「七万フランだよ。母さんの絵の代金取りたてを手伝って三万フランもらった」
武彦の表情が一瞬ゆがんだ。顔から血の気が引き和秋に向けていた視線がそれた。悲しみの底に沈んでゆく父親の気持ちが息子にもありありと見てとれた。気まずい空気がふたりの間に流れた。やがて武彦は気を取り直し、なおも沈んだ声で言いかけた。
「母さんがお前がなにかアヴァンチュールに巻き込まれてるんじゃないかって心配してたぞ。自分もアヴァンチュールしときながらな…」
和秋はユーモアでまぎらわそうとムリに作った笑顔が父親の顔にこわばりつくのを見た。
「シャノワール先生は日本語を手伝ったのにほんのちょっとしかくれなかった。残りはケバウから貰ったんだ。隠してると気持ちが悪いから、ほんとのこと言う。父さんのコンピューターから盗んだ情報をケバウに渡したんだ」
「なんの情報?アキレスの入札情報か?」
武彦の表情は驚きからすぐにあきれに変った。和秋は一度だけ頷いてすぐに続けた。
「ケバウの所属するNGOの資金作りに必要だったんだ。その組織は日本の入札企業から頼まれた」
「いったい幾らもらったんだ。カズ」
「十万」
「ふーん」武彦は溜め息を吐いた。
「僕のサラリーの五ヶ月分だ」
(つづく)
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