- 森見 登美彦
- 「きつねのはなし
」
目次
きつねのはなし
果実の中の龍
魔
水神
森見登美彦さん、初読みです。
妄想系小説を書かれる方だと勝手に思っていたのだけれど、これはむしろ端正な味わいの淡い幻の物語。水や闇のほの暗さ、手触り、湿り気を、その深淵を覗き込むような物語。
四つの短篇におけるキーワードは、芳蓮堂という古道具屋、和紙で作られた狐の面、からくり幻燈、胴の長いケモノ、そして水・・・・。
独立しているようでいて、ゆるく繋がっているこれら四編の物語は、四編全てを読んでも、全てが語られるわけではない。むしろ謎は増すばかり。でも、この物語は全てが明らかにならなくて良いのかもしれない。「果実の中の龍」の「私」が言うとおり、「本当でも嘘でも、かまわない。そんなことはどうでもいいことだ」なのかもしれない。
この「果実の中の龍」は不思議な話で、先輩が淡々と語る話に、あわあわと引き込まれる。
「こうやって日が暮れて街の灯がきらきらしてくると、僕はよく想像する。この街には大勢の人が住んでいて、そのほとんどすべての人は他人だけれども、彼らの間に、僕には想像もつかないような神秘的な糸がたくさん張り巡らされているに違いない。何かの拍子に僕がその糸に触れると、不思議な音を立てる。もしその糸を辿っていくことができるなら、この街の中枢にある、とても暗くて神秘的な場所に通じているような気がするんだ」
京都の街ではそんな風に何かを爪弾くと、見知らぬ異界への道が開かれるのかも、などと思ってしまう。同じく京大出身作家であり、京都を舞台にしていても、万城目さんの『鴨川ホルモー 』などとは、また随分違った仕上がり。『鴨川ホルモー』のせいで、吉田神社と聞くだけで、何となく笑ってしまうんだけれど、こちらでは背筋にひやひやと来る。
そして、「水神」に出てくる疎水には、『家守綺譚』! と思うのだった。というわけで、再度、「疎水百選」へのリンク 。音が出ますので、ご注意下さい。でも、このせせらぎの音、やっぱり、いいなー(本書の中では、そんな優しげな音はしていないけれど)。
不思議に出会い、そしてまた普通の生活へと戻る。振り返ってみた時、それは幻のようでもある。でも、京都の街の中のどこかに、芳蓮堂とナツメさん、古い屋敷の水神はひっそりと存在しているのかもしれない。
← 次はこれにいきたいのに、単行本なんだよね・・・。図書館の予約は凄い数みたいだし。
その後に読んだ、「夜は短し歩けよ乙女」の感想
→「夜は短し歩けよ乙女 」/歩けよ、乙女。京の春夏秋冬を!
いやー、綺羅綺羅と美しく、丹精込めて作られた金平糖のような物語でした。
*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡下さい。