グリーン・ミッション
その砦の内側にはどす黒い顔をした鬼たちが棲んでいて、砦をいつもわがもの顔に支配していた。砦の入り口は、鬼たちが厳重に取り仕切っていて、人間たちの出入りを制限していた。
村一の美人でおれの恋人だった園野さゆりが理屈小僧にかどわかされ、鬼たちの仲間に引き入れられ、牙城に連れ込まれたのは、あれが始まって間もないころだった。
おれは愛するさゆりを鬼たちの手から救い出すために砦に乗り込む決心をした。
おれは乗り込むのに、愛してやまない天才音楽家のオペラにあやかってフルートを携えて行った。
いかな残虐さに満ちた鬼のようなやつらでも美しい調べが心を和ませ俺のさゆりへの愛を理解させることができるだろうと考えてのことだったが、この考えが甘かったとすぐに思い知らされた。
フルートは砦の入り口で取り上げられ、おれは目隠しをされて、ある部屋の中へ連れこまれた。おれをスパイではないかと疑う鬼たちは何やかや俺に質問を浴びせかけ、議論を吹っ掛けてきた。俺を敵と見做したのか鬼たちは次第に詰め寄って来、だれかが俺の胸を激しくこづいた。三度こづかれて俺は、はっと身の危険を感じ、思わず「緑の使者=グリーン・ミッションの畑だ。地球保護のために戦うぞ!」と叫んでいた。
鬼たちはなおもグリーン・ミッションとは何かをめぐってさんざんに議論を仕掛けてきた。彼らの議論は俺のように理屈嫌い、口下手で、直観派にとってはまったく閉口するばかりだった。議論好きということと、そして彼らの詰問に受け答えしているうちにわかったことだが、彼らは決して俺が呼ぶ鬼という言葉から連想されるような粗野で凶暴な動物たちではなかった。それどころか逆に彼らは絶対の真実を追求し、永遠の平和や地球の存続を願う誠に純粋なものたちだ、ということが判った。これは誓ってもいいと思う。
「これ、書いてるのか?」
歌い終わった畑に渉はノートを指しながら訊いた。
畑は頷くと「書きはじめたとこさ。出来上がったら見せる」と言い、また歌を続けた。
畑の歌を聴きながら、渉は今読んだ話に出てくる「村一の美人でおれの恋人だった園野さゆり」は、もしかして同じクラスの小山麗子で、「理屈小僧」は田辺のことかもしれないとふと思った。
(つづく)

