怪獣が釣れた その2 | 雷神トールのブログ

雷神トールのブログ

トリウム発電について考える

奇怪な獲物が水からあがったので、人々が寄ってきた。竿とリールを借りた小屋は湖の管理人が営んでいて、その主人もやってきた。

 

怪獣は観たところエビのようでもありサメのようでもあった。クジラやイルカは尾びれが水平方向に広がっているがこの動物の尾びれはサメのように垂直に上下を向いている。眼はエビのように触角の先にあるのではなくサメの眼のように頭の中にあり瞼に包まれている。エビのようなハサミの代わりに、トカゲやイグアナのように4本の脚が生えている。観察の結果を簡単にまとめると、怪獣は巨大なエビとチョウザメのハイブリッド(合いの子)なのだった。

「こいつは私のだいじなマスを一日に10匹近くも食うので困ってるんです。釣りあげてくれてありがとうございます。お持ち帰りくだされば竿とリールのレンタル料金をお返ししますよ」
主人は怪獣を一匹でも減らしたいらしかった。

「どうしてこんな奇怪なエビともチョウザメともつかぬ怪物があなたの池にいるんですか?」思い切って私は訊いてみた。

 

「ええ。もう10年ほども前になりますが、誰かがここに怪獣の子を放ったんです。それが今では30匹近くにも増えましてね。世の中には奇怪な動物を選り好んで飼う人がいるもんですね。こいつの原産地は北米ですよ。カナダとの国境に近い米国山の中の湖に棲んでるんです。珍しいので絶滅危機品種に指定されて捕獲や持ち出しは禁止されてます」

 

 

 

「へえ~。珍しい動物にご縁があったんですかね。私は……」
「どうです。しばらく飼ってみては……」
奇怪な獣の容姿は観ていて美しくもなく私は気が進まなかったが、主人が困ってる様子を見て人助けと思って持ち帰ることにした。
バッカンに水を満たしていると、重いから運ぶのが大変でしょう。バスの停留所までお送りしますよ。そう言って主人は車を出して送ってくれた。

「こいつを飼うにあたってひとつだけ申し上げとかなきゃならないことがあります。それはこいつの食べ物なんです。こいつは魚だけじゃなく雑食なんです。そして草に当たるのが特別な藻なんです。その藻はさっき申し上げた北米の山中の湖にしか生息してないんです。3日にいちどはその藻を食べないと暴れ回って困ります。こいつがこの池に放たれた時、その藻もいっしょについてきたんでしょう。この池にはわずかに生えていますがこいつの仲間が食うんで、おすそ分けするわけにいかないんです。どうかご理解ください。こいつを飼うには、その藻を北米の湖の管理会社に頼んで分けてもらってください。値段はちょっと高いですが事情を話せば分けてくれます。原則、この動物といっしょにその藻の持ち出しも禁止されてるんです」