フランス大統領選の開幕 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

フランス大統領選を一か月後に控え、500人の推薦者の署名を集めた候補が出そろった。

 

世論調査で有力候補とされるのは5人。保守の共和党から統一候補のフランソワ・フィヨン。中道を巻き込み左派の最有力候補で年齢も39歳と超若手のエマニュエル・マクロン。伝統社会党から統一候補のブノワ・アモン(43歳)。極左と共産党の支持を得たジャン・リュック・メランション。それに極右のマリンヌ・ルペン。

 

↓ 写真はランスの会場で演説するエマニュエル・マクロン候補

 

こんどの選挙は大きく言って、現代政治の大きな流れ : ふたつの対立する思潮がぶつかり合う、とても興味深く大事な選挙だ。

従来の保護主義はまだ足りないとして保護主義こそヨーロッパを際立たせる特徴であり、さらに拡大すべきとする正統社会主義と、保護者の国が経済的に破綻したのでは元も子もなくなるとして小さな政府を掲げるネオ・リベラル、新ケインズ主義。保守の共和党から立候補しているフランソワ・フィヨン前首相とエリート養成校を卒業し銀行に勤め社会党内閣で短期だが経済相を務めたエマニュエル・マクロンも後者を代表する政策を掲げ中道勢力を巻き込んで今のところ世論調査でトップに立っている。極右のマリンヌ・ルペン女史との違いはEU、ヨローッパと統一通貨ユーロ圏内に留まるか否か? の違いだ。

フランソワ・フィヨン前首相は、保守の共和党の統一候補戦に勝利した直後に、家族を架空の職に就かせ10年以上合計1億円に上る金額を着服していたことが暴かれて、過ちを犯したことは認めつつも、法律上は禁じられてはいないので大統領選を闘い続けると宣言したが、モラルの上で大衆の支持を失い、一か月後の第一回投票でおそらく落選するだろうと見られている。フィヨンが途中で候補から降りるとか第一回の投票で破れると、彼を支持する人々の多くが、右翼のマリンヌ・ルペンに投票するだろうと危ぶまれている。

昨日、ベルシー・イヴェント会場で開かれたブノワ・アモン支持のミーテイングは、この前者、正統社会主義を代表するもの。2万強の席が満席で溢れた人が場外に据えられたスクリーンを見に集まり、その数およそ5千人。集会は初めから盛り上がりを見せ、ブノワが言葉を切るごとに盛大な拍手と「ブノワ・プレジダン」のスローガンを熱狂的に繰り返した。

 

 

 

1時間半に及ぶブノワの演説の要旨は以下の通り。

 

この度の選挙は普通の選挙とは違う。フランスという国の運命を決める重大な選挙だ。われわれの国の変革は「いま、ここから、今日のこの日を第一日として始まる」。未来に失望し、過去に舞い戻るのではなく、よりよい未来の「ために pour 」闘いを進めようではないか。

 

このたびの選挙の立候補者の主張には共通項がある。それは「金」だ。国を企業と同じようにみなし、ムダを省きスリム化して効率を良くし、経済的に優等生の国にすべきだという議論が数人の有力候補によって叫ばれている。

 

だが私は国と企業を同じに見做すのは間違いだと思う。国は企業が出来ない事、企業よりずっと大きな視野で現世代の国民だけでなく子供たちさらに子供の子供たち、数世代先の将来にわたっての生活を準備すべき使命を負っている。

 

国家公務員を数万人減らす、と公約に掲げるのは過ちだ。病院、教員、警察官、税官吏、それぞれ大切な使命を果たす人たちは尊敬されるべきだ。なかでも教育は最重要で国の将来のためにも教員の数を増やさねばならない。私は大統領に選ばれれば5年の在任中に教員を4万人増やす。さらに保育園の数を25000にする。

 

文化活動が不況の影響で低迷してるが、予算を40億€付与すべきだ。

(このように大きな政府、保護主義がヨーロッパを特徴づけているのでUSAと大きな違いはそこにある。だが保護者である国そのものが経済的に破綻寸前では理念を掲げても「ウソ」公約違反に終わる。多くの若者が社会党政権に失望を感じ右傾化したことをどう総括するのか?)

 

防衛予算。英国がEUから離脱するお蔭で、ヨーロッパには、防衛体制が完備した国はフランスだけになってしまった。軍事予算は、国の赤字をGDPの3%以内とするというEUの規定の範囲外とすべきだと私は主張する。

 

世界はUSAのトランプ大統領、ロシアのプーチン大統領の統治に代表されるように、民主主義から外れて君主制の大国が増えてしまった。

 

そんな中でダエッシュ(IS)のテロの脅威はいまだ続いている。外からの脅威に対してヨーロッパは万全な防衛体制を維持すべきことはいうまでもない。むろん核の能力は維持してゆく。

 

原発は40年の寿命が過ぎ老朽化したものから順次廃炉にし、再生可能エネルギーに転換してゆく。環境問題は人類の存続につながる重要な問題だ。地球温暖化は年々脅威を現実のものとしてきており、「Cop 21」で打ち出され世界中の国が合意に達したことを例外なく実現しなければならない。


フランスの第五共和政も各所に欠点が目立ち始めた。私は第六共和政へと革新すべきことを訴える。

 

「新しい、社会的な、環境保護的な共和国」を目指して革新をすべきである。

 

1789年のフランス大革命によって打ち立てられた共和国の原理、万人が生まれながらにして持つ「人権」。この思想が今日ほど世界中で踏みにじられている時代はない。

 

「男女間の平等」、「人種の平等」。5年後には、現在未成年の少女の中から次の大統領、フランスで初の女性大統領が出て欲しい。

ユダヤ人、アフリカ人、アルジェリアを植民地化したことにより現在もなお尾を引いている諸問題と今後もずっと取り組んで行かねばならない。

 

ドレフュス事件。ドレフュス派か反ドレフュス派か? このようなけじめははっきりと峻別すべきなのであり、どっちつかずの曖昧さに逃げ込むことは許されない。ヴィクトル・ユゴーがナポレオン3世の独裁に抵抗して亡命したこと。エミール・ゾラが「われ弾劾す」を書いてフランス軍部と時の大統領がドレフュス少尉に冤罪を着せ島流しにしたことへの断固とした弾劾を行った勇気。

 

社会主義を唱え続けたジャン・ジョーレスは右翼青年に暗殺された。1930年代のフランス「人民戦線」内閣を主導したレオン・ブルム。フランス大革命以来連綿と続いて来た、人権の拡大は、その後も、マンデス・フランス、ミッテラン、ミシェル・ロカール、リオネル・ジョスパン、マルチン・オーブリらわれらの先輩によって着実に実現されてきた。こうした波を後ろへ引き戻してはならない。

 

われわれの国の変革は「いま、ここから、今日のこの日を第一日として始まる」。過去に失望し、過去に舞い戻るのではなく、未来の よりよい未来の「ために pour 」闘いを進めようではないか。

 

最後は伝統的「アジテーション」で終わったのだが、こうした変革の情念をぶつける若者たちがいまなお健在であることを見せつけられ、ある意味非常に感動した。

 

より具体的な政策としては、例えばサルコジ大統領によって廃止された「身近な警察官」(police de proximité )を復活させる、だとか 「カナビス(大麻)」の自由化。などがあり、大麻を巡って同じ社会党から出て首相を務めたマヌエル・ヴァルスとブノワ・アモンは対立している。ヴァルス前首相はこのミーテイングにも顔を見せなかった。

麻薬は、闇取引が現代社会で犯罪の大きな原因にもなっており、パリ郊外のゲットー化した移民団地ではデーラーを支配するボスにより若い世代が泥沼から抜け出せない状況にあるので、麻薬を「自由化」し、高額取引対象の商品そのものを無価値化することで 麻薬取引から発生する社会悪を根絶しようというもの。

 

ブノワ・アモンが掲げている公約の目玉に「サレール・ユニヴェルセル(一般給与)」がある。25歳未満の青年男女すべてに500€の 最低給与を付与するというもので、アイデアは良いとして、その財源をどこに求めるのか? という今度のブノワの演説を聴いた人の大半が期待したことへの回答は与えられなかった。

 

今夜は、今回の大統領選初のテレビ討論会がある。

各候補が主張を戦わせるので、見逃せない。

 

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