フィヨンの変革 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

謙虚だ。本気でフランス社会を変えようとしている。その情熱が伝わってくる。正直だ。本当のことを言っている。概ねフランス人はフランソワ・フィヨンをそのように評価した。予備選の予想ではせいぜい4位くらいに位置付けられていたのだが、大方の予想に反し、20日(日曜)の第一回投票で、サルコジ元大統領を斥け、2位のアラン・ジュッペに大差をつけフランソワ・フィヨンがほぼ200万票を獲得して圧勝した。

フィヨンが打ち出した政策は3年間地方を回り、市民の本音を聞いて 調査した結果であり、老若男女、社会の各階層の思いを取り入れたものと言ってよい。 それは、社会の停滞にうんざりし怒りを抱いてる人々の本音を反映した現実主義なのだ。

 

カトリック信仰を隠すことなく、政治に対しても謙虚だがここという所で信念を吐露し、本気でフランス社会を閉塞させているものを 変えようとしている。真の変革者、シャルル・ペギーなどに見られるカトリック信者の深い所からの変革が彼を先導として始まる、と いう気がしてくる。

 

保守と中道の大統領選の候補者を決める予備選挙、第一回投票は先週の日曜に行われ、元首相で4年間、目立った行動をせず忘れられていた かに見えたフランソワ・フィヨンが45%の票を獲得し、一大番狂わせが生じた。この予選には7人の候補者が出て、サルコジ元大統領は 3位となり敗退、政界からの引退を表明した。

 

第一回の投票者数は450万人と非常に高い投票率を示した。面白いのはこの投票は登録さえすればだれでもでき、左翼の人も出来たこと。 実際10%に近い左翼の投票があったということだ。多くはサルコジを落すのが目的だったが。選挙費用の分担として各人2€払うことが 義務付けられた。投票所は千を超える場所に設けられたが第一回投票だけで900万€が集まった。これだけでは少し足りず第二回投票で 選挙経費を賄ったあとの残りを当選者に贈るという。


フィヨンとジュッペの差は16%と大きく開いた。がフィヨンは僅かに過半数に届かず27日の決選投票へともつれこんだ。

 

24日(木)はフィヨンとジュッペの二人の候補が最後のテレビ討論を行った。

 

共に保守の共和党員でありその政策は大きな違いはない。ただ、その進め方、速度、目標値が大きく異なり、そこが論点となった。

 

主な論点は、労働時間、公務員の削減数、女性の権利(堕胎の権利)、対ロシア・シリア関係、初等教育、多民族・複合文化か?フランスの 伝統を重視しアイデンテーを護るべきか? 移民問題、イスラム問題、失業の解消、未成年の非行をどう解決するか? など

 

二人とも首相経験者。ジュッペはシラク大統領の下で2年間、フィヨンはサルコジ大統領の下で4年間。

 

最初、司会者から、政治家の倫理という抽象的な形で質問が発せられた。

アラン・ジュッペはシラク大統領がパリ市長だった時代、ジャック・シラクの選挙資金工作のため、市庁に二桁大の架空の職員を設け、 給与を政治資金にしていた。シラクは大統領に選出され、ジュッペは首相を2年間務めたが、シラクの任期満了後、控訴され有罪となり 架空の職員の給与を政治資金に使った廉でジュッペも有罪となり1年間服役した。その後ジュッペはカナダに数年間暮らした。

 

そのことが、司会者の質問の裏にあるのは明瞭で、ジュッペはすぐさま、私はちゃんと責任を取り、服役して罪を償ったと弁明した。

 

年齢の差がある。ジュッペの71歳に対し、フィヨンは62歳と若い。

この年齢の差が、政策の差に表れていると思う。似たような政策でも、その方法、速度、変革の深さ、ラデイカルさが違う。

 

2015年1月のシャルリー・ヘブド誌襲撃とヴァンセンヌのユダヤ食品店の襲撃、11月のバタクラン劇場と近くの4か所のカフェ襲撃、さらに今年に入って7月14日のニースでの惨劇、 パリ北西郊外の警察官夫婦殺害、ルーアン近くの教会のミサを執り行っていた副司祭の殺害とフランスは立て続けにイスラム過激派(ISをフランスではアラブ人の呼び方を とってダエッシュと呼んでいる)による残虐なテロ攻撃を受けた。

 

ドイツやオーストリアで極右が台頭したのと同様、フランスでもル・ペン党首率いるFN(国民戦線)が地方選挙で圧勝した。 2017年5月に行われる大統領選にFNのマリンヌ・ルペン党首が第2回決選投票に残るのではないか? ことによったら極右の大統領の 誕生を見るかもしれない、という恐れが大統領選が近づくにつれ高まっている。

 

イスラモ・フォブ(イスラム嫌悪)、イスラム排斥などの極右政策ではなくても普通のフランス市民は過激派に恐怖を感じている。

当然、大統領選でこの問題にどう対処するかが主要な政策論点として注目を集める筈だ。

 

フィヨンは地方を回り人々の正直な意見を集め、フランス人のアイデンテ、歴史と文化の尊重を主張した。外国からフランスへ 来る人は、この国の伝統と文化を尊重し、習慣と法律を習得し身につけるべきだ、と。

 

一方のジュッペは、相変わらずの国のかたち、すなわち多様な文化と多様な人種によって成る多民族国家というフランスの姿をそのまま 持続する主張をした。

 

ジュッペはここで間違いを犯したのだ。フランスの大多数の市民は、そういったヒューマニズム、過去の平和な時代の理想が現実によって 踏みにじられ、なんの咎もない、これから人生を花咲かせようとしていた沢山の若い人々が無惨な殺され方をした、このままで良いわけがない、と 心の底で思っている。

 

フィヨンは、その深層心理を敏感に汲み取り、極右の支持を受けていると批判されるリスクを冒しても、フランスの伝統と固有の文化を 守り、外国からこの国に住みたくて入国する人々は、それを学び習得し身につけなければならない、それが礼儀というものだろうと主張した。

 

これは常々サルコジが主張していたことで、フィヨンはサルコジ支持の票を丸ごと受け継ぐ戦略として同じ表現を用いたとみられる。 サルコジ元大統領は予備選で3位となり敗退した後、決戦投票ではフィヨンに投票すると表明した。

 

フィヨンの話しぶりには確信が感じられジュッペのそれは薄っぺらな、これまで言いつのられてきた人道主義を時代の流れを反映させることなく お題目のように口先だけで繰り返すように聞こえた。

 

フィヨンの考えは血肉化されたうえで口から出たものであるのに対して、ジュッペのそれは、やはりエリート学校を出た秀才が頭の中の 考えをそのまま口先で発音してる、明らかな違いが感じられた。

 

労働時間、週35時間制と雇用に関する法律が、雇用をしたくてもできない企業を多く作り出し、フランスの経済の足枷となっている。

 

フランス経済は破綻寸前の状態であり、立て直すにはみんながもっと働かねばならない。労働時間に関しては企業と被雇用者がネゴをして 企業ごとに決められるというフレキシブルな形態にすべきだ、というのがフィヨンの主張であり、これは社会党政府で経済大臣を1年間だけ 務めて辞めた末、来年の大統領選に出馬を表明した左派の若手でスター的人気を博しているエマニュエル・マクロンとも共通するリベラルな考えだ。

 

現実に、フランスのロレーヌ地方の自動車工場では、従業員が会社とネゴし、週37時間労働するが、給料は35時間分で良いと決めた。企業が倒産し工場閉鎖となるよりは労働時間を延長した方が良いと労働者が考えて決めたのだ。

 

24日(木曜)のテレビ討論で司会役のピュジャダがフランスの「社会モデル」を壊すのか? とフィヨンに質問を向けると、すかさず 「社会モデル」があるのか? と切り返した。失業者が350万人を越え、社会保障費は赤字を抱え、企業は競争力を失い、経済力は 低下し続けるばかり、そうした現状を生み出してるのは、イデオロギーや理念にこだわり現実的政策を打ち出せない、政治と社会モデルに 捉われた政治家の責任ではないのか?

 

そういったフランスを深い所から変えねばならない、とフィヨンは訴える。

 

社会保障、特に医療制度と健康保険を強制から任意保険へと軽い病気の治療に関しては移行すべきだというフィヨンの主張はかなり リスクを伴い、明日27日(日曜)の投票にどう影響するか見ものだし、フィヨンが保守・中道の大統領選候補に選ばれたとしても、 2017年5月の左翼との対決で、社会進歩に反する、労働者の利益を損なうものだと批判されるだろう。

 

フィヨンはまた裕福層の所得税、企業への課税を軽減すべきとしている。それは外国からの投資がフランスの課税と社会報償費の企業負担が 高い事、解雇など雇用に関する規制が複雑で経費が嵩むことを理由に年々減ってきており、カタールなど中東産油国の金持ちとか中国などに 限られてきていて、経済の活性化を図る上で大きな足枷となっているので、変えねばならないとの理由からだ。

 

ここもまた重要な争点となるだろう。

 

公務員の削減をフィヨンは50万人としているのに対し、ジュッペは25万とし、50万人削減は不可能であり非現実的だと批判した。500万人居るフランスの 公務員はこの一点だけでもフィヨンには票を投じないだろう。

 

社会保障や労働に関する法律が大統領選で左翼との大きな争点となるだろうが、閉塞状態のフランス社会を変えねばならないことは誰もが 感じていると思う。

 

明日の投票結果と、来年5月の大統領選を注意深く見守りたい。

 

世論調査による予想では、明日は450~500万人が投票し、フィヨンは61%、ジュッペは39%の票を獲得するだろうという。