気象衛星がまだなく天気予報の確率が低かった僕らの少年時代、遠足や運動会を翌日に控え、さまざまな「占い」をやったものだ。
「てるてる坊主」とかもあるけれど、僕らがやったのは、下駄を空に投げ歯が上向きに落ちれば雨、歯が地面に接して落ちれば晴と占って遊んだものだった。
気象条件が仕事と生活に直接影響を与える農家では、晴れと雨の予想はとても大事だった。
フランスの民間伝承、というより半ば迷信に、「ネコが耳のうしろへ前足を回してなでるとき」翌日は雨というのがある。
マルセル・エーメは1902・3・29~1967・10・14 ヨンヌ県のジョワニー Joigny に7人兄弟の末っ子に生れた。 父は蹄鉄工、2歳の時母を亡くした。
彼の短編集「おにごっこ物語 Les Contes du Chat perché 」は作者自身が序文に寄せて書いてるように「4歳から75歳の子供」に向けて書かれた童話集。
その一番最初のコント「猫の脚 La patte du chat」を読んでみた。
農家のふたりの女の子、デルフィーヌとマリネット(年齢は推定で6・7歳、と4・5歳か)それに猫のアルフォンスが主人公。
両親が畑に出て不在中、デルフィーヌとマリネットは食堂のテーブルの周りで鬼ごっこして遊ぶうち、家に百年前から伝来の大皿をテーブルから落してこなごなに砕いてしまった。
戻った両親がみつけて怒り、罰にデルフィーヌとマリネットを翌日メリナ叔母さんのところへジャムを届けに行かせる、と宣告する。「あしたお天気なら……」と。
これを聴いてふたりの顔が青ざめる。メリナ叔母さんは年寄で口には歯が一本もなく、顎には髭が生えている。ふたりを迎える時は抱きしめて頬付けをするが髪が髭にからまるし、肌を刺して痛い。それにふたりが来るまで取っておいて古くなって匂いを放つチーズを食べさせるのがなによりの楽しみ。
涙ぐんで薪置き場に行ったふたりは、そこに猫のアルフォンスが「耳のうしろに脚をまわして撫で」てるのをみつける。
「そうだ、あした雨が降るように、アルフォンス、耳のうしろをなでつづけて」。ふたりの頼みを引き受けた猫はすぐに50回も耳のうしろを撫で続けた。
翌日は、おまじないが効いて雨。翌日も、その翌日も……。とうとう1週間毎日雨ばかりで娘二人はメリナ叔母さんところへ行かずに済んだ。
町にじゃがいもを届けに行く両親が電車の時刻を待つあいだ、アルフォンスを掴まえ麻袋に押し込んだ。袋には3㎏ほどの石が入っている。両親のやろうとしてることを察したデルフィーヌとマリネットは恐怖におののいた。川にアルフォンスを投げ込んで沈めてしまおうというのだ。
「みみのうしろをなでるネコはもうたくさん。いなくなってもらう。でも、もう電車が来る時刻。川へ行くのは戻ってから」
両親が出掛け、デルフィーヌとマリネットはアルフォンスをどうにか救えないか、と農場の動物を全員集めて対策会議。
犬は川にアルフォンスを入れた袋を持って行く主人の踵に噛みついてやる、と宣言する。でもみんなから君はご主人に忠実だから、いざとなったらと否定される。
年老いた馬が「あたしはもう寿命だし、アルフォンスに代わって袋に入るわ」というが、頭だけでも袋に入り切らないと否定される。
名案を考えたのはアヒルと牛だった。この場面、ジョージ・オーウエルの「動物農場 アニマル・ファーム」を思わせる。
名案は、アルフォンスの代わりに猫の形に近い薪を入れ、生きてるように見せるのに鼠を入れよう、というもの。
ここで、エイメの辛辣さ、揶揄の精神が出てるな、と思うのは、雄鶏の描きかた。「おんどり」はフランスのシンボルなのだが、エイメはみんなで雄鶏を追い出してしまう。愚直な正義漢をみんなは嫌ったのだ。
あひるはネズミに言い含める。「いいわね。袋の底には小さな穴が開けてあるから、あんたは穴を噛んで拡げ、川に投げ込まれる寸前に逃げ出すのよ。それまでは薪の上を這いまわって生きてるネコを演じるの。逃げ出すタイミングは犬が吠えるから……」
こうして、みんなの知恵で猫のアルフォンスは救われたのでした。
ところどころで辛辣なエイメの人間観察が出ていて、とても好い童話、というより大人も読める短編でした。
アルフォンスは屋根裏に隠れ、夜だけデルフィーヌとマリネットの寝室に降りて来るのですが、ある晩うっかり寝てしまって朝見つかってしまうのです。
続きは、「おにごっこ物語」として岩波少年文庫から1956年に鈴木力衛訳で出てますので、是非お読みください。
鈴木力衛先生は、モリエールを訳されたフランス文学の大家です。エイメは小説で名声を得たあと、長年書きためていた戯曲を発表し、「クレランバール」など評判を得ています。
小説で面白いのは「壁抜け男 Le Passe-muraille 」でしょう。
めのおはフランスに着いたばかりの年、夏期講習に登録して、フランス語を学びましたが、ニースから来られた女性の先生がテキストにこの本を選んでくださり、楽しく勉強できた思い出があります。
また、マルセル・エイメが生まれたブルゴーニュのヨンヌ県ジョワニーという町は、めのおの細君リリアンヌが幼少期を過ごした町でもあります。
なんという偶然の戯れでしょう。
ヾ(@^▽^@)ノ



