しおたれた庭木に水をやっているとカサコソと音がして白と灰色のトラジニが動くのが見えた。また鳥を捕まえたなと灌木の陰に眼をこらすと茶色い小動物を口に咥えている。
「リスだ!」叫び声が口を突いて出る。
3日ほど前、県道を帰って来ると、ウチの門からリスが飛び出して道路を横切り、向かいの公園のマロニエの木に登るのが見えた。
「おや、リスだ。珍しいな。リスが庭にくるなんて]
引っ越してきたばかりの頃、庭の木にリスがちょろちょろしているのを見ることがあったが、ここ数年まったく見ることがなかった。
「それにしてもリスの走る姿はかわいいもんだ」
マロニエの木の穴に棲んでるのだろうなと楽しくなったばかりだった。
トラジニに小石を投げ、竹の棒で脅すが、咥えたリスを離さずあちこち逃げ回る。物置の方へ逃げて姿が見えなくなった。カミサンも応援に駆け付け、叫び声を挙げたが、どこへ隠れたか? まさかリスを齧ったりしちゃいないだろうな。いちど捉えた小鳥を齧ったことがあるから残酷シーンを想像し気がかりになった。が、ようやく姿を現したトラジニの口にはリスの姿はなかった。咥え疲れていったん置いたのだろう。放置したリスをこんどはチュウジ(忠治)が掠め取った。黒い忠治の口に茶色のリスが咥えられている。
小石を投げ、竹の棒で脅かしてリスを口から離してやろうとする。トラジニはリスの頭を丸ごとがっぷり咥えていたので、もしやまだ生きていれば助かる見込みがあるかもしれないと追いかけたのだったが、忠治が咥えた様を観るとリスの身体はぐったり垂れ下がり、もはや生きてる力は失われたように見えた。
忠治は塀とうつぎの根元の間に隠れ、騒ぎを聞きつけ駆けつけた妹猫のミネットと不器用な兄猫のデイノが近寄ると唸り声をあげる。
竹の棒で突いてようやく忠治はリスを置き逃げ去った。うつぎの根元に手を伸ばしてリスの遺体を引き寄せる。手で摑むと異様なほどに温かい。しかし頭を咥えて走り回られたので首の骨が折れたらしく、呼吸は絶え、生きた証はどこにもない。
「かわいそうに。死んじゃった」
「ハシバミの実をとりに来たのをやられたのね」
ハシバミは写真のような実でヘーゼルナッツのこと。リスの大好物。
リスはそうとうに素早い動物なはずだが、狩りの名人トラジニに隙をつかれたのだろう。この殺し屋はいままでに、キジバトを二羽、ツグミの幼鳥と親鳥を四羽、野鼠や蛙など数限りなく捕まえて殺している。家の脇の杉の大木にやすやすと7~8メートルの高さまで登る。枝から枝へ飛び移りながら反転するさまなどムササビのようだ。
カサコソと音がした地点から推すと、まだ小さなリンゴの実を食べようとして木に登ったところを掴まったか、地上に落ちたハシバミの実を拾おうと停まった所を飛びかかられたかしたのだろう。
猫が残虐なのは、命を繋ぐため、食べるために捕まえるのではなく、単に狩猟本能を満たすため、いわば遊びのために殺すからだ。エサは人間様からもらって不自由しない。どころか選り好みをし、気にいらないとせっかく準備しても顔をそむけてしまう。大昔から人間の傍近くにいて餌をもらい、欲しい時に人間に媚び、気晴らしに小動物を殺し、気に入らないと振り向きもしないという我儘な習性を身につけたのだろう。どうやら人間に似てる気がする。
晩飯抜きの懲罰をカミサンは宣言したけど、結局夜家に入って寝たのは殺し屋のトラジニだけ。こいつがいちばん規則正しくて、昼寝は欠かさず、夜は定刻に入って家で寝る。他のネコは夜の野鼠や蛙の狩りが楽しみで、夏のあいだは朝帰り。
粘土質の土は乾燥してカチカチだ。鋤もシャベルも歯が立たない。バケツ一杯の水で土を湿らせるとようやく柔らかくなる。こうして、また新たな墓を庭の隅に掘った。これで猫が四つ。鳥と野鼠の墓が五つ。庭の隅々に墓ができて新たな場所を見つけるのに苦労するほどだ。










