2007-01-13 00:38:58
「家守綺譚」/文士、綿貫、家の守役となる
テーマ:新潮文庫
- 梨木 香歩
- 「家守綺譚
」
その家の北側は山になっており、山の裾には湖から引いた疎水が走る。家の南側には田圃。
この田圃にも疎水から用水路が引かれており、その水路の途中が、この家の池になっている。
水や自然に囲まれたこの家の本来の持ち主は、綿貫の学生時代の友人、高堂。高堂は湖でボートを漕いでいる内に、行方不明になった。高堂の老父に頼まれた、私、綿貫征四郎はこの家の守をすることになる。売れない物書きの端くれである、綿貫にとっては願ってもない話。
目次
サルスベリ
都わすれ
ヒツジグサ
ダァリヤ
ドクダミ
カラスウリ
竹の花
白木蓮
木槿
ツリガネニンジン
南蛮ギセル
紅葉
葛
萩
ススキ
ホトトギス
野菊
ネズ
サザンカ
リュウノヒゲ
檸檬
南天
ふきのとう
セツブンソウ
貝母(ばいも)
山椒
桜
葡萄
-------------
綿貫征四郎随筆「烏蘞苺記(やぶがらしのき)」
ところで、この家には色々なものが「出る」。水に恵まれた環境からか、最初にやって来たのは、逝ってしまったはずの高堂だった。それに触発されたわけではないのだろうが、庭のサルスベリは綿貫に懸想し、掛け軸の中にいたはずの鷺は池の河童を狙い、犬のゴローは河童と鷺の仲裁で名を馳せ、庭の白木蓮はタツノオトシゴを孕み、木槿が満開になれば、その助けを借りて聖母が出でる。松茸を狩りに山寺へ行けば、信心深い狸に出会い、疎水べりを歩けばカワウソの老人の釣り姿を見る。啓蟄には小鬼のふきのとう採りを手伝い、疎水の桜に見蕩れれば、桜鬼(はなおに)が暇乞いにやって来る。
語られるのは、様々な交わり。
合理的、科学的であることが幅を利かせる以前の時代。隣のおかみさんは、河童や鬼の話をしたり顔で聞き、明快に判断するが、土地の者でもない異国の学者が言う事などには否定的。
文明の進歩は、瞬時、と見まごうほど迅速に起きるが、実際我々の精神は深いところでそれに付いていっておらぬのではないか。鬼の子や鳶を見て安んずる心性は、未だ私の精神がその領域で遊んでいる証拠であろう。鬼の子や鳶を見て不安になったとき、漸く私の精神も時代の進歩と齟齬を起こさないでいられるようになるのかもしれぬ。
とはいえ、これらの鬼の子や鳶との交わりのなんとも豊穣な事。交わるものが人であろうと、そうでなかろうと、恬淡としつつも、綿貫の交わりには貴賎はない。
例えばそれは、信心深い狸と出会い、背中をさすり、お経を称え続けた時の話。信心深い狸は、畜生の身でありながら、成仏出来ない行き倒れの魂魄を背負ってしまうのだという。綿貫を騙して背中をさすらせた格好となった狸は、お礼として松茸を籠に一杯置いてゆく。回復したばかりの身で、律儀に松茸を集めてきた狸を思い、綿貫は胸を突かれる。何をそんなことを気にせずともいいのだ。何度でもさすってやる、何度でも称えてやる。
無駄を愛し、花や木を愛でる。そして、それらとの交わりを持つことで、人間だけではない、もっともっと豊穣な世界が立ち現れるのかも。行動半径も狭い綿貫の世界は、現代のどこへでも行ける私の世界などより、もっとずっと広がっているように思える。
また、のんびりしているようで、綿貫の生き方は真摯。それは高堂たちの世界である、あちらの世界に行った時の会話にも。何者にも煩わされない美しいだけの世界は、「私の精神を養わない」。
何者をも否定しないけれど、自分というものを持つ綿貫。
日常の不思議を扱った小品集のようでありながら、その背後には骨太の時が流れている。
【メモ】
疎水ってナニ?、と思って調べたら、こちらのサイトを見つけました。
疎水百選
(音が出ます、注意!)
水のせせらぎが心地よいこのサイトによると、『疏水』とは、水田の国、日本の水路造りや水路網をあらわしてるとのことです。
*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡下さい。
「みすじゃん。」のおんもらきさんの記事にリンク
。
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1 ■こんばんわ^^
梨木さんの描く独特の雰囲気が好きです。
この作品は、日本家屋が舞台なのがまた良いですよねぇ。
綿貫さんも高堂さんも魅力的でしたし^^
文庫は、綿貫さんの随筆が載っているんですよね?
単行にはなかったんですが、観てみたいんですよね。