この国民投票直前のギリシャをめぐる状況については、「momo」さんがユーモアを交えて詳しく書かれているのでご参照をお薦めします。
→http://ameblo.jp/momocat1010/entry-12047079350.html
同じ日、女子サッカーW杯決勝がバンクーヴァーで行われ、なでしこジャパンがキックオフから5分と経たぬうちアメリカに4点を許し、勝敗が決したも同然になるという信じられない事態を迎えた。
ギリシャの国民投票の結果は61%強で、債権者グループの提案にOXI(NO)を示したのだった。国民投票を前にツイプラス首相はOXIに投票するよう呼びかけた。債権者グループの構成は、IMF、ECB(ヨーロッパ中央銀行)、それに欧州委員会のいわゆるトロイカ。
それから、わずか数日後、ツイプラス首相はギリシャ国会にEUの支援を求めるための対案、ギリシャ自らの改革案(増税、軍事費の削減、離島の優遇措置の廃止、私起業化など)を国会に提出した。その内容は6月26日にEUのトロイカが提案し、ツイプラス首相が受け入れられないと拒否した改革案とほぼ同じか、もしくはもっと厳しいものだった。
おや? とだれもが首をひねった。どういうつもりなんだろ? 国民投票によって首相は自らの選択(EU提案の拒絶)を国民の総意にもとずいたものだったと証明した。国民の過半数は、切り詰めた緊縮財政はもううんざりだ。緊縮財政は失業を解決しないし経済を悪化させるばかりだ、と反対を示した。そこまではいい。だれだって爪に火をともすような倹約生活より、借金してでも潤いのある生活をしたいと思う。ところが国民投票から3日と経たないうち、首相は敵前大旋廻、国民投票の結果の180度逆の、拒否した緊縮策よりさらに厳しい緊縮策を提案したのだ。
裏切りだ、という声がもちろんあがった。だが、ギリシャ国民のEUのユーロ圏に残りたいとの意思も明らかになった。ユーロ圏を離脱すると後がどうなるか? お先真っ暗、どうなるかわからない。経験したことのない混乱に陥るという恐怖が、ギリシャ国民をユーロに残りたいなら緊縮財政を受け入れようとの現実主義に戻らせた。現実と向き合おう。他に選択肢はない。
26日までEUと交渉にあたったギリシャの財務相が辞任した。Tシャツにヘルメットを被りバイクで移動する姿は、ダークスーツにネクタイというEUの北の国々のテクノクラートと違ったイメージを与えた。マルクス主義経済学者で大学教授の彼は、EUのテクノクラートとの交渉にいつも嫌な思いをさせられたと語った。代わって財務相となりツィプラス首相と交渉に臨む役を担うのは、英国の大学でケインズ経済学を修めたサカロトス氏。
ギリシャ国会前に詰めかけた民衆のテレビ・インタビューで、ある夫人は「ヨーロッパはギリシャを必要としてるのよ。だってそもそもヨーロッパって言葉自体ギリシャのもんだからね。民主主義、科学と哲学だってギリシャから出てるんだし、ミロのヴィーナスやパルテノン神殿はヨーロッパの象徴とどこの国の人も感じてるわよ」と答えていた。
ギリシャ国会では、まずサカロトス新財務相が演説をし、経済を活性化させ黒字に転換するには外国からの投資を呼び込む必要がある。債務返還のために債務を膨らませ続ける悪循環から抜け出さねばならない。国営化された企業を私企業化する。ケインズの言葉を引き、「精神状態を変え困難と対決する勇気を持とう」と呼びかけた。
ついで論壇に立ったツイプラス首相は、
「6月26日のEUの提案に対し、国民投票はOXI(NO)を投じた。この国民投票により、EU側がはじめて、負債返還の期限延長(restructuration )を考え始めるという大きな変化を産んだ。
私は公約は守る。裏切ってはいない。裏切りをしてるのでは決してなく真実を語っているのだ。公約とは程遠いが、最善の策だ。ネゴを続ける委任状を私に与えて欲しい。750億ユーロの新たな援助金をEUに求める。私企業化など、厳しい緊縮策をこれから進めねばならないが、6月26日のEU側の提案を『止むを得ず呑んだ』形にするよりは、国民の過半数が反対してるので受容できないと一旦拒否し、自らの対案を作り、EU側と対等の立場に立って交渉し援助を取りつけたい。
国民投票によって私は信頼を得た。私は真実を語っているのであり、他に方法はない。EUへの提案は最善の策だ。厳しく困難だが、ギリシャ国民の尊厳(dignity )のために困難と闘おう」と結んだ。
投票の結果300議席の内258が賛成と圧倒的多数で可決した。
表面的にはツイプラス首相は国民投票を自らの信任投票に使ったと見ることが出来る。某フランスの評論家はドゴール大統領が国民投票を裏切りアルジェリアを独立させた過去の例を引いて、ツイプラス首相の政治手腕を偉大な政治家のものと評価した。ここまでは、どうにか物事は楽観的に進んでるように見えた。
さて、それからが大変だった。ギリシャ国会の討議も6時間以上かけ夜を徹し採決は明け方近くだった。このギリシャの再建案をまずユーロ圏の財務相会議、さらにユーロ圏の首脳会議に掛け原則満場一致で可決しなければならない。昨日12日の朝から休憩と食事を挟み、結局17時間かけ徹夜で討論を続け、明け方ようやく合意に達した。
どうやらグレクシット(Grexit)=ギリシャのユーロ圏離脱は免れることになった。
合意にいたるまでこうも時間が掛かったのは、ギリシャ国民とツイプラス首相に対するドイツをはじめとする北(オランダ、フィンランド、スロヴァキアなど)の国々の不信が最大の原因だった。
今までのギリシャの政権は数値を細工し虚偽の報告をしてきたので、こんどのツイプラス首相も、言葉だけで実行能力に欠けるのではないか? 加えて7月5日の国民投票は不信を増幅することになった。ドイツ国民の80%は、ギリシャへのさらなる資金援助に反対してるので、メルケル首相は議会で支援策を説得しなければならない。ユーロ加盟国19か国がそれぞれ支援策を可決しなければ実行はできないのだ。
夜を徹しての議論に、ずっとつき合ってられず朝の2時には寝てしまったが、結局、7月15日にさっそく年金制度などの改革案をギリシャ国会で法制化することと、支援金のうち500億ユーロ(約7兆円)をルクセンブルグの基金にプールしギリシャの国有資産をEUが管理出来るようにする。ギリシャの統計局を第三者機関とし政府が誤魔化しできないように監視する。ただ、ギリシャの銀行が閉鎖され現金の流通がとまって国民生活が息絶え絶えなので「つなぎ融資」だけは行い、最悪の事態を避ける、という点で合意したと報じられた。
ギリシャの自案をめぐって、このたびも明らかになったのは、ヨーロッパの北と南のカルチャーの違い。
ドイツ、オランダ、フィンランド、スロヴァキアなど北の国はプロテスタント(新教徒)の国々で、大切なのは規則(約束)を守ること。これに対して、南のフランス、イタリア、スペインはカトリックの国で、規則は手段にすぎず、大切なのは共同体意識だ、といった考え方の違いが明瞭に出た。
南の国の中には、ドイツだって第二次大戦後の巨額の負債を帳消しにしてもらい東西統合の時だって援助してもらって現在の経済大国になれたんだ、大きな顔ができるか、といった議論をする人もいた。フランスは自らも赤字がGDPの4%を超えるなど南の仲間入りをしたので、北の代表のメルケル首相と南の代表のギリシャの仲介役を買って出たのがオランド大統領だった。
ヨーロッパ共同体(EUROP Union) とユーロ圏は、同じではない。最終的には政治的共同体を作るとして統一通貨の導入を図ったのだが、現状は政治面ではEU憲法はフランスもポルトガルも国民投票で否定され、統一通貨のユーロにはイギリスはじめ数か国が加入していない。ギリシャのユーロ離脱を巡る今回の議論にも、ギリシャの地政学的状況が裏に大きな役割を果たしていた。地中海の真ん中に突き出た国で、ロシア、トルコと隣接し、中東に近い。アフリカやシリアはじめ中東からの難民をギリシャはすでに8万人も受け入れている。
ギリシャを追い出してロシア、場合によっては中国、や中東のアラブの国々と接近させてはEUそのものの弱体化、後退を示すことになる、とオランド大統領は会議開始前のインタヴューで、ドイツの5年だけギリシャをユーロから離脱させるとの考えに反対を表明した。