「そうなんだ。チビクロが死んだんだ」
「死んだ? あの子が! …… あんなに元気で、たくさん食べて、愛情深い子が死ぬなんて……信じらんない」
「だろ。ぐったりして、脱水症とは思ったけど、死ぬなんて……」
「ボクが、出たり入ったり、知らせてやったのに、大工仕事だかに夢中になって、兄ちゃんのこと、考えもしなかったんだ。もっと早く手当てしてくれてれば助かったのに」
「ほんとにな……。はやく気がつかなかったのが死なせた原因かと思うと辛くって」
「兄ちゃんとここへ来てからちょうど1年だよ。ここが居心地よくて住みついちゃったけど、お袋は、ボクらを連れてくると、元の家に帰っちゃって、ボクらがついてゆくと、クシューって、白鳥やマムシが息を吐いて威嚇するみたいに牙むくから、帰っちゃいけないのかと思って……。兄ちゃんがいなくなって寂しいよ。いちどは噛みつかれたけどさ。ふざけっこしていつも遊んでくれる兄ちゃんだった」
「兄ちゃんはいまどこにいるんだろう?」
「冷凍庫に入れられてカチカチになってる。もうじき火葬にしてもらうんだ」
「ふうん。死ぬって、息もしなければ、動きもしなくなっちゃうんだね。隣の庭で兄ちゃんがうずくまってたから、追っかけっこしようって仕掛けたけどさ、あんときもう動けなくなってた。ボクはニヤーって声立てて鳴くけど、兄ちゃんは、ア、ア、アって鳴き声がきれぎれに擦れるだろ。喉が弱かったのかな……コリザってこわい病気なんだね。兄ちゃんは、燃やして灰にされちゃうの?」
「そうだよ。土に埋めるとバクテリアやウジ虫に食べられて気持ち悪いだろ」
「兄ちゃんはミクロクロと仲がよかった。ミクロは子供産んだよ。6匹もいる。兄ちゃんの子らしいクロ猫もいるね。おとつい部屋に上って見てきたんだ」
「真っ黒い仔猫が3匹いるだろ。毛足が長くてチビクロそっくりの子がいるよ」
「あたしんちはネコだらけでさ、そいでここに息子ふたりを連れてきたんだけど。あたしはウチになじんでるから、ここには昼寝と余りモンを食べにくるだけだけど。6匹も生まれたってなら、ここもにぎやかになるわね。……あたしが生まれたばかりのころ、やっぱりチビクロって呼ばれてたアンゴラ系の黒ネコがいたけど、ある日突然いなくなった。やっぱりコリザがもとで急病にかかって死んじゃったらしいわ。チビクロって名前、縁起悪いんじゃない? こんど生まれた仔には、チビクロはやめたほうがいいわよ。もっといい名前つけたげてちょうだいな」


