組立ショップの設計はメーカーにより違いはあるが、基本は一本のラインの上をコンベアに乗せられ、またはハンガーに吊るされたボデーが一定の速度で動き、これに必要な部品を組みつける作業を容易に迅速に出来るようすることだ。
まず設計の基本条件を決めねばならない。コンベアまたはハンガーが移動する速度と、必要な部品を、どのような順番で幾つの工程に区切り組み付けてゆくか? これを決めるのは次のような条件による。
ラインのスピードは、タクトタイム、フランスではカダンス(cadence リズムとかテンポ、拍子の意)と呼んでいる。
オーケストラの指揮者がひとつの交響曲を演奏するには速度がある。カラヤンとベームでは違う。クルマの組立ラインの速度もメーカー、工場の車種ごとに違っている。
大きくは生産台数、どれだけ造って売るか? 販売戦略とも関係し、造った車をすべて売れるようでなければ造っても無駄で損を計上するだけとなる。
旧ソ連型の生産計画により造られた車は選択の余地は少なく、これしかないからこれを買えと消費者に押し付けた。フランスの代理店には今もそういった性格が残ってるのでフランスでクルマを買う時は気をつけられた方が良い(ノ◇≦。)。
ライン設計は経営方針と関係し、一方でラインに入って作業にあたるオペレーターの能力と関係する。
ボデーに組み付ける部品の総数を幾つの工程に細分するか? 原則は一工程に一人のオペレーターだから、工数の分け方でラインの員数も決まってくる。
ひとりのオペレーターが担当する部品の数も大きなもの、例えば、インパネ(インスツルメント・パネル)とかドアとかエンジンとかは一つだけ、エンジンの場合は4・5人で組み付ける工程もある。が、一般に一人のオペレーターは3~5種のパーツを1分前後で組み付ける。
そして、ここが労使間の対立が現れる接点なのだ。
経営者はできるだけ早くたくさんの部品を組みつけて欲しいし、オペレーターは
なるべくゆっくり、少ない数の部品を担当してできるだけ高いサラリーを受け取りたい。
実はここにフォード・テーラー・システムの本質が集約している。
フレデリック・テーラーの思想は、手脚、身体を使う肉体労働は、人種、老若男女の差は無く、要素作業(位置決めとかネジ締めとか)に掛かる時間はほぼ一定だ、というところにあった。
テーラーの考えにさらにギルブレスがレンガ積みの作業研究を行い、手順と作業環境を整えれば同じ作業でも10倍は速くできることを実証した。ギルブレスは人間の手脚を使う作業を二十いくつかの基本要素に分類し、それぞれの基本要素は人種、老若男女の別無く一定の時間を割り振ることができる、とした。
この考えは、現代の建設業界でも使われている。ひとつのビルを建てるのにどれだけの時間で幾らで出来るか。新国立競技場の建設に当たって、ザハ・ハデイド案の建設費が2500億円にもなって高すぎると、再入札となったが、建設費を見積もるのに各建設会社は見積もりのノウ・ハウを持っていて、それを積算して総工費をはじく。
ザハ・ハデイド女史のデザインは斬新性があったが、コストが掛かり過ぎた。再入札はデザインと施工を一体とするという条件がついていたため入札に応じられる建築家は皆無だった。
結局、ザハ案ですでにスタンド工事の契約済みで作業員と資材の手配を済ませていたT社が請け負うことになった。
クルマのラインに戻る。ラインは大きく3つに分けられる。めのうが働いた工場はコンパクト設計で、3つのラインはそれぞれ平行に帰りのラインがあって全部で6本のラインということもできる。
準備工程、ハーネス(主にモーターや照明、コンピューターを繋ぐ電気配線)、エンジンとサスペンションなどボデー下部と足回り、などに分類できる。
塗装ショップから出て来るボデーにはドアがついたままなので、まずドアを外してドアだけのサブラインへ送る。ドアがついたままだと部品の組付け作業に邪魔になるから。
ドアにはドア・ミラーとスピーカー、ウインドウを上げ下げするハサミ型の機構、内側のパネル、ひじ掛けなどパーツがあるのでドア専用のサブラインがあり12~20人ぐらいのオペレーターが作業に当たる。
完成したドアはボデーに全部のパーツが組み付けられた最後にもういちどメインラインに戻り、外したのと同じボデーに組み付ける。この時必要なのはライン間の同期化(シンクロナイズ)ということ。
サブラインがあるのはドアの他にインパネとエンジン+ミッション(トランスミッション)の組み立てライン。同じ車種でも、ガソリン車かデイーゼルか、手動かオートマかセミ・オートマか? など仕様がさまざまなので、ここにも同期化が重要になる。
さて、いよいよ組立の本質的なところへ入ってゆくわけだけれども、組立がどのショップよりも面白いのは、人間の作業(本来連続的な動的なもの)を細分化という数学により切り刻んで行く。いわば、アナログの世界を無理やりデジタル化するところにいろんな問題が生じてくること。
それと、他のショップではほとんどがロボットにより行われているのに組み立てだけが人海戦術、いまだに人がラインに入り手足を動かして作業する世界なのが考察の対象となる。ロボットが発展し将来、「やわらかモノ」のハーネスとかも組み付けられるようになるのか?
あるいは人間の手の感触はロボットではとても追いつけないほど敏感なモノなのか? などについて次回から考えたいと思う。
(つづく)



