複数の頭を持つ竜と複数の尾を持つ竜
トルコのスルタンが派遣した大使は
歴史家によれば、ある日、ドイツ皇帝の前で
皇帝の力よりもスルタンの力のほうが
優れていると言ったという。
ドイツ人はこう言った。
われわれの君主には家臣が居る
彼ら自らが非常な力を持っている。
彼らの各々が傭兵を雇うことができる。
トルコの大使は気の利く男で
こう言った。私は存じておりますよ。
それぞれの選挙人が提供できることを。
それは一風変わった冒険とも言えます。
でも本当なのですよ。
私はその現場に居合わせましたからね。
百の頭を持つヒドラが
垣根をくぐり抜けるのを見たのです。
血が凍る思いでしたよ。
傷つきはしなかったがひどく怖かった。
怪物の胴体は決して私に向かっては
来ませんでしたが、逃げ道がなかった。
この時のことを思い出すたびに想像します。
ひとつしか頭を持たないドラゴンが
たくさんの尾を持って現れ通ってゆくのを。
私は驚きと衝撃に再び捉えられる。
頭は通り、胴とそれぞれの尻尾も通ります。
なにひとつ通過を妨げるものはありません。
ひとつの尾が通ると他の尾に道を開きます。
私は、あなたの皇帝とわれわれのスルタンが
このようにあらんことを願います。
LE DRAGON À PLUSIEURS TÊTES
ET LE DRAGON À PLUSIEURS QUEUES
Un Envoyé du Grand Seigneur(1)
Préférait, dit l'Histoire, un jour chez l'Empereur(2)
Les forces de son maître à celles de l'Empire.
Un Allemand se mit à dire :
Notre prince a des dépendants
Qui, de leur chef sont si puissants
Que chacun d'eux pourrait soudoyer une armée.
Le Chiaoux(3), homme de sens,
Lui dit : Je sais par renommée
Ce que chaque Électeur(4) peut de monde fournir ;
Et cela me fait souvenir
D'une aventure étrange, et qui pourtant est vraie.
J'étais en un lieu sûr, lorsque je vis passer
Les cent têtes d'une Hydre(5) au travers d'une haie :
Mon sang commence à se glacer ;
Et je crois qu'à moins on s'effraie.
Je n'en eus toutefois que la peur sans le mal.
Jamais le corps de l'animal
Ne put venir vers moi, ni trouver d'ouverture.
Je rêvais à cette aventure,
Quand un autre Dragon, qui n'avait qu'un seul chef (6)
Et bien plus qu'une queue, à passer se présente.
Me voilà saisi derechef (7)
D'étonnement et d'épouvante.
Ce chef (8) passe, et le corps, et chaque queue aussi :
Rien ne les empêcha ; l'un fit chemin à l'autre.
Je soutiens qu'il en est ainsi
De votre Empereur et du nôtre.
<フランス語メモ>
1) le Grand Seigneur オスマントルコのスルタン
2)l'Empereur ドイツ(神聖ローマ帝国)の皇帝
3)le Chaiaoux トルコ政府から派遣された外交官
4) Électeur 選挙人 ドイツ皇帝は選挙で選ばれた
5)une Hydre ヒドラ ギリシャ神話に出てくるヒドラは7つの頭を持つ大蛇に似た怪物で、ひとつの頭を切ってもすぐに頭が生えてくる。ヘラクレスが7つの頭を一度に切り退治した。日本の八股のおろちと
共通するところがありますね。
6)& 8) un seul chef ここの chef は頭
7)derechef 再び、もういちど
8)Epouvante 古典では驚き、衝撃の意味で使われる
この寓話の解釈には
a)複数の国がルイ14世が統治するフランスに対し同盟を結んで敵対する当時の国際情勢を詠んだもの、とする説と
b)オスマントルコによるヨーロッパ進出への脅威を詠んだとする
ふたつの解釈があります。
トルコは21世紀の現在でもヨーロッパにとって容易に答えが得られない問題なんですね。