14 - 3 父からのリクエスト | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

 武彦はまた息子の眼に視線をあてた。

 「カズとジャンヌ・マリーが仲がいいのを見て、ふたりには援助を惜しむまいと一時は腹を決めたが、いまの話で考えが変った」

 和秋は父親の口から出た言葉を予期どおりと受けとめながらも悲哀が抑えがたくこみ上げてくるのを感じた。

 「いままでのように気持ちが通い合った家族じゃなくなる。ばらばらの欲望をもった三人が寄り合って暮らすだけになるだろう。カズと時子のために犠牲になって働いてきたが、僕だって絵や音楽をやりたかったよ。もう自己犠牲はやめる。僕はやりたいことをやるから、お前もやりたいことを自分の責任でやりなさい。自信をもってやることだ。どうしてもという時だけは助けるがね。

 僕は労働者の国際連帯という理念と企業の競争力の強化という矛盾する力学の中で仕事してきた。その結果、障害者と健康人、病人と健康人って人間の新しい関係に突き当たった。僕は人間が社会生活を営んでゆく上で連帯という感情は不可欠だと思うから、仕事でも最大限、連帯意識を活かそうと努めてきた。

 そこでカズにひとつだけリクエストがある。いろんな民族と友情を分かちあうような生き方をして欲しい。カズはムホクとケバウへの友情のために父親を裏切り情報を盗んだ。それはそれでいい。友情って尊いもののために父親への義理を捨てたわけだから。これからの国際社会でいちばん大切なのは友情だ。日本人が友情と信義に篤い民族だってことを時には身体を張って行動で示して欲しい」

 武彦は息子を少しうるんだ眼でみつめた。

 和秋はうなだれていた顔を挙げ父親の眼を見た。

 ふたりの間の信頼がすこし回復したようだった。和秋は何か話したかった。

 「シャノワール先生のところでずいぶんひどい日本の悪口を聴かされた。日本は戦争で犯した罪をまだ謝罪していないって」

 (つづく)

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