「ラ・ロンド―恋愛小説」/繰返しを踊って | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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服部 まゆみ

ラ・ロンド―恋愛小説


服部まゆみさん初読みです。サブタイトルに「恋愛小説」とある本書。三篇の物語は緩やかに繋がりながら、まるで踊るようにそれぞれの恋をうつす。

目次
父のお気に入り
猫の宇宙
夜の歩み


父のお気に入り
新劇の十一歳年上の女優、妙子と付き合うことになった、大学院生の孝。二人を結びつけたのは、ジョン・フォードの戯曲「あわれ彼女は娼婦」。孝は美しく大人の女性である妙子を愛するが、彼には中学時代の忘れ得ぬ思い出があった。それは赤ら顔の醜く太っていた同級生の、意外なほどに艶めかしい桃の果肉のような白いうなじ。孝は偶然、その同級生、河合と出会うのだが…。
読み終わってタイトルの意味を思うと、うわーとなる。

猫の宇宙
同級生の姉、瑠璃に憧れていた「わたし」。四姉妹であった彼女の妹、鴇子と結婚したけれど、瑠璃とは似ても似つかぬ妻や、縁戚との騒々しい日々の生活は頭痛ばかりをもたらす。義父の元アトリエ、現・「わたし」の書斎に籠ってはマーラーを聴く毎日。そんな代り映えのしない日々であったが、進学に伴い、札幌から瑠璃の娘、藍を預かることになった。「わたし」は藍との会話に心休まるものを感じるのだが…。
さて、「わたし」の専門は哲学で、職業は私大の講師。哲学の道を選んだのには、幼き日の弟の疑問が絡んでいたのだが、自称・芸術家の弟、克己は、三十五を過ぎてもろくな仕事に就きもせず、私の苛立ちを煽る。それどころか、弟は幼き日の疑問にも、勝手な解釈を見つけたようで…。

夜の歩み
前二篇を繋ぐ物語。妙子と孝の二人が、行きつけのジャズバー『滝』の前で出会ったのは、「猫の宇宙」に出て来た藍と克己。二組のカップルの行方はいかに?

みんながみんな、腹に一物を抱えたまま、恋を踊る。そんなわけで、ここで出てくる恋愛は、お天道様の下でピクニック!というようなものではなく、暗い眼差しを湛えた隠微な感じ。この中でいえば、真っすぐで猪突猛進型の藍や、ひたすらに己の正しさを信じる「わたし」などは、まだまだ甘ちゃんと言えるのかしらん。この怖さをもっと突き詰めていくと、皆川博子さんの小説のような雰囲気になるような気がします。

 ■思い出した皆川博子さんの短編集→「鳥少年

恋愛ものでいえば、こちらはもうそれはそれは直球のド・ストレートですが、自分の中では、姫野カオルコさんの「ツ、イ、ラ、ク 」がやっぱりまだまだ一番。「ツ、イ、ラ、ク」のサイドストーリーである、「 」の文庫本が出ているのを発見して、解説を立ち読みしたのだけれど、この解説が愛に溢れていてとっても良かった! 一編集者、四十代の男性が書いたという解説だったのだけれど、男性から見ても、やっぱりこの一連の作品はとても力のあるものだったんだなぁ、と。「ツ、イ、ラ、ク」が直木賞を外したことについても触れられています。ほんと、「ツ、イ、ラ、ク」はもっと評価されるべき作品だと思うんだけどな~。良かった!、と思った単行本が文庫化されると、その解説を読むのが楽しみだったりします。桃」の解説はほんと良かったです、あれは愛ですね。

さて、また「ラ・ロンド」の話に戻りますと、それなりに力のある作品だとは思うのだけれど、私はこういう系統だったら、皆川博子さんを読みたい。著者、服部まゆみさんの作品の中で、「ラ・ロンド」はどんな位置づけなのかなぁ。