【乱暴と待機】 | ついてる男たち〜きっとリターン〜

ついてる男たち〜きっとリターン〜

イサオの脱鬱コラム・映画批評&アツシのイラスト。きっと週1更新。

監督: 富永昌敬
製作年度:2010年  製作国・地域: 日本  上映時間: 97分




【※ネタバレ含みます。知りたくない人は右上のバツを押すべし。】


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番上(山田孝之)と妊娠中の妻・あずさ(小池栄子)が
引っ越した先にいたのはあずさの高校時代の天敵、奈々瀬(美波)だった。

しかも奈々瀬は怪しい男・英則(浅野忠信)と兄弟のフリをしながら同居し、
英則は屋根裏から奈々瀬をのぞくことを習慣にしていた。

しばらくして番上と奈々瀬が接近したことから、
さらに4人の関係は歪になっていき・・・




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本谷有希子の舞台を基に映画化された本作。
主要登場人物は4人のみ。

・無職、無気力で女にだらしない男:番上(山田孝之)
・暴力的で気が強い妊婦:あずさ(小池栄子)
・人をイラつかせる面倒くさい女:奈々瀬(美波)
・復讐相手・奈々瀬と同居し、屋根裏からのぞく男:英則(浅野忠信)

正直、この4人を愛せないと観ていられない映画です。

個人的には、奈々瀬と英則が登場したあたりで、
嫌な予感・・・もとい、駄作のニオイがしました。

というのも、キャラクターも演技もぶっ飛び過ぎなんです。

演劇って客席と舞台の距離は、開始から終演まで変わることがないから、
アップやズームがある映画と違って、抑えた演技ってしづらいんですよね。
ゆえに誇張したキャラクターや演技が舞台では活きてくる。

逆説的に言えば、舞台を映画化するにあたって、
そのキャラクターをそのままスクリーンに持ってきてしまうと、
ひどく不自然に映り、テンションに温度差を感じて引いてしまうわけです。

奈々瀬と英則はまさにそんな感じ。
出てきたときから「あいたた~」ですよ。

でも、話が進むに連れて、なぜかそのネガティブな感情はなくなり。
むしろこのキャラクターにハマっている自分がいました。

とくに浅野忠信演じる英則の口調。

「オレはマラソンに行くぞ!」

最初は嫌悪していたんだけど、途中から中毒状態。
4人でゲーム人生(人生ゲーム)をやっているシーンでの、
奈々瀬とのやり取りはちょっと噴き出してしまいました。

奈々瀬「お兄ちゃんっ♪芸能界デビューできるけどしますか?!」
英則「・・・するっ!!」

奈々瀬「お兄ちゃん♪あずさちゃんが結婚しました!
    お祝い金を支払います!」
英則「・・・当然だ!!」

・・・みたいな。
「オレは◯◯するぞ!」「当然だ!」、言いたくて仕方ない。
このシーンで決定的に、4人のキャラクターを愛おしく思えました。


で!物語の中心にいる奈々瀬です。
彼女を取り巻く愛憎が、4人の歪な関係を築いています。


<あずさ×奈々瀬>

“人に嫌われたくない+人を傷つけたくない”という偏った感情が
行動の全てになっている奈々瀬。

しかし、その行動は酷く短絡的で、
高校時代に言い寄られた男には、相手を選ばず抱かれてしまう。

当時、奈々瀬があずさの彼氏とも寝たことが
あずさの憎悪の源になっている。

あずさの心境的には純粋な嫌悪だけでなく、
自分が演じようにも演じられないことを、
素でやってしまう奈々瀬に対する嫉妬の感情も色濃い。
奈々瀬への嫌悪は、そのまま“強い自分”への嫌悪でもある。


<英則×奈々瀬>

家族ぐるみの付き合いがあった2人。
両親の事故死を境に、人生が上手くいかなくなった英則は
事故のきっかけを作った張本人が奈々瀬だと思い込み、
彼女への復讐を誓う。

最高の復讐を思いつくまで、
復讐相手である奈々瀬との共同生活を強いる・・・
・・・というありえない提案にも、
誰にも嫌われたくない一心で、当然のように受け入れる奈々瀬。

『愛には理由はないけど、憎しみには原因がある。』

関わった人間と離ればなれになることを恐れ、
過剰に他人に執着してしまう奈々瀬にとっては、
愛よりもよっぽど信用できる。これなかなか深いなと思いました。


<番上×奈々瀬>

絵に描いたような・・・いや、絵にも描けないクズクズしさ。
女に寄生してる身で、立場的に上位であることを崩さない。
典型的なダメ男の番上。

男に誤解を与えない為に上下グレーのスウェットで過ごす奈々瀬に
この男の眼力は惑わされない。

彼女が秘めるエロスに鋭く反応し、
ねっとり生々しく口説きにかかる番上。
妊娠中のあずさに対する後ろめたさはゼロに等しい。

「さすが山田孝之!」と言わざるを得ない素晴らしさ。
この人は、出演作を観る度に評価が上がっていく。

役作りだと思うんだけど、正直体型も良くない。
ちょっと太ってるんです。

でも、無職という立場など物ともせずに、
常に女性に対して上から目線。
で、少々強引であろうと抱くところまでいっちゃう。
結局、女の敵と言われつつもモテるんです、こういう奴って。

オレもこれまでに2,3人そういう奴に出会ったことある。
いるんです本当に。

「優しい人が好き」「浮気しない人が好き」

そんな言葉が軽く吹き飛ぶように、女性はきっと・・・

「強い男が好き」

これが前提なんだろうと思ったものです。
生物学的に強さに惚れるというのは正しい。

サバンナでは優しくて浮気しないガゼルなんて、
真っ先にライオンにガブリとやられることだろう。

女性が求める究極は、優しくて浮気しないライオンなのである。


・・・っとまぁ、ありえない設定や人物像にも、
それぞれにトラウマや理由付けがハッキリしているので、
最初は「共感なんて1mmもできるかぁ~!」と思っていたのに、
随所に「こういう面ってわかるなぁ。」と
自分の中にも重なる部分を見出してしまうという不思議なお話。

4人それぞれが愛憎を理由(言い訳)にして、
孤独から逃れている。

わけのわからない物語から、日常の真理を垣間みる。
さらにこの映画の良いところはシリアスではなく、
徹底的にコメディー色に彩られているところだと思う。

少しでも踏み外すととんでもない駄作になりうる
ギリギリのバランスで着地させた映画。

自分の中でも記憶に残る作品となりました。


・・・最後に!!


もうこれは触れておかないといけない・・・
奈々瀬(美波)のケツがエロい件。

いや、ケツに限らず彼女が醸し出す雰囲気全て。

ラブシーン自体はものの数分だけにも関わらず、
それこそ記憶に残るケツとでも言いましょうか。
(↑なんだこの一文)

このブログのイラスト担当アツシと、
本作の感想を交わした際に、まず第一声で合致したのが・・・

「奈々瀬がエロい!」

・・・でした。
鑑賞した人ならわかると思います。
改めて言いますが、ものの数分なんです。

以前、このブログで評した【ヘルタースケルター】の沢尻エリカ。
本作の美波よりも、よっぽど体張ってます。

当時、これまたアツシと意見が一致したんだけど、
「あれだけ身体張ってるのにまったくエロくない!」

あずさが奈々瀬に嫉妬している対象は
この持って生まれた才能(エロさ)にも及んでいるんだと思います。

だから、あずさの行き過ぎた憎悪にも説得力が生まれるんですよね。
奈々瀬役が沢尻エリカだったら、あずさに違和感があったと思う。

この違いがわからない限り、
蜷川実花が映画で成功することはないだろう。

美波(正確には監督)の爪の垢を煎じて飲んでもらいたい限りである。



乱暴と待機
(初回限定版) [DVD]/キングレコード
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次回、更新予定の映画タイトルは
【ワイルドシングス】です。



ワイルドシングス
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すでに観た人、観てない人、
これきっかけで観てみ。





※ 次回動画にコメントしたことないけど、
 この予告動画の安さ半端じゃないですね。。
 ちなみにまだ未見。オレ間違えて【ワイルドシングス4】を借りて、
 鑑賞後にその失態に気付くという。。続編もあるみたいなので要注意。