めのおが住んでるサン・ファルジョー村から約20km南に流れるロワール河は、流域にいくつも歴史の舞台となった名城を持ち、フランスの庭園と呼ばれ、気候的にも文化的にも、そして自然保護の観点からも重要な大河です。
流域全体がユネスコの世界文化遺産に登録されていますが、歴史・文化に限らず産業分野でも重要な5カ所の原発を抱える河です。
そのロワール河がオルレアン、トウールといった街を抜け、さらにアンジェ、ナントと歴史的な街を通って大西洋に注ぐ河口に「サン・ナゼール Saint-Nazaire 」という町があります。町自体は小さいですが、ここには重要な造船所があります。
昨日(7月27日金曜日)、フランスの経済産業相ブリュノ・ルメールが「サン・ナゼール造船所の国有化」を発表しました。
マクロン大統領を筆頭にフランスの新しい政府はむしろ企業の民営化を推進する、どちらかといえばリベラルな政策をどんどん行うだろう、と予想されていただけに、「国有化」という新政府の基本方針とは逆行する決断をしたのは何故か?
大統領選の直前にも倒産しかけている企業がいくつかあり、失業の危機にさらされた労働者が工場を占拠していた現場にマクロン氏は乗り込んで、国有化はあり得ない、企業倒産は自由主義経済の下では避けられない不幸なのだ、と説いていました。
サン・ナゼール造船所は従業員数7000人という巨大企業です。
そして歴史的にフランスの産業を代表する、フランスの産業技術の威厳の象徴のような企業でした。
そんな企業が経営難に陥った2016年競売に附せられ、イタリア勢の手に落ちようとしていたのです。
イタリア企業の経営となれば、フランス人労働者は派遣労働者となり、イタリア人労働者が優先されるだろう、という危惧を地元の人達が抱いていました。ほかにも国有化に踏み切った理由はいくつかありますが、それを挙げる前に、この造船所の歴史を振り返ってみます。
「サン・ナゼール造船所 Chantier naval Saint-Nazaire 」は俗名で企業名はアトランテイック造船所 「Chantier de l'Atelantique 」と言います。
敷地面積は150ヘクタール。ヨーロッパ最大の造船所です。
大西洋航路を豪華客船が北米大陸とヨーロッパを結ぶ船旅に活躍した時代、この造船所で歴史に名を残す船が造られました。
ノルマンデイー Normandie、フランス France、クイーン・メリ2 Queen Mary 2 など。
その後、造船業がグローバル化を迎え、競争力が劣ることと、大型客船の需要がなくなり、衰退しましたが、1976~1979年には大型タンカーの受注が相次ぎ、バテイリュス Batillus などマンモスタンカーを造ったりしていました。
1976年にアトランテイック造船所 「Chantier de l'Atelantique 」はフランスの代表的重工業企業 ALSTHOM と合併し「Alstom Marine 」と社名が変わります。
2006年、ノルウエーの企業 Aker Yaras が Alstom Marine の株式の75%を取得します。しかし業績は揮わず
2007年、韓国の企業 STX Offshore & Shipbuilding が株式を買い取り、フランス国家も33・3%の株を保有し、名前を STX Europe と変更します。
2011年、再び危機に見舞われます。USA の企業 Viking Riner Cruise 社が2艘の巨大クルーズ船を発注書にサインしたものの財政難でキャンセルします。
さらに、リビアにデリバリー予定だった客船が完成後政治的危機で支払いが凍結されます。
2014年5月、STX Europe は KDB(Korea Development Bank)により売りに出されます。
大型クルーズ船の受注をして仕事はあったのですが、2016年6月、STX Offshore & Shipbuilding が倒産し、10月にSTX Europe は正式に競売に出されました。
以後、買い取りに名乗り出たのはイタリアのフィンカンチエリ Fincantieriという企業だけでした。
フランス国は依然33・3%の株を保有していますが、フィンカンチエリとDCNS さらにイタリアの金融財団を合わせてイタリアが主要株主となり経営権を握ることになるのでフランス政府はなんとか経営権を維持しようとネゴを続けていました。
明日7月29日(土曜)までに他の買い手が名乗りを上げない場合、イタリア勢がSTX Europe のオウナーになることが決まるため最後の決断として、マクロン大統領が「国有化」やむなしと決断に踏み切ったわけです。
国有化はあくまで「一時的」なもの、とルメール経済産業相も強調していましたが、国有化の理由は大きく3つ挙げられます。
①上にも挙げましたが、従業員の数が7000人。その雇用が危機にさらされること。イタリア企業に経営権が渡れば、4000人は派遣社員となり、イタリア人労働者を優先するだろう。
②イタリアの造船企業フィンカンチエリは中国資本に支えられており、フランスが100年以上に渡って貯えて来た貴重な技術的ノウハウが中国に奪われてしまう。
③サン・ナゼール造船所はフランスで唯一の軍艦を造れる造船所。「国の威信」はなにも民間の造船産業だけでなく、軍事的要請に応えられる造船所にある。
ブリュノ・ルメール経産相は「造船所がずっと国の管理下に置かれるものではなく、国有化はより良い条件を獲得するためのネゴの時間を得るための、あくまでも一時的な国有化」と強調しました。
国有化に掛かる費用は約8千万€。日本円(1€=130円換算)で約1兆400億円となります。
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