組立ショップ | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

まず1世紀前のフォードがT型の生産を開始し、モータリゼーションの幕開けをした当時の映像をご覧ください↓



ご覧のとおり、キビシイ労働条件で、それもかなりのスピードで次々と同じ物を作ってますね。

シャルロの愛称で親しまれたチャールス・チャップリンがモダンタイムスで、ベルトコンベアに立ち、同じ動作を繰り返し続け、工場を出て、家に帰っても動作が停まらなくなってしまう。この映画を見ると、どうしても笑ってしまう。と同時にペーソスというか現代がこういう生産方式で成り立っていることの悲しさを感じてしまいます↓




さてタクトタイムについて書くのが、この自動車工場見学記事の主目的でした。
たとえば、全国に張り巡らせた代理店から来年度の新車売上予想なり目標台数が本社の営業部に寄せられ、集計すると20万台だったとします。
この数は新車の買い替え時期だったり、普段から電話サービスで点検やメンテを通じてお客さんがニューモデルを買いたいと意志表示をして売れるのが確実と絞り込んだ数とします。顧客の要望に応えるのはメーカーの義務でもありますから、営業は工場に対して来年のあるモデルの生産台数を20万台と要望します。これだけは造れば確実に売れる。時の経済状況を考慮して来年はもっと売れそうだと判断すれば、プラス10%とか20%を上乗せしてもよいですが(笑)。
解り易いように、ここでは工場が来年1年間の生産台数を20万台と決定したとします。20万台を生産するにはどうすればよいか。単純に月当たりの台数でも良いですが、実働日数で割るのがいいでしょう。

フランスの自動車工場はほぼ全部が8月1ヶ月間は丸まる工場を閉鎖してしまいます。8月を休むのは1930年代に始まるフランスの労組、自動車産業は金属労連の加盟だから、その頃からの伝統なんです。
フランスの労働法では雇用者は被雇用者に対し夏の間、連続して2週間の有給休暇を与えねばならないと定められています。第三次産業ならばローテーションで交代にバカンスを取ればいいけど、工場みたく従業員が多い場合労務管理が大変なので8月は一斉に休んだ方がいい。その間、普段やれないメンテもできますしね。

8月の4週間を除き年48週。週5日制で240日。祭日と病気その他の有給休暇の権利を20日とすると年の実働日数は220日となります。
20万台を220日で造るには、単純に日割りで909台/日
工場がフル稼働で3直24時間体制で生産しているとします。1直当たり303台。
1直は7時間が拘束時間で、その間に着換えや食事、休憩時間があるから実働は6時間。時間当たり50.5台を生産すればよいことになります。

2直とする場合、454.5台/直。1時間で75.75台生産することになりますね。

これがタクトタイム、またはサイクルタイムの基本データです。
1時間に50.5台造るには 0.84台/分  逆に1台当たりに要する時間は 1.19分=71.2秒となります。
1時間に75.5台造るには 1.2625台/分  1台当たり47.68秒 です。

ウエルデイングや塗装の電着プールのキャパシテイーを考えて1台を47.68秒で流すのはムリ、また組立もこんなスピードで流して1台を組み立てるにはラインを細切れにしてオペレーターの数を増やさねばならないから、コストが上昇する。やはりリーゾナブルな3直体制で台当たり1.19分で流すと決まります。

これがタクトタイム、もしくはサイクルタイムと呼ばれる時間です。
タクトタイムはオーケストラの指揮者がタクト棒を振る早さに由来するものだろうと思います。
指揮者によっては同じベートーベンの運命でもカラヤンとブルーノワルターではスピードが全然違いますよね。

サイクルタイムとはオペレーターから見れば分業で自分が担当する部署にある車が入って来て、割り振られた作業を終え、その車が出て行くまでの時間を指して言う呼び名で、それを繰り返すのでサイクルと呼ぶ。だいたい1分前後が無理が無く、ゆっくり過ぎもしないスピードらしい。

重要なのは1直に303台造るとなればオペレーターは、サイクルを303回繰り返すということ。分業作業とは繰り返し作業と言い換えることが出来ます。

「国富論」で有名なアダムスミスは、この著の冒頭で、産業の発展は、分業に負っていると書いている。分業により専門家が出来、素人がやれば3時間かかる所を、繰り返し同じ作業をやって熟練した専門家がやればその10分の1以下で出来る。一人が色んな作業をやると、ある作業から次の作業に移る時に無駄な時間が掛かる。作業を分業し、それぞれの作業を担当者が熟練することにより単純な製品でも非常に早く沢山の量を製造することが出来る、と釘造りの例を引いて主張してます。

マルクスの「労働の疎外」論が出てから、分業による流れ作業大量生産システムが非人間的な労働形態の典型として批判され始めました。フランスのインテリにはこの意見を持つ人が多いです。チャップリンのモダンタイムスはフォードの生産システムを揶揄批判したもので、とても笑えるしペーソスに溢れる画面だけど、世の中には繰り返し作業を好む人も居るってことも否めないです。最近では1直の間ずっと同じ部署で同じ作業を300回も繰り返すのは、さすが心理的にキツイので2時間ごととか大きな休憩時間ごとに他部署と交代するシステムが採られています。

You Tube の動画で見て、いちばん良かったベンツのBクラスのエンジンと組立ショップの動画をご覧いただくと良く解りますが、ヨーロッパのメーカーはエンジンとサスペンションを一体化して自動ロボットで一気にボデーに組み付ける方式が多いです↓



塗装ショップで完成したボデーに約200~300のパーツが組み付けられて自動車になります。組立ラインで作業にあたるオペレーターは一人当たり3~5個の部品を組みつけます。
勿論、エンジンとかインパネとかウインドウ・グラスとかの大物は一人がひとつ付けてお終いとか、ひとつのパーツを二人で付ける場合もあります。

組立ラインはこれだけの数の部品を、どのような順番で、オペレーターひとりにどのような組み合わせで部品を担当させるか、ラインの順番と分割が最大の課題となります。

どのメーカーでも似たようなものと思いますが、筆者が務めた工場では、組立ショップを大きく3つのラインに分け、最初のラインは、ドアを外してからハーネス(電線やケーブル類)、インパネなど、2番目のラインで、フロントとリアのサスペンションなどの足回り、パワーステアリング、そしてエンジン搭載、最後のラインで、ウインドウ、バンパー、ヘッドランプ、シートを載せドアを再び取付ける、最後にハンドルというのがおおまかな順番でした。

自動化の長所は人手が少なくて済むことですが、欠点は一度不具合でストップするとライン全体が停まってしまうところににあります。日本は人の知能と器用さを尊重し、トヨタ方式の生みの親である大野耐一氏は「自働化」と人偏のついた働くが良いと主張しています。

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