クリスマス・マーケット | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

11月の半ばからフランス全土に巻き起こった「黄色いチョッキ」運動がマクロン大統領の譲歩と緊急措置でようやく休戦の兆しが見え始めた矢先、ストラスブールのクリスマス・マーケットでイスラム過激派の青年が銃を乱射し、2人が死亡、一人が脳死状態で死亡同然、12人が負傷する事件が起きた。

 

 

死亡したのはパリが危険だからストラスブールを選んでクリスマス・マーケットを楽しんでいたタイ人の男性とイタリア人のジャーナリスト。イタリアのテレビ番組に「ほら、こんなに綺麗に飾られたクリスマス・マーケット」と映像を送った直後に銃弾が当たって死亡。

犯人はストラスブ―ル出身の29歳の男、シェリフ・シェカット Cherif Chekatt で警察の監視対象者Sリストに載せられていた。10歳ですでに窃盗を働き、以後27回も収監された常習犯。自由に行き来できるドイツへ行き強盗を犯した罪で2年間監獄に入れられた。その際、イスラム過激派の思想を広めようとしていたのでSリストに載せられた。

銃撃戦で左腕に傷を負ったままタクシーで逃走し13日午後1時現在も見つかっていない。720人の警官が昨日から必死で犯人の行方を追っている。

ストラスブールはトウルーズと並んでイスラム過激派の巣窟。パリのバタクラン劇場襲撃とオペラ座に近いメトロ・カトルセプタンブル周辺の路上で刃物により通行人を殺傷した犯人もストラスブール出身。

 

さて、「黄色いチョッキ」だが、半数48%は休戦を呼び掛けるも、半数52%は示威行為を続け、15日土曜も5度目のデモを行う準備をしている。寒さが一層厳しくなった昨日も、主にロータリー(英国を見習いフランスもほぼ100%ランナーアバウトになった)のまん中の空き地に木材やパイプでテントを建て、照明やコーヒーメーカーを置いて軽食が取れる休憩所を作って長期戦の構え。夜は見張り役の人が乗用車のシートを倒し狭い中に潜って寝るという。

そんな中、6人目の死者が出た。南仏アヴィニヨンで、23歳の「黄色チョッキ」運動に加わっていた 青年がポーランド人が運転するトラックに撥ねられ死亡した。現場にいた仲間の証言は運転手は故意にトラックを発進し青年を撥ねた、と。フランス語が話せないので通訳を介した尋問に時間が掛かかってるようだ。

 

購買力のアップという要求は解るが、「政治家による政治」に根底から不信を抱き、この際社会変革を目標に掲げるべきだとする人たちが「黄色いチョッキの怒り」グループを組織した。

「最後まで闘うぞ! Jusqu'au boutist ジュスコ・ブッテイスト」が黄色チョッキにはいるのだ。間接民主主義に疑問をぶつけ、選挙で多数票を得た政治家は民意を代表していない、とフランスが戦後半世紀にわたって維持してきた第五共和制そのものへの不信が根底にあるので、要求の早期実現は 無理だし、長い時間を要するので、政府が対話の場を設けてるのだから対話に応じるべきだと、休戦派は呼びかけている。「最後まで闘うぞ!」派は、下院(国民議会)の解散とか国民投票による直接民主主義とか果てはマクロン大統領の弾劾だとかまでスローガンに掲げて運動を続ける覚悟だ。

 

大統領の弾劾の現実性はというと、第五共和制下の現行憲法は 第68条に「大統領の罷免は上下両院議員の絶対多数の賛成を得た場合に、『Haute Cour 高等法院』が弾劾裁判を開き裁かれる」と規定している。

現状、下院はマクロン大統領を支持する「共和国前進 LREM」が絶対多数を占めているので、現実的にこれは不可能な話。

こうした「黄色いチョッキ」の人々を支えている思想は「天賦人権論」だと思う。ホッブスは「個人の生存の欲求とそのための力の行使を自然権」として肯定した。ジョン・ロックは「生命、身体および財産」への権利であり、国家はこの自然権を保障するための組織だとした。

ホッブスとロックの思想はバージニア宣言、アメリカ独立宣言、フランスの人権宣言となって現れた。

日本では、明治初期の啓蒙主義、民権論者、なかでも植木枝盛は1883年に「天賦人権弁」を書いて、人権を自然権の概念によって把握しようとした、という。

 

 

フランスのジャーナリズムで「黄色いチョッキ」運動が天賦人権論に拠っていると主張してるのは中道左派の週刊誌「マリアンヌ Marianne 」。編集長のナターシャ・ポロニ Natache Polony 女史は選挙のたびにテレビに招かれコメントする人。この週刊誌は68年世代(68年5月のいわゆるパリ五月革命)の潮流を受け継ぐ人たちで、ドグマを排し、EU推進派で経済ではリベラルのグローバリズム寄りの考え。政治家では、前回の大統領選に立候補したニコラ・デユポン=デニャン、前首相でアメリカのイラク戦争に反対演説を国連でしたドミニック・ヴィルパン、サルコジと大統領選を闘って敗れたセゴレン・ロワイヤル女史、アンリ4世の出身地ポー市の市長で中道左派のフランソワ・バイルーなどの考えに近い論調を掲げている。 

 

      照れ