出生の秘密 アーサー王伝説 その⑤ | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

さて、ペンドラゴンはブリタニアを平定するが、コーンウェルのテインタジェル侯は反抗している。しかしやがて二人は和解し、テインタジェル侯はイグレーヌ妃を伴いペンドラゴンの御前に出る。

 

 

 

あまりに美しいイグレーヌ妃を眼にするやペンドラゴン王は「ひとめぼれ」してしまうのである。なんとかしてイグレーヌをわがものにしたい。ペンドラゴンは夜な夜な美しいイグレーヌの幻影に身もだえする。

ペンドラゴンの邪な想いを知ったテインタジェル侯はイグレーヌをテインタジェル城に 閉じ込めてしまう。思い余ったペンドラゴンは超能力者・魔法使いのメルランに頼み込む。なんとかしてわが熱烈なる恋情を叶えてくれまいか。叶えてやってもよいが、ただひとつ条件があるよ。陛下とイグレーヌの間に子ができるだろうが、その子を私のものとして手渡してくれるなら、想いを叶えてしんぜましょう。

「よい。よい」子供など二の次だとペンドラゴンは思ったかもしれない。おれが欲しいのはイグレーヌなんだ。ふたつ返事で王様はメルランの条件を入れ、早くはやくとせっつく。メルランの魔法はペンドラゴンをテインタジェル侯に変身させた。

小競り合いの戦闘にテインタジェル侯を首尾よくおびきだしたペンドラゴンは魔法の馬で空中を駆けテインタジェルに忍び込み、忘れ物を取りに返ったような風をして、まんまとイグレーヌを抱く。ペンドラゴンが欲望を達している間に、あわれにもテインタジェル侯は戦いで殺される。

こうして生まれたのがアーサー王なのだ。アーサーは出身そのものに「不倫」「不義の子」といった暗い影を最初から負わされている。「姦通」「不倫」「近親相姦」はアーサー王伝説の重要なテーマなのだ。後にアーサー自身も知らず近親相姦を犯してしまう。まるで旧約聖書の世界だ。

テインタジェル侯を失ったイグレーヌはやがてペンドラゴンと結婚する。生まれたアーサーを泣き叫ぶイグレーヌの手からメルランは約束通り奪い取ってゆく。

ここまでは初期のアーサー王伝説、つまりプランタジネット王朝が権威づけのためにグラストンベリー修道院と結託して家系図をでっちあげる前の民間に伝わる英雄伝としてほぼ共通のアーサー出生に係る秘密である。

コーンウオール半島の先端にはテインタジェル城が今も残っている。海に突き出た岩ばかりの荒涼とした場所で、1990年にここを訪ねたアーサー王伝説研究家の加藤恭子女史は「丸い島がぼこっと海中に突き出している……細い地面で陸とつながっている。ほとんど周囲をぐるりと海に囲まれた孤島の雰囲気だ。だからジェフリは三人の兵士でこの細道を守れるとしたのだろう。」と記しておられる。(中公新書:アーサー王伝説紀行)

つまりテインタジェル侯に変身したペンドラゴンが馬に乗って渡ろうにも大変険しい細道を辿らねば城には行きつけない。だからメルランの仕掛けた魔法で馬が空中を飛んで城に忍び込むのだ。

イグレーヌの手からアーサーを奪い取ったメルランはアーサーを小領主に預け騎士として養育させる。アーサーは出生の秘密を知らぬままに成長する。


    (つづく)