思わせられてしまいます。青春期特有の甘酸っぱさ、女子高生という存在の持つ禁断性が、岩井監督のテクニカルな部分が見事に調和して、魅力的な作品になっていました。

 花とアリス

 

2 リリィ・シュシュのすべて

映像、音楽、文字をふんだんに使って、岩井独特の世界を作り上げながら、リアルな思春期の内面を映し上げています。サイト上での会話を使い、また映像的にも現実の中学生たちの冷え切った雰囲気を作り上げていて、やや前後を組合す作業をしていかないと、ストーリーが入ってこない作りにはなっていますが、いじめ、レイプ、自殺、殺人と次々に起こる出来事は、1つのクラスで起きた出来事だとすると、かなり衝撃的な内容でした。ただまさにその瞬間だけは映像化しないで、前後の行動や会話でその事実を観ている側に悟らせようとした手法のおかげで、衝撃で見せるというよりも、より内面描写に集中できるようになっていて、そのあたりの繊細さがまた巧みでした。

 リリィシュシュのすべて

 

3 ラストレター

叙情的な映像作品を撮らせたら岩井俊二に勝てるものはいないのではないかと、改めて思わせられました。しかも今作は原点に戻ったような恋愛映画で、キャストも中山美穂、松たか子、豊川悦治と初期の作品を思い出させるような配役。ファンにはたまらない一作となったのではないでしょうか。20年も前の高校、大学時代の恋愛を未だに引きずり、なかなか先に踏み出すことができない売れない小説家、それを女々しいとか、情けないとかいうのは簡単ですが、それまでほどに彼の人生を左右する忘れられない大きな恋だったということなのでしょう。そのある種の女々しさ、情けなさがこの作品の肝であり芯でもあるわけで、それを否定してしまったら、そもそもこの作品は成立しません。高校時代の回想シーンは、どこにでもありそうな出会いと三角関係ではありましたが、それだからこそノスタルジックに訴えかけるものがあります。そしてその舞台となった校舎がすでに取り壊される寸前という状態であることも、より取り戻せない過ぎた日々であることを強調しているようでもあり、情緒に訴えかけてくるのです。「あなたと結婚してくれていたら」「必ず迎えに来ると思っていてもちょっと遅かったけれど」という亡くなった元恋人の妹や娘の言葉にせつなさがこみ上げる一方、彼女を奪い取られた相手からの「彼女の人生にお前は何の影響も与えていない」という言葉もまたやるせなく胸に突き刺さるなど、そんなセリフの使い方も巧みさが際立ちました。

 

 

4 チィファの手紙

概ね『ラストレター』と同様のストーリーなので、この先のワクワク感とかそういったものがないのは仕方ないところでしたが、同じストーリーでも、季節と国を変えると、また雰囲気が微妙に違ったものになることが面白かったです。一番大きな違いは弟くんの状況で、このあたりは中国の政策の問題も意識していたようです。それでも細部ストーリーも監督も同じなので、岩井俊二独特の甘いムードというものは存分に出ていて、言葉や背景が違っても、映画は映画だと改めて認識させられました。あと人物の背景なんかもちょっと違っていたり、かつて主人公から恋人を奪った男のバックボーンも今作では説明されたりしていてと、そのあたりを比べてもう一度観るのもいいななんと思ったりもしました。

 

 

5 リップヴァンウィンクルの花嫁

言ってしまえばこの主人公、どんくさくて要領が悪く、観ていていらいらするのは確か。人が良すぎて利用されてばかり。しかし様々な試練を乗り越えて強くなったうえでの最後の爽やかな旅立ちのシーン。きっとこれから先は素晴らしい人生に変わっていくに違いないと思わせるラストにはほっとさせられました。このようにとにかく黒木華演じる主人公の女性としての成長物語といった趣が強くなっていて、ほぼ出ずっぱりとなっています。3時間という長さはほとんど感じませんでした。ターニングポイントでその都度絡んでいく謎の男を綾野剛がまたいい役割を果たしています。依頼人(夫の母親だったり、心中相手探しの末期がん患者だったり)に対して忠実である彼は、ときに彼女を貶めるような結果になってしまいながらも、その彼女をまた救ってあげるのも彼。なんとも不思議な役どころでありました。

 

 

6 ヴァンパイア

いわゆるヴァンパイア映画とは一線を画す岩井俊二らしい詩的で叙情的な空気が流れる作品となっています。ヴァンパイアであることを隠しながら、教師をして生きている主人公ですが、自殺願望の見知らぬ女性と会い、自殺ほう助という形で血を取り入れていく一方で、自殺を図ろうとする教え子などには必死に食い止めようとする矛盾。体はヴァンパイアとしての本能を抑えることができないでいながら、人としての心では自殺を否定するその人間らしさとヴァンパイアらしさの狭間での葛藤が、なんともいえない悲しさを伴い、訴えかけてきました。

 

 

7 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

ごく短い作品ではありますが、夏休みの一日を、どこかノスタルジックに描いた岩井俊二の映像はさすがといったところ。たわいのない一日ですが、転校が決まった少女の寂しさが、映画全体に流れ、雰囲気のある作品になっています。小学生とはお見えない色っぽい奥菜にはドキッとさせられます。

 打ち上げ花火下から見るか?横から見るか?

 

8 花とアリス 殺人事件

実写版の前作から遡り、二人の出会いをアニメで描いた作品。どうしてもアニメですと、作られた感があるので、その部分が壁にはなりましたが、実写だったらもっと入り込めたような気がします。もっとも同じキャストというわけにはいかなかったでしょうから、二人を使うのであれば、声優でというのは賢明な選択だったかもしれません。内容的には、女子中学生の友情とほのかな初恋の思い出がほのぼのと伝わってきて、決して悪くなかったです。

 

 

9 四月物語

岩井俊二らしい映像で、どうということのない上京した新大学生の生活を切り取っているだけなのですが、見せ方が非常に上手で、どこか懐かしく思わせる雰囲気を持っています。これから始まるであろう東京での新しい生活をどう送っていくのか、想像を膨らませられます。

 四月物語

 

10 Love Letter

全体として甘い雰囲気の作品になっていますが、高校時代の酒井美紀と現在の中山美穂二役のバランスがどうにも気になって、あまりに作り話っぽい設定が、結局作り話のままで終わってしまったようになったのが残念。「結局なんだったの?」と聞きたくなるような展開よりもムード重視の作品であるのは仕方ないですが、秋葉との関係も、過去への思いの断ち切りも、樹と博子の関係も、いずれも中途半端。結局男の藤井樹は、女の藤井樹を好きだったんだという結論は、どこかで主人公が入れ替わってしまったような印象。ただその中でも岩井特有の色というものは十分に出ていて、後の作品にも通じるものが感じられました。

LoveLetter