参謀総長辞任事件 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

7月20日投稿した記事「第17ステージ、波乱の連続」に詳細は後日に、と書いたことにつき、少し書きたいと思います。

この日(7月19日)TDF を観戦に来たマクロン大統領がレース後、 Velo Club に招かれ、司会者の質問に答える形で、2018年からは軍の予算を大幅に増やすという約束は必ず守りますと発言しました。

TDFとは関係ない軍の予算に関して何故質問がなされ、なぜ大統領が答えたか?少し説明が要ると思います。

 

この日、フランス全軍の参謀総長ピエール・ド・ヴィリエ将軍が辞表を提出しマクロン大統領が受理するという出来事があったからです。

この事件は大きな波紋を呼び、結果的にマクロン大統領の支持率が10%も急落する現象となって現れました。

経過を見てみましょう。

 

2017年7月11日、予算大臣ジェラール・ダルマナンが2017年の予算が大幅な赤字と判明したため、各分野で予算を削減する必要があると発表。各省庁への削減割当額のうち、軍事予算に関しては、国会で承認を得た2017年度予算から8億5千万€(日本円で約1062億5千万円)を削減すると表明した。

翌7月12日の国会の国防委員会で、全軍参謀総長のピエール・ド・ヴィリエ将軍は「このままにさせてはおかない」と反対意志を表明した。

国防委員会は非公開だったが、何者かがリークし、ル・モンド紙がヴィリエ将軍の発言を公表した。

7月13日、恒例の軍へのスピーチでマクロン大統領は「軍事予算を順次GNIの2%に増やす約束を確認したうえで、「私はあなたの長である」と憲法に規定されている共和国大統領が全軍の長であると力みすぎと感じられるほど強調したうえ、「倹約努力に対する批判は許さない」といった調子で次のように発言した。

「市民と軍に対し私がとった約束を私は守ることができる。これに関して、いかなる圧力もいかなるコメントも私は必要としない」

ピエール・セルヴァン軍事戦略専門家によれば、「共和国大統領が全軍の参謀総長に対し、このように容赦ない発言を行ったのは前代未聞」だと。

7月14日のパレードには、マクロン大統領とピエール・ド・ヴィリエ参謀総長はふたり並んで軍用車に立ちシャンゼリゼを行進した。

 

 

沿道の観衆には何事もなかったように映った。

 

しかしその日の夕方、ド・ヴィリエ参謀総長はフェイスブックに投稿し「用心せよ」と訴えた。

7月16日マクロン大統領は日曜ジャーナル紙に対し参謀総長罷免の可能性を匂わせた。

「もし参謀総長が共和国大統領に対立するようなことがあれば共和国はうまくゆかない。参謀総長は変わるべきだ」

政府スポークスマンのクリストフ・カスタネールは参謀総長の辞任が不可避となったと表明。第五共和政下でかつてなかった事件となった。

7月19日、ピエール・ド・ヴィリエ参謀総長は辞表を提出、マクロン大統領がこれを受理した。

ル・モンド紙によれば、これは1958年以来なかった歴史的事件。

同日、フランソワ・ルコワントル将軍が新参謀総長に就任した。

 

新参謀総長(右)を迎え空軍基地125で演説した大統領。マクロン氏の左は女性防衛大臣↑

 

この事件を機に、マクロン大統領があまりに権威主義的すぎるという批判が広まった。

左翼で野党のFI(服従しないフランス)党首、メランション氏は「ヴィリエ参謀総長は国会の委員会の要請に応え答弁しただけなのに、厳しく叱責するなど信じられない」と批判し、責任を負うべきはヴィリエ参謀総長ではなく、非公開で秘守義務を持つはずの議員かだれかリークした者だとし、「国会の権利の冒涜」、「民主主義の危機」だと指摘した。

そして2日前のニュースでは、世論調査の結果、マクロン大統領の支持率は10%急落し、54%となった、と報じた。

ピエール・ド・ヴィリエ将軍は1956年ヴァンデ県のブローニュ生まれ。正式名を Pierre Le Jolis de Villiers de Saintignon という。

ヴァンデ県はフランス大革命後革命政権に対し反乱を起こした地方でもあるが、逆にジャコバンの伝統を引く極左共和主義者ジョルジュ・クレマンソーを生んだ地でもある。ピエール・ド・ヴィリエ将軍はフランス王党派(極右)の政治家フィリップ・ド・ヴィリエ氏を兄弟に持つ。

サンシール士官学校を卒業。2014年全軍の参謀総長に就任。

2015年11月13日のパリのテロ襲撃の後、対イスラム国反撃を担当。「イスラム国の脅威に対し、フランスの平和と安全を保障するには唯一軍事行動しかない」との認識し判断を持った。

バルカン、サヘル、中央アフリカ、シリア、イラクでのフランスの軍事行動をコーデイネートし、同時にフランス国内での反テロリスト作戦、歩兵による監視(サンチネル)を指揮した。

2016年12月に、軍事予算を順次GNIの1・7%から2%に増やす政策に賛意を表明した。これは2022年までに毎年約30億€(日本円で約3,750億円)増大することを意味する。

これに対しマクロン大統領は2025年にGNIの2%に達するようにすると約束していた。

 

以上が事実関係。あとはめのおの感想です。


フランス軍の統合参謀総長ヴィリエ将軍がマクロン大統領に苦言を呈したことに触れ大統領が「フランス全軍の長は私だ」と言わずもがなのことを声高に主張し「他の誰からも批判されたり助言されたりする必要はない」と見栄を切ったのは失策でしたね。

テレビでこの発言を見た時は、「ヒヤリ・はっと」しました。やってはいけない一線を越えてしまった。演劇好きの大統領は歌舞伎役者よろしく見栄を切った。でも、あれは今後の政権運営を厳しくするだけで何ひとついいことはない。

全分野で6兆円もの予算を今年度中に削減しなければならないと判り、苛立ちもあったでしょうが、「私が長だ」なんて言わずもがなの子供が言うセリフみたいなことを言って、お歳より世代に総スカンを食ったのです。

「軍のことを何も知らない青二才めがなにを言うか」と。

一国の元首なんだから、そこは言わなくても、「堪え難きを耐え、忍び難きを忍んで……」と国の財布が空になってることを訴え、来年度は予算を増やすからそれまで我慢してくださいと訴えるべきだった、と他人事ながら思いました。

財政難に直面し、誰よりも困難を良く分かっていて、夜も寝られないほどに悩んでることだけに、無理難題を吹っ掛けたごとくの受け取り方をした参謀総長の言い方がよっぽど頭に来たのか? 

 

「私が全軍の長である……」と力み返った時、正直「はっ」としました。言ってしまったからには、その筋の仕返しは避けられまい……と。

若いのによくやるなあと外国籍のめのおは感心してましたが、こんな若造を頂点に抱えた軍のお偉方、年寄は我慢できなかったらしい。

事実、クーデタを口にした軍人も居たというから恐ろしい。

世論調査の結果マクロン大統領支持率が一挙に10%下落し、54%となった。

原因はヴィリエ参謀総長辞任事件だけでなく、いくつかのことが重なってこの結果が表われたと思います。

① ひとつは住民税の順次削減により地方自治体の歳入減少をどうするのか? という自治体関係者の疑問

② 二つ目は社会保障費CSGの引き揚げと削減に関して市民が疑問を抱き始めたこと

③ 三つ目は7月16日のヴェルデイヴ事件記念日に関してフランスはこの日のユダヤ人狩りに全面的に責任がある、というマクロン大統領が発言したことにつき、おもにル・ペン極右にある部分共感を抱いていた市民が、反発したこと、などが挙げられます。

これらの件については追々投稿してゆきたいと思います。

 

  

 

    (/TДT)/