ワークショップ第2日
なぜ 「トリウム」か?
「トリウム」という名を知ったのは福島第一原発事故の直後でした。緊急停止した筈だった1号機と3号機が水素爆発を起こした。
空高く舞い上がった煙は風に乗って広範囲な周辺に放射性物質を撒き散らした。発電所から半径20km圏内の住民に避難指示が出された。
原子力安全・保安院はこの事故の国際原子力事象評価尺度(INES)をレベル7とした。チェルノブイリ原発事故と同じレベルだ。
この事故で初めて緊急停止した後も原子炉は発熱を続け何日もあるいは何年も冷却し続けねば、水素爆発、炉心溶融を起こす危険があると知った。
なんという厄介な燃料を使ってることだろう。原発は潜在的な危険を持った恐ろしい設備なのだ。かといって原発の即座全面撤廃を主張すれば良いのか?
地球温暖化の原因が温室効果にあり二酸化炭素の排出を減らさなければ、地球が危機にさらされる。CO2排出削減は緊急を要する課題だ。石炭石油による火力発電には戻れない。
現代社会が抱える膨大な電力需要を満たし得る能力を持った発電システムは今のところ原発しかない。太陽光パネルや風力発電などをいくら大規模に作ったとしても既存の原発の発電能力に代わり得ない。それに原発はCO2を排出しない。
日本の原発は「沸騰水型軽水原子炉」と呼ばれる普通の水を減速材と冷却材として使っている。炉の中で水が沸騰し炉内の圧が高まる。
ペレット状にしたウラン235をジルコニウムの鞘に封じ込めた燃料棒を炉内に差し込む。
福島第一の事故でウラン固体燃料固有の事故につながるリスクが明らかになった。水素爆発。軽水(普通の水)と燃料棒のジルコニウムが反応して水素が発生する。
燃料棒でひとたび核分裂が開始されるとその連鎖反応は緊急停止できず燃料棒を長時間冷却し続けねばならない。緊急停止は名ばかりで実は停止できない。スリーマイル島の事故もチェルノブイリ原発事故も福島もみな冷却手段の喪失で大事故を起こした。
ウラン235は核分裂の後プルトニウムという人工の放射性元素に変換する。プルトニウムは原爆の起爆剤であり主原料だ。核ミサイルの弾頭にはプルトニウムが欠かせない。
原発の寿命は普通50年と言われている。私が日本を出た1974年の石油危機以降次々と原発が建設され50基を超えてしまった。大部分が寿命までに残すところ僅かしかない状況にある。放射線の攻撃にさらされた大量のコンクリート、配管類は重度汚染廃棄物。これらをどこにどうやって処理し捨てるのか?
原発と言えばウランを燃料とする原発だと私を含め多くの人が思い込んでいると思う。が、それは無知からくる思い込みで、原発、つまり放射性元素が核分裂する際に生じる巨大なエネルギーを発電に利用する設備は、他にもある。
ウラン原発よりも千倍も安全で、簡素、経済的な原子炉、トリウムの液体燃料を使う原子炉。フッ化物トリウム溶融塩炉(Thorium Molten-Salt Reactor=Th-MSR)があると知ったときの驚きは喩えようがない。どうしてこんなに優れたものが実用化されていないのだろう?
Th-MSRには水素爆発や炉心溶融は構造上(原理的に)起こりえない。緊急停止は炉底から液体燃料が地下のドレインタンクに流れ落ち、短時間で冷えてガラス状に固まって放射能はなくなる。
トリウム溶融塩炉(Th-MSR)は唯一の安全な原子炉で、原発の誕生時すでに試験炉が建設され3年間無事故で連続運転に成功した実績を持つ。
だれしも、この炉が実用化されると信じて疑わなかった。それが政治的な、ウラン鉱山主と燃料棒製造メーカー、核兵器の原料プルトニウムが欲しい軍とが協力画策して国に予算を打ち切らせ潰してしまった。そういう歴史があることを知って、これはなんとか蘇らせねばならない。今こそトリウム溶融塩炉の実用化を世界中に進める時だと確信するに至った。
(つづく)