1999年に完成予定だった北フランスの工場の建屋の建設工事は2か月遅れ、これ以上待ってはいられないと会社は、まだ内部の電気工事などが終わっておらず、雨漏りがする建屋に設備の搬入を始め、オペレーターの教育訓練も、それまで借りていた外部の研修施設から、工場へ移ったのでした。
それまで2か月間、毎日、トレーナーさんの車に乗せてもらいヴァランシエンヌの町からドウエの町へ通っていためのおも、ようやく工場へ通えるようになったのです。めのおが配属されたのは組立ショップで、自動車工場の中でも一番人数が多い部門でした。外部の教育施設を借りての教育訓練は、学校のような楽しい雰囲気の中で行われました。毎朝、校長役のN さんが全員を集めて、訓示をします。その後、グループに分かれてトレーナーさんと一緒に具体的な作業の訓練に入るのでした。通訳として採用されためのおも、工作が好きだったので、時には、作業もやらせてもらったりして、年齢的には親子ほど開きのあるフランスの若者と、すっかり親しくなっておりました。
工場へ移ってからも、Nさんの朝礼は続き、組立ては工場に入って最初のショップなので、ボデーとか塗装とか他のショップへ行く人たちの通路に当たっていたため、朝礼の様子はとても目立ったのでした。
組立ショップは面積も一番広く、まだ何もないコンクリートの床だけが広がるだだっ広いスケートリンクのようでした。電気工事なども終わっていないため、そこにはチェリーピッカーなどの建機が動き回わり、ラインのある個所には床を掘らねばならない為、工事担当者や機械が出入りしていました。
さて、いよいよ組立ショップでの、日本的生産方式とカイゼンの基本を体験する作業が始まります。
組立のオペレーターが最初に全員で一緒にやったのは、ライン脇に置く部品棚を、パイプを自分たちでカットして組み立てる作業でした。このパイプは「Y○○のパイプ」とNさんは呼んでいましたが、固い合成樹脂の長さ5メートル、径2.5cm ほどの真っ直ぐなパイプでした。
手作りの部品棚を使うことがなぜ大事か?
オペレーターの全員に、まずこのことを認識してもらおうというのがNさんの狙いでした。
必要な部品が必要な数だけ必要な時に、最短距離のところにある。すっと手を伸ばせば部品にいつでも触れることが出来る。そういう部品供給の理想に限りなく近い形態を自分の持ち場であるラインの脇に手作りで作って、状況に応じていつでも作り変えられるよう、とてもシンプルな同じ径のパイプですべてを作る。
棚の部品を乗せる棚板にあたる部分はたいてい傾斜がついています。中には転がりを良くするローラーを仕組んだのもあります。小物部品は様々な大きさ深さのプラスチック製のバック(箱)に入れられ、ロジステイック担当者が電動牽引車で台車を引っ張り、棚に部品の詰まった箱を置き、空箱を回収します。
部品の入った箱は手で押さなくてもライン側に滑って落ち、空箱は人手を掛けずにロジステイックが回収しやすい位置に重力で落ちてくる。空箱をオペレーターがほんの少し位置を変えてやるだけで、あとは重力が作業をしてくれる。これが、日本式ロジステイックが考え出した方式です。パイプ棚はその原理を応用して様々な形に設計し組み立てることが出来る。
この原理は、マクドナルドへ行ってレジで注文し、パックに入ったバーガーが、調理場とオーダーを扱うレジとの間の棚で、どのように間違いなく速やかに裁かれているかを観察されると、分かると思います。棚は金属製ですが緩い傾斜がつき、レジ担当者が一番手前のパックをとると次の品が滑り落ちてきます。実は、こんな小さなスペースにも「カンバン方式」が活用されていることが分かります。
組立ラインは大きく3つに別れていました。棚はそれぞれ置かれる場所によってサイズも形も少しずつ違っています。
最初にパイプを棚の種類に応じて、必要な長さに切るのです。電気の配線工事が終わってないため、電動カッターが使えず小さなカッターを回しながら、パイプを手で握って切らねばなりませんでした。
(つづく)