和秋が家に着くと武彦が出てきて積み荷を見て驚きの声を挙げた。
「デルタプレーンなんだ」
「ええ?パイロットにでもなるつもりなのか?」
荷降ろしを手伝いながら武彦が訊いた。
和秋は、武彦に、空を飛ぶ夢をたびたび見るし、デルタプレーンで滑空してるのを見たら、たまらなくなった。スクールに通って昨日ライセンスを取った。プレーンは買ったんだ。ムホクのコンサートとシャノワール先生の翻訳を手伝った礼と時子の絵の代金を取りたてて貰った金だ。
ムホクの知り合いがデルタの製造販売会社に居て、格安で入手できた。ケバウと購入費を折半し、うちにはガレージがあるので預かることになったと嘘と本当をまぜて言った。
武彦のコンピューターから情報を盗んだことにほんの少し良心の咎めを感じはしたが、ムホクとケバウを助けるのに必要だったし、幾つか重なった偶然が嘘を自然らしく見せてくれたので、悪いことをしたという自覚はなかった。
武彦はデルタ・プレーンがコンサートや翻訳を手伝ったくらいの礼金で購入できるものではなかろうと訝ったが、時子が嬉しそうな顔をしているのをみると、和秋にレイモン・ルフェーヴルとかいうハンサムな製鋼所の部長から取り立てた絵の代金をやったのは本当なんだろうと思い直した。息子が真っ直ぐに彼の眼を見て、時子の絵の代金を貰ったと言った時には、くすぶっていた嫉妬と猜疑の炎はふっと消えた。
(つづく)
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