このデザイン、一目見た時、あれそっくりだなと思ったのは自転車ロードレースのヘルメット。この写真見てください。流線型の網目構造で、これをでっかくしたんじゃないか、と思ってしまう。
いかに前衛的建築に実績を誇る安藤忠雄氏が、斬新でモダンなと褒めても、やっぱ自転車競技のヘルメットだよな、と見えてしまうのだからしかたがない。
8万人収容で楕円形のトラックと観客席を覆う屋根を被せるとしたら、だれが設計してもシェル構造、つまり牡蠣の殻の構造になってしまう。
元首相の森委員長が「生牡蠣みたいで嫌だった」と感想を漏らしたというが、曲面構造が世界的に流行りの今日、フィールドと観客席を屋根で覆うとすれば、貝の殻の構造しかないのだ。太い二本のアーチの代わりに細い網目状の蜂の巣構造で壁と屋根を一体化して支えるしかない。
長軸に2本のスチールアーチを渡し、これが屋根の全重量を支えるというのがザハ氏のデザインの特徴だったが、斬新さが経費を押し上げる原因となってしまった。ザハ建築事務所は普通の材料、普通の工法で、造れるからデザインが経費高騰の原因ではないと主張しているが。デザイン時が1300億で施工業者の見積もりが3000億を超えたのだったら、そりゃゼネコンが赤字を出したくなくて利益が出るように工事見積もりをしたのが原因で経費が倍以上になったと考えるほかない。アーチ型のスチール鋼材の製作に製鉄会社や製鋼所が、現場までの輸送経費なども見積もって高くなったのかも知れない。
もともと意匠と施工は理念と実践の格差という永遠の問題を含んでるから、どんなに斬新で人心を魅了するデザインであっても、いざ実際に工事し現物を作るとなると、構造物の耐久性、安全性はじめ使い勝手の良しあし、さらに工事にまつわる一切の費用の問題がつきまとう。
当初の予算の倍以上の建設費が掛かると判り問題が浮上したのは、デザインが決まってからかなり時間が経過してからなので、なにを今更、と思ったのだが、建設費の高騰なんだったら問題は、施工業者、いわゆるゼネコンに巧くやられてるな、と直感した。これだけの巨大建築物、しかも二本のアーチ構造を作れるゼネコンは日本にも、清水とか鹿島とか竹中とか数えるほどしかないだろう。パリに住んでる知り合いの兄さんがプレゼンをやって受注したと喜び、自慢の電話をしてきたので、そうか竹中か、と思い、とっさに、ああ、あれね、見直しだよと脅したのが現実になってしまった。
見栄えばかり良くても使い勝手が悪かったり、今までの諸外国のメインスタジアム建設費と比べ4倍以上掛かる無駄遣いなど、悔いを千載に遺すようではいけない。オリンピック、パラリンピックで使った後も数十年間、国民のスポーツ施設として使われるわけだから、外国の眼を気にして見栄を張るよりも、アスリートの今後の利用を第一に考えねばならない。その意味で阿部さんの、決定は歓迎すべきと思う。今後はデザインの段階から施工経費の見積もりを並行して進め、質実かつ斬新、経費もおどろくほど安いと国民から喜ばれる競技場を作って欲しい。2020年春までにあと4年半もあるのだから、日本の技術なら充分間に合うと思う。ゼネコンは日本が国を挙げて取り組む祭典に際し、儲けてやれなど下司な根性を抱かず、技術力、組織力、コーデイネーションの好さを存分に発揮して、国民からも外国のアスリートと観戦客からも感謝される競技場を作って欲しい。
